第七十三話『謎の空間』
さらにしばらくカジェタノさんからの質問が続いたが、どれもモリ・ハルドのことに関するものばかりだった。「モリ・ハルドでの生活はどうだった?」や「ロジェとはうまくやれてる?」などの質問である。ロジェさんのことに関する質問はロジェさんが翻訳することを少し嫌がっていたが、私が分からないという顔をすると翻訳したことを言ってくれた。
さらに蒸気機関車は進んでいく。太陽がだんだん傾いてきた。さらに進んでいると、私は外にとんでも無いものを見た。
(穴?あそこだけ、空間が切り離されているみたいな……)
世界に大きな穴が空いているのでは無いかと錯覚するほどに、大きな空間のようなものがそこにはあった。現代的な建物のようなものがその空間の外側に円状のように広がっているが、どれももうずっとそこにあって、手入れもされておらず、破壊されているようだった。一番外側のものは原爆ドームのような形で残っているものの多かったが、中心に近づくにつれそのようなもののどんどん小さくなり、中心は何もない更地であった。
ロジェさんとカジェタノさんも私の後ろから窓の方を見ている。そして二人とも悲しそうな顔をしていた。
「あの……あれは?」
と私が聞くと、ロジェさんが答えた。
「あれは、前の文明の、戦争の後。どうして、ああなった、のかは、よくまだ、分かってないけど……前の文明じゃなくて、今の文明の昔の本にも、同じような、ものがあったって、ある。それに、」
とロジェさんは言葉を詰まらせる。そして続けていった。
「……あの、あそこに入った人、はみんな、死ぬ。みんな、溶けて消える。」
その言葉に私は鳥肌がたった。あの現代的な建物を見る限り、この文明で作られたことで無いことは何となく理解できていたが、あれが、前文明の戦争の跡と考えるととんでもない兵器を作り出したのではないかと思う。あれほどの広範囲に及ぶような爆弾があるのだろうか。
(原子爆弾、水素爆弾……どれも違う感じがする。)
それに、前文明から3000年も経過しているにもかかわらず、残り続けていると言うのは少しおかしな話な気もする。まだ、私たちの時代にはできていないような凄まじい兵器なのだろう。さらに溶けて消えるってどう言うことなのだろうか。
「あの、溶けて消えるってどう言うことですか?」
とロジェさんに聞くと、ロジェさんは眉を顰めて答えた。
「そのまま、の意味……?溶ける、で消える。」
「人がですか?」
「人も他の生き物も。全部。」
とんでも無いものである。兵器ではなく、化学施設から飛び出した有害物質の可能性もありそうな感じがしてきた。ロジェさんは私の方を見て、
「怖い?」
と聞いた。
「それは、そうですけど……。」
と答えると、ロジェさんは
「ごめんね。怖がらせた。」
と言った。
「そんな謝るようなことじゃ無いです!」
と言うと、ロジェさんは少し笑ってから、
「そうなの?」
と言った。ロジェさんは私を傷つけたと思ったらすぐに謝る。そんなところがいいなと思うし、もう少し信頼してもらいたいとも思う。信頼というよりも対等になりたい気がする。ロジェさんは私によく気を使うし、よく悩み事も受け止めてくれる。私もいつかそんな対等な関係になれるのかと思った。
夜が深くなり、車内が電灯の明かりだけになる。モリ・ハルドでは電球はあったとはいえ、基本的な照明は蝋燭だったので、電灯が灯っているのは少し変な感じがする。
しかし、急にバチンという音を立てて、電灯が消えた。急な大きな音でびっくりしてしまったのも束の間、ロジェさんが
「大丈夫?」
と聞いてきたので、
「大丈夫です……ちょっとびっくりしちゃって……。」
と返した。ロジェさんは私に
「それなら、良かった。」
と返し、扉についている金具を横に扉の横についている金具に引っ掛ける。どうやら扉には元々鍵はつけていなかったらしい。だから、ロジェさんが夜になるから鍵をつけたのだろう。列車で夜を越すのは初めてだ。ロジェさんは私に言った。
「明日は船に乗る、から、ゆっくり寝てね。」
その言葉に私はうなづき、ロジェさんに取ってもらった毛布をかける。カジェタノさんも眠そうにしていたので、カジェタノさんも自身で毛布を取り出ていた。
「おやすみなさい。」
というと、ロジェさんが
「おやすみなさい。」
と返し、カジェタノさんも慣れない様子で
「おや、す、み、なさい?」
と言った。私がその言葉にうなづくと、カジェタノさんは嬉しそうにすぐに眠りについてしまった。私もゆっくりと目を閉じた。




