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第六十四話『決心』

 「リン、ちょっといい?」


ロジェさんが私の扉を叩き、そう言った。


「はい。」


と少し緊張してそう言い、ドアを開けると、ロジェさんが真剣で少し眉を顰めたような顔をしてそこに立っていた。やはり、何か私のことが嫌になったとか、軍隊の人に連れて行かれるとかなのだろうかと色々なネガティブなことが頭に浮かんだ。


「リン?」


「はい!」


顔が上げられない私にロジェさんは優しく声をかけた。そのことに驚いてしまい、声が少し上擦ってしまった。ロジェさんは


「今、話したいことがある。」


と言って、また眉を顰めた顔に戻り、先にリビングの方へと言ってしまった。少し、空いたままの扉が可哀想に見えてきた。


(話したいことってなんだろう。)


眉を顰めたロジェさんの顔がとても気になった。マリアーベルさんに怒っていた時には同じ眉を顰める感じでも、また違った感じがした。


一抹の不安を抱えながら、リビングに向かうといつも朝ごはんを食べる時に座っている机の椅子にカジェタノさんと、ロジェさんが正方形の机の角を囲むように座っていた。カジェタノさんは私に気がつくと、こちらに向かって笑顔で手を振り、ここにどうぞと言わんばかりに手で椅子を指した。私がその椅子に座ると、ロジェさんと対面で座る形になった。


私はガチガチに緊張してしまい、手汗が止まらなかった。すると、ロジェさんが神妙な面持ちで話し始めた。


「リン、私と一緒に、学校に来て、ほしい。」


「学校って、ロジェさんが行ってたっていう……?」


「そう。」


「あの、どうして……?」


私がそう聞くと、またもやロジェさんは眉を顰め、目線を下げて、考え込んでしまった。カジェタノさんはそんなロジェさんの様子を見て、


「******、*******。」


と何かを言った。その言葉に触発されたように、ロジェさんは、私に向かって目線を上げる。そして私に言った。


「……戦争が起きそう、だから。リンも、一緒に、学校に、逃げてほしい。」


「戦争……。」


戦争のことなんて、考えていなかった。考えていなかったといえば、嘘になる。なぜなら、ロジェさんの発言の中やミラのお父さんなど戦争の一片のようなものは感じとってはいた。しかし、戦争が起きるとは考えていなかったし、私がその中の当事者になるなんて思っていなかったのだ。私が分かる戦争は歴史の中のものなのだ。


(このモリ・ハルドが壊滅的な状態に……。)


そう考えると、なんだか胸がはち切れそうだった。この国にはたくさんの優しい人がいる。そんな人たちがこれから戦火に飲まれるというのだろうか。


「ロジェさん、でも、この国にはたくさんの人たちがいて、私にとっても大事な人たちで……だから、そんな人たちをおいて逃げるなんて、できないです。」


そう、ロジェさんに伝えると、ロジェさんは少し驚いた表情をした後、私に言った。


「それは、私のせい、私の親が関わっている。だから、他の人は大丈夫。」


(親の関わり……?)


どういうことだろうかと疑問に思っていると、ロジェさんは少し顔を下に向け、


「まだ、言えない。でも、私が今、怖いのは、私のせいで、リンが巻き、込まれる、こと。だから、お願い。」


まだ、いまいちよく分からない。でも、ロジェさんが今私を必死に説得しようとしていることは伝わってくる。周りの、この国の人たちが無事であるなら、大丈夫なのだろうか。


「……分かりました。私も一緒に学校に行きます。」


「……リン!」


ロジェさんはその言葉に顔をあげて、驚いたような、嬉しいような顔をした。


「でも!ちゃんと話してくださいね。……待ってますから。」


そう言うと、ロジェさんは


「……分かった。」


と真剣な顔をしてうなづいた。その会話を見ていたカジェタノさんは私たちの二人の顔を見た後、嬉しそうにうなづき、手を叩いて、


「**!******、******!roje, rinn!」


と言った。その言葉にロジェさんはうなづき、私にこう言った。


「明日には、出るから、用意して、ほしい。……それと、ご飯食べよう。」


明日にはもう出ることに驚きながらも、緊張をしすぎてお腹が空いていたことに気づく。


(そういえば、お腹すいた……。)


その考えに呼応するように私のお腹が鳴った。恥ずかしい気持ちになり、一生懸命に下を向いていると、ロジェさんとカジェタノさんの笑い声が聞こえた。


「リン、そんなに、お腹すいたの?」


とロジェさんは笑いながら言った。


「……忘れてください。」


私は声を絞り出して言った。すると、ロジェさんはさらに笑って


「すぐに作る、ね。」


と言った。

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