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第五十六話『言語』

 「リンは、”ありがとう”を”ありがとうございます”言うけど、何が違う?」


「”ありがとうございます”は”ありがとう”の丁寧な言い方です。」


「じゃあ、”おはようございます”も”おはよう”の丁寧な言い方?」


「はい!そうです。」


「じゃあ、”こんにちは”は”こんにちはございます”?」


「えっと、”こんにちは”には”ございます”をつけないです。」


「?”こんにちは”の丁寧な言い方?はどうなるの?」


「……”こんにちは”そのものが丁寧?なのかもしれないです……。ごめんなさい、分からないです。」


「大丈夫、ありがとう。」


そう言って、ロジェさんは次の質問に移った。


「”おやすみ”は”おやすみなさい”?」


「はい。」


「”ごめんね”は”ごめんなさい”?」


「はい。」


「”ごめんね”の”ね”はどうして付く?」


「えっと、”ね”は優しい言い方にできます。終助詞、えっと、語尾、文章の後ろにつけるものの一つで”よ”とかも同じです。」


「”よ”?」


「はい、えっと”これはりんごですよ”みたいな感じです。」


思ったよりもロジェさんは私の話し方を観察をしていたようで、たくさんの日本語に関する疑問を聞いてきた。日本語を喋っているのにも関わらず答えられない疑問があることがたくさんあるのが不甲斐ない。日本語のこともっとちゃんと勉強していればよかったのかもしれない。


ロジェさんは私の言ったことを紙に記録している。羽ペンを持ち、インクをつけながら、日本語とその脇にメモのように私には分からない文字を書いていた。その文字は以前見たポリット語ではないことはわかった。


(何語なんだろう…。)


この世界にも英語のように世界共通語があって、それを使っているのだろうか。それともラテン語みたいに教養のある人にしか使えない文字なのかもしれない。


そこで、ハッとする。異世界語は一つではない。国によって様々な言葉があるということを実感した。モリ・ハルドの言葉であるポリット語については少しわかるようになったが、もし、他の国に行くことになったら、同じ異世界と言っても何も通じないのだ。そのことに若干の不安を覚えた。


「ロジェさんは、どのくらいの言語、言葉を話せるんですか?」


「えっと、古い言葉も、入る?」


「えっ!他の古代語、古い言葉も話せるんですか?」


ロジェさんはうなづく。そしてロジェさんは指で数え始めた。一つ二つと指を折っていくたびに驚いてしまう。6つ目の指が折られたところで、


「このぐらい?」


とロジェさんは言った。そんなに喋れることにびっくりする。


「具体的にどの言語ですか?」


「ジパング語、ポリット語、ルイーニャー語、ポレ語、ハミルト語、後、漢語。」


「漢語?ですか?」


「漢語は昔の言葉。今の、作霖の言葉の、元の言葉。私は、学校で、勉強、した。」


「じゃあ、ジパング語って、」


「私が、一人で、勉強する。」


ジパング語については勉強している人がいないと聞いていたが、古代語については大学での勉強が行われているようだ。


「あの、これは?」


と言ってロジェさんが書いていた紙を指さしてみる。するとロジェさんは


「これは、ルイーニャー語。」


と教えてくれた。


「そんなに話せるなんてすごいですね。」


「そんなことない、もっと、話す、できる人いる。」


ロジェさんは少し照れたように笑った。


 その後も、質問に答えていると、ロジェさんが、活用の話について聞いてきた。


「行く、したい、はリン、どう言う?」


「行きたい、です。」


「買う、したい、は?」


「買いたい、です。」


「どうやって考える?」


「えっと……。」


上二段活用や下二段活用などの古典での知識が頭をよぎる。しかし、今回は現代語だ。確か、中学の時にやったような気がする。似てるなと思いながら高校では古典の活用方法を習ったのだ。しかし、ロジェさんに言っても伝わるのだろうか。そもそも、この活用の方法は確か動詞に「〜ない」をつけてa,i,eのどれになるのかを調べてから考えるものだ。


頭を悩ませてから、ロジェさんに考えを伝えてみる。


「えっと、分別方法と言いますか、そう言うのはあるんですが、その、ジパング語に精通している、よく話せる人じゃないと厳しくて……。全部覚えられますか?」


というと、ロジェさんは


「大丈夫、できる、リンには、迷惑かける、かも、しれないけど。」


と言ったので、私は


「全然迷惑ではないです!私も一緒に頑張ります!」


と一生懸命に言うと、ロジェさんは笑って


「ありがとう。」


と言った。日本語を教えるには私の技量が問われる。ロジェさんがいくら頭がいいからと言っても、私の説明がポンコツであれば、できるものもできないだろう。そのため、


「ちょっと待っててください。」


と言って私は頭を悩ませて、どんな風にすればいいだろうかと考えた。

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