第四十七話『来年も』
気づいたら、すでに暗くなり始めていた。夕暮れが空に反射して少しピンク色に見え、その反対側では黒のカーテンを下すように、すっかり暗くなっていた。
そんなに時間が経っていたのだろうかと思い、ロジェさんに「今、何時ですか?」と聞くと、ロジェさんはコートのポケットからアンティーク調の銀色の金属で開け閉めをするための金具がついた懐中時計を取り出した。そういえば、今までにあまり時間について考えていなかったと思い、時間の単位がそもそも私たちの世界と同じなのだろうかとも思う。ロジェさんが
「三時六分。」
と答えた。三時はいくら冬と言っても日本ではまだ明るかったと思う。緯度が日本とは異なるのだろう。そう考えれば納得が言った。ロジェさんに一応聞いてみる。
「時間は24時間制ですか?」
と聞くとロジェさんは
「24時まで、ある。」
と答えてくれた。どうやら時計の単位は私たちの世界とは違うわけではないようだ。蝋燭をつけながら歩いている人がいる。それを見てロジェさんが
「つける?」
と私に聞いてきたので、
「いいんですか?」
と聞くと、
「もちろん。」
と笑顔で答えてくれた。どうやら蝋燭をつけるのは、その近くにいる人の役割のようで、他にも蝋燭をつけている人が何人もいた。蝋燭は家の前にそのそも火のついているものがあるため、その火を拝借するのだ。ロジェさんはポケットから小さいわけではないが細長い蝋燭を取り出した。
それにロジェさんが火をつける。そして、それをまだ火のついていない蝋燭に移すのだった。絶対に、ロウが溶けて危ないのだろうが、まだこの時代ではマッチは貴重はものなのかもしれない。以前にもロジェさんは同じように暖炉から火をもらって蝋燭をつけているところを見た。マッチを使って火をつけるときには大抵、暖炉が消えているときだけである。
そしてロジェさんは私に火のついた蝋燭を渡し、
「気をつけて。」
と言った。ロウが手にかからないように、角度を調節しながら火をつける。なんとかつけられたものの、すぐにロジェさんに蝋燭を返した。意外と、蝋燭の小さな火と言っても熱いのである。周辺の火のついていなかった蝋燭をロジェさんがほとんどつけてくれた。私はその後ろについて回ったり、時々、ロジェさんに蝋燭を渡されて緊張しながらつけていた。化学の実験でアルコールランプでこんなことやったら、締め殺されるんだろうなと思いながらつけていた。
この周辺の道の蝋燭が一通りつけ終わり、私がつけた蝋燭を眺めていると、ロジェさんは
「顔、上げて、欲しい。」
と言った。そして顔を挙げた。ロジェさんが顔を上げて欲しいと言ってくれた理由がすぐにわかるぐらい綺麗だった。蝋燭の光は一つ一つ小さいものであるが、その光が蝋燭のロウに浸透しているように蝋燭を内側から照らしていた。蝋燭は分厚いからあまり光を通さないのではないかなど思っていたが、そんなことはなかったようだ。
「綺麗ですね。」
というと、ロジェさんが微笑んで
「よかった。リン、嬉しいから。」
と言った。ロジェさんがそう言って嬉しそうなのを聞いていると、私も自然と笑顔になった。今日はお祭りで、たくさん食べれたし、飲めたし、ミラを笑顔にさせることができた。そんな充実した一日だった。そう思っていたら、ロジェさんが
「今回、は楽器の……。」
と言って、言葉を詰まられている。楽器につながる言葉としたら、演奏だろうか。
「演奏ですか?楽器を弾く、こう」
と言って笛を引く真似をしてみると、ロジェさんは
「演奏?ありがとう。」
と言った。どうやら想定していたものにあっていたみたいだった。
「演奏、見る、ない、だから、次のティレのお祭り、一緒に、見る、したい。」
ロジェさんはこう言った。
「次はいつですか?」
とロジェさんに聞くと、ロジェさんは「次の年。」と答えた。次の年ということは来年だ。来年のことはあまり考えていなかった。それにずっとここで暮らすという想像すらもまだ定まっていない。まだ、ずっとなんとなく、旅行気分というか、ずっと続くものではない非日常みたいな感じで考えていたことも否めなかった。
(ロジェさんは来年も一緒にいてくれるのかな?)
まだ不安なことは多いし、第一にまだ言語の壁があることは否めないが、モリ・ハルドの一員になることはできるのだろうか。淡い期待を胸に、
「来年も楽しみです…!」
と少し意気込みながら答えた。ロジェさんはその宣言とも思える私の発言の勢いに少しポカンとしながらも、笑顔で「来年も。」と言った。
本格的に暗くなり、蝋燭の日と家についているランタン、そして月が私たちの帰る道を照らしてくれた。ふと空を見上げると、こんなに光がついているのにも関わらず、綺麗に星が見えていた。
(こんなにお星様みたことない)
「ロジェさん、星が綺麗ですね。」
というと、ロジェさんは、
「うん、綺麗。」
と言って、微笑んだ後に、私に提案をしてくれた。
「もっと、綺麗に、みる、ところある。から、行く?」
と言われた。これよりももっと綺麗に見えることなんてあるのだろうか。少しワクワクして、
「はい!」
と返事をした。




