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第六十話『シチュー』

 冬に家にこもってから何回かの夜が明けた。吹雪が窓を打ちつける音が最近聞こえなくなり、ロジェさんは


「そろそろ、大丈夫かも。」


と言った。おそらく、外に出れるようになるのだろう。最近では、授業の準備も着々と進めるようになってきた。ロジェさんはというと、「学校に書く報告のもの?」を書いているらしい。おそらく論文のことだろう。以前、論文を見せてもらったが、日本語で書かれているところにルイーニャー語での解説のようで書かれているため、全く意味はわからないが、文法的なことなどが書かれているのだろう。


ロジェさんが論文を書いているので、今日は私が一人でご飯を作ることになった。ロジェさんは


「申し訳ない。」


と言っていたが、論文が今ちょうどノリに乗っているのであれば、その手を止めさせるわけにはいかないので、


「私が今日は作ります!」


と言って押しきった。最近では、こう言ったちょっとした話でも私を頼ってくれることが多くなったのが、少し嬉しく感じた。


地下室への扉を開けて、ジャガイモ、にんじん、玉ねぎを取り出した。さらに小麦粉、バターなどを取り出せば、材料の準備は完璧である。冬の前に買ったものが、まだ少し残っている。こんなに置いていてもまだジャガイモから芽が出ていないので、温度によるものなのだろうかと思った。


上に上がり、野菜類を水でしっかりと洗い流し、まな板と包丁を取り出す。まな板の上に野菜を置き、皮を剥いて、一口代のサイズに切り分けた。この世界にはまだピーラーが存在していないので、野菜の皮を剥くのは一苦労である。火を起こすのにはだいぶ慣れたがまだ、ロジェさんほどスムーズにはできない。


火を入れるための鉄の扉を開け、そこに火を入れる。最初は小さな木片に火をつけ、そこからどんどんと火を大きくしていく。木の組み方にはコツがあるみたいでロジェさんみたいに見よう見まねでやってみる。だいぶ、火が強くなったところで、鍋を鉄の上に置く。


あったまった鍋に野菜を入れて、木べらで炒める。しっとりしてきたら水を入れて軽く蓋をして待つ。そして、小麦粉とバターを入れて軽く炒めたあと、牛乳を入れてまた軽く煮込めば、クリームシチューの完成である。お母さんに教えてもらったクリームシチューのルーがないときのクリームシチューの作り方である。最初はポトフを作ろうと思ったが、ポトフは昨日食べたばっかりだったので、お母さんが教えてくれたレシピを思い出してほっとした。


ロジェさんに声をかけに2階まで階段を上がる。ロジェさんの部屋は2階の本棚を突っ切った奥の方にあり、小さな机と椅子が置いてある質素な部屋だ。ベットは別のところに置いてあるので、部屋というよりも書斎のイメージに近い。扉をノックをして、ロジェさんの部屋の扉に


「ロジェさん、ご飯できました〜!」


と声をかけるが、返事がない。勝手に入っていいものなのだろうかと思い、こっそり扉を小さく開けると、ロジェさんはまだ、論文を集中して書いていた。ロジェさんの集中している横顔は今まで見たことないぐらい真剣な顔つきをしていて思わず、ドキッとしてしまう。


ロジェさんはこれでもまだ気づきそうになかったので、もう少し扉を開けると、扉からギギっと音がした。その音にロジェさんが反応し、私の方へと振り返った。


「ご飯?」


ロジェさんがそう聞いたので、


「はい!……今大丈夫でしたか?」


と私が聞くと、ロジェさんは羽ペンをペン立てにおき、インクの入った瓶の蓋をしめ、


「うん、大丈夫。」


と答えた。


 ロジェさんが一回に降りてきたので、火がついた鉄の扉を閉める。こうすることで、自然に炎が消えるそうだ。おそらく、酸素が少なくなるからであるとは思う。ロジェさんにクリームシチューを渡すと、ロジェさんは


「これ、何?」


と聞いてきた。


「クリームシチューです。」


と答えると、


「初めて見た。」


と返される。クリームシチューはこういった地域、もっと言えばヨーロッパ発祥のものだと思っていたのだけれど違うのだろうか。日本はよく食に関しては魔改造をするため、シチューはヨーロッパ発祥だけれど、クリームシチューは日本発祥みたいなこともあるのだろうか。


そんなことを考えている間に、ロジェさんは、胸のペンダントに手を当て、


「tire morke、いただきます。」


と言ったので、私も同じように


「いただきます。tire morke!」


と言って手を合わせた。ロジェさんのペンダントはティレである、白い鳥を模したものであるらしく、キリスト教でいうところの十字架みたいなもののようであった。ロジェさんが口にクリームシチューを入れる。口に合わなかったらどうしようと思っていたが、ロジェさんが目を輝かせて


「美味しい!」


と言った。そのことがとても嬉しかった。


「よかったです。」


と私がいうと、ロジェさんは


「今度、教えて、欲しい。」


と言った。


「もちろんです。」


と私がいうと、ロジェさんは嬉しそうに返した。そして、ロジェさんは思い出したかのように言葉を紡いだ。


「リン、リンの名前、学校のまとめるものに、書いてもいい?」


「いいですけど……。」


「ありがとう。」


ロジェさんが質問した意図がよく分からなかったが、何となくロジェさんの研究したものに自身の名前が乗ることが役に立ったようで嬉しかった。

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