第五十二話『お爺さん』
「食べるもの、買う、で貯める、したいから、今から、行く、いい?」
とロジェさんが言った。私もうなづき、街の方へと足を運ぶ。以前、買い物にはロジェさんと一緒に来たことはあるが一回程度で、野菜を少し買っただけである。ロジェさんが軍の人たちに教えに行く時や、私がディーヴさんに予定がある時にロジェさんはすでに買い物を済ませているので、私がついて行く必要もないからである。
今日は心なしか人が多い気がした。ロジェさんは
「雪の前だから、人が多い。」
と言った。他の人たちも雪に備えて買い物をしにきたようだった。見た感じラジオやテレビなどの全体で一斉に情報を伝える手段がないにも関わらず、雪が降ると思って事前に買いに来ているのが変な感じがした。天気予報などもないのに一体どうしてそのようなことがわかるのかとても疑問である。
野菜を買いに行くと、気前のいい女性が
「tire morke!」
と挨拶をしたので、同じように挨拶を返す。ジャガイモが大半を占めているが、玉ねぎ、にんじん、キャベツなどの野菜が置いておる。ここ一帯でおそらく一番大きい八百屋さんだ。
「je roje, zer mittest jedaze rinn!」
ぼんやりと眺めていると、ロジェさんが話しかけられている。一緒に来たことはやはり珍しいのかと思い、もう少し、外に出て行動範囲を広げた方がいいのだろうかとも思った。
ロジェさんはジャガイモを一袋、にんじんを何本か、さらに野菜を何個か買った。ロジェさんが全て持とうとしていたので、
「手伝います!」
というと、ロジェさんは
「大丈……、うん、お願い。」
と言って何個かの野菜が入った紙袋を私に渡した。ロジェさんは先ほどの言葉が強く響いたのか、いつもであれば、大丈夫と言って全部自分で持つところを私に託してくれたので、頼られたのが少し嬉しくなった。
その後も買い物を続けていると、ある男の人から声をかけられた。男の人はだいぶ歳をとっているのように見えた。
「tire morke, je,roje und ……?」
と言ったため、
「tire morke, uii yhe rinn!」
と返すと、そのお爺さんは「rinn, tire morke.」と穏やかな口調で返してくれた。
「roje hafe uiich sparuten, eins lepale to zwei lepales wurden zu hafen.」
と言っていて、なんの話なのかよく分からなかった。
(一人が二人になる?)
私がロジェさんと一緒に住み始めたということだろうか。そんなことをぼんやり考えていると、ロジェさんが
「この人は、barchenを作る、人。この前、食べた時に、もう一回買いに行く、時に話した。」
と言った。それで、美味しすぎてめちゃめちゃ食べてしまった後で、ロジェさんは新しいシュトーレンみたいなbarchenをもう一回買ってきたことを思い出した。お爺さんはロジェさんが再び買いに来たのを見て疑問に思っただろう。だから、一人ではなく、二人になったからすぐに無くなってしまったという話でもしたのだろう。そのことを思い出すと、急に恥ずかしくなってしまった。
「Barchen yh……えっと、barchen haft sehr doii yhen!」
と顔が赤くなるのを隠すように、お爺さんにいうと、お爺さんはとても優しい顔で微笑みながら
「morke, uii yhe sehr birre.」
と返してくれた。お爺さんは私のことを見た後、
「rinn, yhst zer rojes flau?」
と言った。
「flau?」
「ya.」
ロジェさんに”flau”意味を聞こうかと思ったが、ロジェさんが固まってしまっている。どうしたのだろうかと思い、どう答えるべきか悩んでいると続けて、そのお爺さんは再び言う。
「ah……yhst zer wirflau?」
「?wirflau?」
また分からない単語が出てきてしまった。ロジェさんが気を取り戻したのか
「nein, noch!」
とお爺さんに返した。
「noch?」
「noch……nein!nein!」
ロジェさんがお爺さんに揶揄われているのか、ロジェさんは顔を真っ赤にして、否定していた。こんなにロジェさんが顔を真っ赤にして恥ずかしがっているのは初めてみる。何の会話をしているのかは全く分からなかったが、ロジェさんのこんなところはレアだなと思う。
(可愛いかも……?)
ロジェさんが顔を真っ赤にしたまま、熱を逃すかのように手で顔を仰いでいた。お爺さんは特に用があったわけではなく、「bine.」と言ってそのまま去っていった。
「ロジェさん、大丈夫ですか?」
と声をかけると、
「大丈夫。」
と返ってきた。
「何の話をしてたんですか?」
と聞くと、顔は赤くなっていないものの、耳を赤くして、
「気にする、しないで……。」
と弱々しい声で返ってきたので、あまり突っ込んで聞くのも申し訳ない気がして、そのあとはその話題には触れなかった。




