第五十一話『長期休み』
ティレのお祭りがあけ、はや一週間が経とうとしていた。最近では夜でなくとも冷え込んだ空気が感じられ、雪も常に降っているのではないかと勘違いするほどに毎日のように降っていた。外に出れないほどの雪ではなく、パラパラと降り積もる程度だが、ロジェさんは
「そろそろ、外から、出る、できる、ないなるかも。」
と言っていた。雪がこれからさらに降り始めると、外に出るのも厳しくなるそうで東京育ちの私にはとても家から出れないほどの雪は想像ができなかった。外に出るのが厳しくなると言っても、晴れになる日もあってその日は家から出ることができるらしいが、ロジェさんいわく、
「雪を、こう、避ける?屋根から、する、しないといけないから。ほぼそれで、一日が終わる。」
とのことである。いくら石で家ができていると言っても、耐久的に雪の重みには耐えられないのだろう。これから来るであろう猛吹雪はどのようなものなのだろうかと考えながら、今日の授業に行くための準備をしていた。
ロジェさんと一緒に外に出る。ここにきて本当に不思議だと感じることは、雪のこんな寒い時期でも花が綺麗に咲いているということだ。モリは鮮やかな色を輝かせたまま、雪の重みにも耐え真っ直ぐと咲いている。以前、異常気象で桜が咲いた時に雪が降ったとニュースでやっていたのを思い出した。
教会につき今日の授業を終える。今日を一回最後の授業とし、雪が激しくなるまでの間は休みにするとロジェさんは言っていた。今日も子供たちが集まっている。カードを使うようになってからというもの、休む子が少なくなったとロジェさんが喜んでいたのを思い出した。
「ve wordt belt verwiteren. so dese gleess wirdt fur lage plasen.」
と子供たちの前でロジェさんは言った。子供たちは少し悲しそうにしている子もいたし、嬉しそうにしている子もいて反応は様々であり、まるで冬休み前、どちらかというと、より休みの長い夏休み前の教室の反応を見ているようだった。
今週はゲルーノくんのようなクラスの子達はお休みとなっていたので、これからロジェさんが各家庭を回ろうとしていたが、神父さんが、
「uii wirde ollen gezzen.」
と言ったので、ロジェさんが
「konnen car mitten sparuten, dese gleess fur lage plasen zu wirden.」
と言った。それを神父さんが受け入れてくれたため、ロジェさんは「morke.」と返した。長くなればなるほど文法的なことについては全く分からなくなってくるが、何を言っているのかはなんとなく分かるので、それでノリで会話について行くのだった。私も「morke!」と返した。
いつものように封筒を受け取り、感謝を述べてから去ろうとすると、神父さんは、
「uii morke emire, so……」
と言って追加の封筒を取り出した。先ほどいつもの分はもらってので、どういうことなのだろうと思い、ロジェさんの方を見るとロジェさんも固まっていた。申し訳ないと思い、両手を体の前で左右に動かし、「大丈夫です。いらないです。」というアピールをすると、神父さんはとってもいい笑顔で、
「je,roje und je,rinn, veiel morke emire.」
と圧力をかけられ、二人して封筒を慎重に受け取り、「morke.」と私は頭を全力で下げながら、神父さんにお礼をして教会を出た。
封筒にはいつももらっている分以上のお金が入っており、ロジェさんの方を見ると、頭を抱えていた。ロジェさんもその金額に驚いた様子で、どちらかというと困った様子だった。
「ここまで、貰えるとは思いませんでしたね。」
とロジェさんにいうと、
「うん、本当に、リン、これがリンが、いう『申し訳ない』?」
と私に聞いた。お金を出してもらうときに「申し訳ないです。」と私がいうと、ロジェさんはよく分からないという顔をしながら「大丈夫。」と返していた。
私がうなづくと、ロジェさんは納得したような顔をした。今だったらお金を受け取ってくれるかもしれないと思い、ロジェさんに
「じゃあ、受け取ってくれますか?」
というと、ロジェさんは一瞬悩んだ後、首を横に振った。
「でも、ずっと食費払ってもらってますし、他の私が今持っているものの全部ロジェさんが払ってますし、この前のお祭りの時も結局私、一回もお金出してないです。申し訳ないです!」
というと、ロジェさんはやはり、首を横に振った。
(どうしてもお金を受け取ってもらいたい。)
申し訳ないという気持ちが芽生えた今がチャンスと思った私は
「不安になるので、受け取ってほしいです。ロジェさんがお金に困っていなくても、私の気持ちの問題です。……安心させてくれませんか。」
と素直に思いを伝える。
(やけになって、変な言い方をしちゃった。「安心させてくれませんか。」なんて。)
そう思い、少し緊張していると、ロジェさんはいつも折れる私が、そこまで交渉をしてくるとは思っていなかったのか、少し驚いた表情をした後、うなづき、
「ありがとう。」
と言って少し諦めたかのように微笑んだ。




