第四話『朝』
「う〜ん…。」
朝、何かが焼ける音でゆっくり目を覚ました。寝返りを打つとベットの木のほのかな匂いが、鼻腔に入ってくる。起きてみると、いつもの家のベットではない。
ーそっか、異世界に来たんだった。
そう思いながら腰を上げる。しかし、昨日は疲れていたからなのか、いつもよりもぐっすりと寝れた気がして、朝の目覚めは最高だと感じた。部屋の外からいい匂いがする。どうやら、ベーコンのような何かを焼いているような匂いだった。
軽くベットを整え、いい匂いがする方へと足を運んだ。昨日、通り過ぎた部屋だった。すると、横の端の方にキッチンのようなものがあった。そこに昨日の言語学者が立っていた。どうやら朝食の準備をしているようで、言語学者の人はこちらに気づき、
「おはよう。」
と言ってきたため、
「おはようございます。」
と返した。言語学者の人は私に
「座る。待つ。いい?」
と言っていたため、私は何をしていいかも分からなかったので、言葉に甘えて座って待っていることにした。縦、横幅ともに1mぐらいの正方形の形をしたテーブルには足が四本ついていて、椅子がその足の間に向かいになるようにあった。どちらもアンティーク調で暗めの木材が使われており、座るために椅子に触ると、椅子の表面はどこか暖かみを感じる手触りだった。
言語学者の人は私が起きるずっと前に起きていたのか、机の上は整頓されており、蝋燭が2つ置いてあった。
しばらく、部屋の中を椅子に座りながら見ていた。朝日が窓を通して、部屋に入ってきて、埃がキラキラ光っているのが、綺麗だなぁと思いながら眺めていた。しかし、それ以上に、やはり、本が多く乱雑になっているというのが一番の印象だった。
ー本当に研究熱心な人なんだなぁ
そんなことを考えていると、今の自分が元の世界に戻れたとしても、何がしたいのだろうと思う。この言語学者の人みたいに懸命に自分のしたいことが見つかるのだろうかと思った。
「ご飯、できた。」
と言語学者の人が声をかけてきて、一瞬自分が考えにのめりすぎていたため、気づけずにびっくりした。
「あ、ありがとうございます。」
というと、昨日と同じように「どういたしまして」と返ってきた。食卓の上には籠の中に入ったパンが数種類とジャムの瓶、私と言語学者の人の前にそれぞれ、青色の分厚い丸いお皿が置かれ、そのお皿の上にはレタスのようなものと、お肉が円状にぐるぐると伊達巻きの外見に似たように丸められたようなもの1枚置かれていた。
すると言語学者の人がマッチを取り出し、マッチ箱の側面の部分に押し当て、シュッと音を立てて火をつけると、蝋燭に火つけた。蝋燭の火は最初は大きかったものの、次第に小さくなり、安定して灯るようになった。言語学者の人は何かを言って手を胸のところに押し当て、食べ始めた。食べてもいいのだろうかと考えていると、言語学者の人は
「食べる?」
と聞いてきたため、
「いただきます!」
と言って、手を合わせた後、食べ始めた。最初にパンを手に取ると、言語学者の人がジャムの瓶を取って、
「つける、美味しい。」
と言ってくれたため
「わかりました!」
と返事をした後、つけてみることにした。瓶を開けてみると、最初はいちごジャムに似ていると思った。しかしつけてみると思ったよりも酸味が強かったが、これはこれで美味しいと感じた。
「美味しい?」
「美味しいです!」
そう返すと、言語学者の人は安堵したように笑顔になった。その後も食べ勧めたが、現代の日本の食事と違うのはパンが少しパサパサしているぐらいで、他は普通に食べることができたし、おいしかった。
食事が終わり、言語学者の人が話かけてきた。
「私、名前、**・*****・****。」
「?」
「ロジェ・ナッシェード・クナウプ」
うまく聞き取れなかった私に気づいたのか、ゆっくりと発音してくれた。こちらの発音は私にとっては聞き取るのはとても難しいらしい。彼の名前は聞き取れたが、長くてすぐに覚えられる気がしなかった。
ーロジェでいいんだろうか?
「ロジェ?」
と聞くと、少し驚いた顔をして、ロジェさんはうなづいた。
「ロジェさん。私の名前は浅川凛です。凛です!」
というと、
「リン?」
とロジェさんが反応してくれたため、私は笑顔でうなづいた。




