第五話『”古代”言語』
「リン、私、あなたの言葉、知っている。昔、言語、**の言葉。」
「じ…?」
「ジパング。」
「!…ジパング!?」
ジパングについては聞いたことがある。世界史では確か、マルコ・ポーロが東方見聞録で日本のことを示すときに使っていたと習ったと思う。もしかしなくてもこの世界には日本は存在しているのだろうか。そんなことを考えていると、ロジェさんは私の反応にびっくりしたのか、目をぱちくりさせていた。
「ジパング、知っている?」
ロジェさんは私がジパングを知っていると思ったらしい。
「ジパングは多分、日本だと思います。」
と私がいうと、
「ジパングは、にほん?凛は、昔の人?」
と言われたので、昔?なのかはよく分からなかったので、困惑していた。すると、ロジェさんが話始めた。
「ジパング、4000年前の国。」
ー4000年前?
ー私はタイムスリップしてきたってこと?
困惑して、俯いていると、ロジェさんが心配したように私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です。」
慌ててそう答えたが、ロジェさんはまだ心配したように私を見つめていた。タイムリープだとしても何かがおかしいことに気づく、私の考えていた4000年後とはかけ離れた家具や家、街の様子とはかなりかけ離れていたし、技術もライフルはあったとしても、電気の主流はおそらく白熱電球である。
ータイムスリップしたのが、もしも過去であれば、この状況には納得いったけど、未来?本当に?
と色々考えていると、ロジェさんはさらに言葉を紡いだ。
「ジパングを、勉強、する、人、私、だけ。だから、言葉、うまく、言う、ない。まだ、3年だけ、勉強、する。」
私にとっては衝撃的である。ジパングの言葉を話している人はおそらくもう存在していないようである。そして、ロジェさんが言葉がカタコトなのは、まだ研究が不十分なようであることが理解できたし、ロジェさんだけしか、研究をしていないのであれば、研究資料も不足しているのではないかと考えた。
「私、凛、ジパング、帰る、手伝い、する。できる、分かる、ない、けど。」
とロジェさんは言ってくれた。私は、
「…ありがとうございます。お願いします…!」
と笑顔で言ったものの、内心はすごく迷いの気持ちでいっぱいであった。
元の日本に帰りたい気持ちはものすごくあるものの、元の日本に戻ったとして、おそらく、また受験勉強の日々に戻るのだろう。
それ自体は別にいいのだが、ロジェさんにおそらくたくさんの負担をかけることになるのだろう。今朝は朝ごはんを2人前作ってくれたし、研究で忙しいのはわかっているのに、それ以上に私が日本に帰るということまで調べていただけるのだろうと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになるのである。
私はまた、この未来の世界でも人にいっぱい迷惑をかけて生きていくんだろうとネガティブな気持ちに駆られた。
「…ごめんなさい。」
私に言えるのはこれだけだった。迷惑かけることも迷惑をかけていることもそうである。私は…。すると、ロジェさんが言った。
「謝る、しない、大丈夫?」
私はロジェさんのその声に顔をあげた。精一杯の慰めの気持ちなのだろうというのが、目線と声から伝わってくる。ロジェさんは本当に私のことを心配して声をかけてくれた。私は、こんな素敵な人に気を使わせてしまったのだと思った。それと同時にロジェさんの役に立ちたいと思った。
「私に、研究のお手伝いをさせてください!!」
と私は決意表明のようにいうと、ロジェさんは
「けんきゅう?」
と研究の意味が分からないようで、少しズッコケそうになったが、私が「ジパングを勉強すること」と教えると、嬉しそうに笑顔で喜んでくれた。
しかし、ロジェさんは私の全身を見た後に言った。
「まず、服、買う?」
「…買いたいです。」
昨日の朝から変えてなかった上下スウェットの服は、確かに変えたいとは思っていたが、まさかこのタイミングで言われるとは思っていなかった。




