第六十二話『カジェタノさん』
雪に埋もれたカジェタノさんは雪の中から自分の力で立ち上がった。雪にはカジェタノさんのコートの形がくっきりと残されている。カジェタノさんは自身についた雪を払いながら、ロジェさんに
「**、******!」
と何か抗議をするように、ロジェさんの肩をボンボンと叩いた。察するにおそらく、「ひどいじゃないか〜」みたいな感じではあるのだろう。別にそこまで怒っているという感じではなく、笑いながらそう言っていた。ロジェさんはその手を自身の手で軽くあしらい、
「caje, *******、******。」
と言ってドアを開けた。そして、ロジェさんは私に
「リンも、寒くなる、から、入って?」
と言った。ロジェさんがそう言ったのに対し、カジェタノさんは何を思ったのか、
「***、*******?」
ととても不思議そうな反応をしていた。もしかしなくても、ロジェさんが私に対して日本語、正確にいうと古代言語と考えられている日本語を使ったからだろうか。この人もロジェさんと同じく学校に通っていたのであれば、なんとなく分かるのかも知れない。この人は、ロジェさんが以前言っていた英語であるアルビオン語を勉強している人なのかも知れない。
ロジェさんはそんなことは今はどうでもいいとでもいうようにカジェタノさんの肩を叩き、入ってと言わんばかりであった。カジェタノさんはそれにやれやれとでもいうように肩を落としながら、扉の中へと入っていた。私もそれに続けて、家の中へと入った。
カジェタノさんは暖炉を見て、コートを脱いだ。そして、ロジェさんに何かを話した後、暖炉の前にあるソファに座り、暖をとっている。なんとなく、今までは家にロジェさんと私しかいなかったので変な感覚がある。ロジェさんはそんな表情の私を見て、言った。
「カジェ、カジェタノは私の学校の友達、寒いみたい。」
「モリ・ハルドは寒いですからね。」
私はカジェタノさんの考えに激しく同意する。すると、ロジェさんは少し首を傾げて、
「そんなに?」
と言った。さらに続けて、
「カジェタノにさっき、手にこうされてたけど、大丈夫?」
と言って、ロジェさんは自身の手にキスをするような動作を見せる。見られていたことに若干の恥ずかしさを覚えた。先ほどのは、本当に王子様みたいでびっくりしたけれど、今思い返すと本当に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。
「……大丈夫です。」
というと、ロジェさんは、
「本当に?」
と聞いてきた。そんなロジェさんの様子を誤魔化すように私は言葉をかける。
「本当です!本当に大丈夫です!えっと、さっきのはキスって言って……。」
そんなことをベラベラと話していると、ロジェさんは少しむすっとした表情になった。ロジェさんに誤魔化したことが何か不機嫌の要因になってしまったようだ。私が何かしなくてはと焦っていると、カジェタノさんが後ろから私たちの間に抱きつくような形で割り込んできた。
「rinn, roje **,******?」
「カジェタノさん……。」
カジェタノさんはロジェさんがどうして不機嫌になってしまったのか分かるのだろうか。そう思い、名前を呼び振り返ると、カジェタノさんは、ロジェさん顔をチラッと見た後、何かを察したようにこちらを見てこう言った。
「**、******caje!」
そうして何かを期待するように、自身を指さしている。カジェタノさんはロジェさんから”カジェ”と呼ばれているのでその名前で呼んで欲しいのだろうか。
「カジェ?」
というと、カジェタノさんは嬉しそうに笑った。カジェタノさんの言語は全くと言っていいほど分からないが、何を言いたいかは伝わってくる。本当に、ボディーランゲージは大事な感じがする。カジェタノさんのこのグイグイとくる雰囲気はどこか、ディーヴさんを彷彿とさせるようだった。
ロジェさんは、カジェタノさんの口を手で塞ぎ、
「あんまり、カジェタノのいうこと、聞かないでいい、から。」
と言った。何か変なことで言っていたのだろうか。
「もしかして、あんまり、カジェタノさんと話さない方がいいですか?」
「……そういうことじゃないけど、」
そんなことをロジェさんと話していると、カジェタノさんが口を抑えているロジェさんの手をどかして、
「**!******、roje!」
と不屈そうに言った。しかし、その後、カジェタノさんは真剣な顔をして
「roje,*******。」
と何かを言った後、ロジェさんも真剣な表情になった。そして少しロジェさんは考えたあと、
「ごめん、リン、少し、ちゃんとした、話、する、から。部屋にいて、欲しい。」
と申し訳なさそうに言われ、私は、
「わかりました。」
と言って部屋に戻った。一体どんな話をしているのだろうと私は頭の中で考える。もし、私が作霖の人っぽいからあまり一緒にいない方がいいとか、ジパング語を話す人なんておかしいとか、そんなことを言われたらどうしようと考えてしまった。居ても立っても居られないが、私があまり口を出すような話でもないような気がする。少し不安を抱えながら、ベットにある枕を抱きしめた。




