第六十三話『二人の会話』
<>の中はルイーニャー語です。
ロジェとカジェタノはソファにゆっくりと腰を下ろした。彼らは学校からの旧友で、ルームメイトとして共に日々を過ごした過去がある。彼らを繋ぐ言語は学校で使われていた学術言語であるルイーニャー語であった。
「<ロジェ、リンは奥さん、それとも婚約者?>」
「<どっちでもない。……それ、街のお爺さんにも聞かれた。>」
そうロジェは返すが、耳が真っ赤になっていることにカジェタノは気づいた。そしてそれを揶揄うように言葉を続ける。
「<なのに、一緒に住んでるの?>」
「<……大切な人だから。>
ロジェは外出時につけていたリンからもらったマフラーを手に取る。ロジェがそのマフラーを穏やかで、優しい目をして見つめるので、カジェタノはそれがリンから渡されたのもであることに気づいたようだった。
「<……そっか、なら良かったね。>
「<そんなことよりも、大事な話があるって、>」
「<ああ、単刀直入にいうと、学校に戻ってきてほしい。>」
「<……どうして?>」
ロジェはそのことに対して疑問の念を抱いた。
「<ロジェ、驚かないで聞いてくれ。君への手紙は今いくつ来ている?>」
ロジェはその言葉だけでカジェタノの言っていることが理解できたようだった。
「<…2通、それも最初の一年だけ。>」
ロジェはそう返した。カジェタノはその言葉にさらに驚いた。
「<なんでもっと早くに言わなかったのさ!ちゃんと出すよ!>」
「<やっぱり、送らないみたいになったのかと思って。>」
「<ロジェの自己肯定感低いところどうにかしてよ……。俺のこと軽くあしらうぐらいには自己肯定感上がってきたのかな?とか思ってたのに……!>」
「<それは、ごめん。>」
「<俺たちが出したのは全部で14通。>」
「<14通も出したのか!?>」
「<”も”って何!?”も”って!もっと出そうと思ったら、俺たちアレック先生に止められたんだけど!>」
そう言ってカジェタノは不屈だと言わんばかりに、ロジェに抗議した。そしてロジェは本題に戻そうとため息をつきながらこう言った。
「<要するに、返事が来なくて、私の手紙がバルレッドからモリ・ハルドに来るまでにどこかで検閲がかかって、それで届かなくなっている、ということ?>」
「<その通り、それに俺たちは至って普通の手紙を送ってる。最近調子どう?とかこっちの様子とかでも、引っかかってる。君の名前が原因だと思う。手紙がモリ・ハルドがポリットからの支配が戦争下において強められたから、その時になんらかの形で軍部から検閲が入るようになったんじゃないかって。>」
「<それで、どうして今?二年前だったら今ので説明ついたかも知れないけど。>」
そうロジェは返した。先ほどからカジェタノはどうして学校に戻ってきて欲しいのかについての理由を述べていない。ロジェの言葉にカジェタノは戸惑いながらも言った。
「<ロジェに避難してきてほしい。>」
「<避難?>」
「<モリ・ハルドが極めて攻められにくい土地だっていうのは知っている。ポリットにとっては唯一の陸の交易ルートを担っているから。でも、ポリットが作霖に対して宣戦布告をした。……ロジェ、君が思っている以上に今の君という身分にとって、モリ・ハルドは危ない。>」
「<いや、その理由であれば、私はモリ・ハルドに残る。>」
「<どうして!?>」
カジェタノは少し不満そうにロジェに聞いた。ロジェは真剣な目つきのまま答える。
「<私は戦争によって死ぬべきだと思う。色んなことを考えるけれど、最終的には戦争のいざこざで死ぬのが私にとってふさわしいよ。カジェタノ。>」
そうロジェはどこか達観したような目つきで言った。それにカジェタノは怒り、
「<ロジェ!俺は!友達として心配しているんだ!……友人が生きることを諦めるのを見逃すほどの友情の薄さじゃないんだけど。>」
と言った。その怒りから、ロジェは少し返事に戸惑う。それにカジェタノは追い討ちをかけるように言った。
「<ロジェ。俺はロジェの生きた証を残したい。だからロジェ、戦争によって死にたいなんて考えないで。……避難して、もっと学校で論文書いてから死んで欲しいよ。>」
最後のはロジェには最後の一文が引っかかったのか、少し笑いが漏れた。
「<どうして、笑うのさ!>」
「<いや、だって、論文書いてから死んでほしいって。>」
そう言って、ロジェは笑いながら、
「<分かったよ。行くよ、学校。リンも戦火には巻き込みたくない。……でも、戦争の緩和が見れたらすぐにでもモリ・ハルドに帰るよ。もう、ここは私の故郷のようなものだから。>」
そう言ったロジェのことをカジェタノはじっと見つめ、
「<良かった。>」
と言った。カジェタノの目には少しの戸惑いと、嬉しさが映っていた。




