第四十八話『星』
家に帰り、一旦もらったディーヴさんからの編みぐるみや花冠等を置いて、少し厚手のコートを一枚上に羽織った。さらにマフラーをつける。モリ・ハルドは日中もそこそこ寒いが、夜はかなり冷える。ロジェさんは私の支度が終わるのを確認してから、ランプを持って外に出た。
いくら蝋燭が道に並んでいるとはいえ、人は先ほどよりも少なくなっていた。ロジェさんは
「行こう。」
と言って、歩き始めた。着込んだとはいえ、先ほどよりもずっと寒くなっている。いくら毛布を羽織っていたとはいえ、初日、よく私はこの寒い中を上下スウェットで歩けたなと思う。少し縮こまっている私と比べ、ロジェさんは全くそんなことはなさそうだ。ロジェさんは私を見ると、「寒い?」と言いながら、今日私が渡したマフラーを取り始めたので、「大丈夫です!」と言って断った。
しばらく歩くと、街の明かりが遠ざかり、静かになった。足音だけが響いている。普段だったら、こういった夜の暗い場面では不審者を警戒するものだが、ロジェさんがいるから心強い。そして、緩やかな丘のところに着いた。
丘には小さな花々が咲いていた。小さな青色の花である。丘の向こうは、畑が多く連なっており、日本でいうところの棚田のように、下の方へと続いていた。遠くの方に川が流れているのが見て取れる。さらにその向こうには、いつもの教会よりも大きな教会が立っており、周りにはまた家々が並んでいる。
ロジェさんは近く丘のてっぺんの方で座った。ロジェさんが大きめのハンカチを草の上にひいたかと思うと、ロジェさんに
「リン、座る?」
と言われ、「ありがとうございます。」と返し、慌てて座る。ロジェさんのハンカチを汚すのではないかという心配があり、少ししゃがむような姿勢になった。ロジェさんがそんな私の姿を見て笑い、
「大丈夫。座る、欲しい。」
と言われた。
「お言葉に甘えて……。」
と私がいうと、ロジェさんは「お言葉に甘えて?」と呟いた。初めて聞く日本語表現だったのだろう。逆に知っていたら、どれだけ日本語がわかるのだと怖い気持ちにもなるけれど。
「お言葉に甘えて、は提案?いいことを言った相手の言葉、に、こう、乗っかる?形で受け入れることです。」
というと、ロジェさんは「お言葉に甘えて……。ありがとう。」と言った。ロジェさんに日本語の表現を伝える時、たまに自分でもなんと説明をすればいいのかわからない時がある。
(もっとちゃんと日本語を勉強するべきだった…。)
そう思いながら、星空を見上げる。ロジェさんは私が空を見たことを確認したのか、ランプの明かりを消した。
(本当に、綺麗……。)
ため息が出るほど美しい星空は初めての感覚だ。星は暗い方がより一層輝くのだろう。こんな光景はプラネタリウムでの擬似体験でしか味わったことがない。一等星はこんなに明るいということを初めて知った。
(星座はあるのだろうか。)
冬といえば、冬の大三角形の一部を成すオリオン座だろうか。三つの星が並んでいるから簡単に見つけられるはずだ。そもそも、この世界が同じ星を成しているのかは不明だけれど。そう思って探してみると、意外と早く見つかった。三つの星が並び、オリオン座の赤い一等星ベテルギウス、青白い一等星リゲル。じゃああの星がシリウスだろうか。ベテルギウスの超新星爆発はいつ起こるか分からないと言われていたが、まだ起こっていないようだ。
久しぶりにちゃんと星を見た気がする。昔から星を見るのは、割と好きだったことを思い出した。ふとロジェさんの方をみると、ばっちりと目が合って驚いた。
「あの……?」
と困惑したようにいうと、ロジェさんは
「リン、楽しい?と思う、から。ごめんなさい、見た。」
と少し、落ち込んだように言ったので、
「全然大丈夫です!少しびっくりしただけなので……。」
というと、ロジェさんは「よかった。」と安堵した顔をした。
「星、好き?」
とロジェさんは私に聞く、私が、
「はい、ロジェさんもですか?」
と聞くと、ロジェさんはうなづいた。
「星は、綺麗だから。」
その気持ちはとてもわかるため、「私もです。」と言って首を大きく縦に振り、うなづいた。
「あれ、オリオン座ですよね。」
と言って、星座を指さし、ロジェさんに聞いてみる。ロジェさんは
「おりおんざ?分からない。」
と言った。そもそも星座がないのだろうか。
「星座はありますか。星をなぞって、形を考える?ものです。」
というと、ロジェさんは首を右に振った。
「他の国には、あるかも?だけど、モリ・ハルドにはない。」
と答えた。そして、
「教える、して、欲しい。」
と言われたので、「はい!」と答えてから、星座の知識がだいぶ曖昧で、神話もぼんやりとしか思い出せないことに気づき、
「思い出せるところだけでもいいですか?」
というと、ロジェさんは、うなづいた。




