第四十六話『家族』
ミラが泣き止むのを待っていると、私とロジェさんの後ろから
「mira……mira!」
とミラを呼ぶ、女性の声がした。ミラはその声に気がつき
「mamu…。」
と言った。どうやらミラのお母さんが来たようだった。ロジェさんはその言葉に反応して、その女性の元に駆け寄って何かを話していた。ミラは怖いのか緊張しているのかは分からないが、私がゆっくりと抱きしめる手を解いたのに対し、ミラは私の服を握りしめたままだった。
突然、家から子供がいなくなったのだから、焦るお母さんの気持ちは分からなくもないが、もうミラと会ってから1時間は立っているのに、気づかなかったのだろうかとも思ってしまう。それだけ、喧嘩がヒートアップしていたのだろう。
そのお母さんは私とミラの方へと近づいた。ミラが
「estet uir……。」
と何かを言いそうになる前にそのお母さんがミラのことを強く抱きしめた。そしてそのお母さんは少し涙をこぼして言った。
「estet uir karen.……estet ve cye?uii magurfe worgen.」
その言葉の意味は半分しか理解できなかったけれど、私はあまり邪魔しない方がいいだろうと思い、一歩後ろに下がった。ミラの綺麗はアメジストのような綺麗な紫色の瞳はお母さん譲りなのだろうということがわかった。ロジェさんの二人のことを見ていた。ミラは先ほどの言葉を言い直すかのように
「estet uir karen.」
と言った。ロジェさんに
「”estet uir karen”ってどういう意味ですか。」
と小声で聞くと、
「ごめんなさい、いう意味。仲いい人に使う。veがない。」
と小声で教えてくれた。すると後ろから、ロジェさんよりも小さいが、体つきががっしりしている男の人が焦った様子で駆け寄ってきて、ミラとお母さんの方に行ったかと思うと、二人を抱きしめた。
突然のことに呆気に取られていると、ロジェさんが「ミラのお父さん。」と教えてくれた。三人で抱き合う様子はちゃんと家族に見える。一時は心配したけれど、ミラが泣きながらも笑っている様子を見たら大丈夫そうだ。
(羨ましい。)
私が家族から取り残されているように感じるだけで、別に家族が嫌いというわけでもないけれど、なんとなく孤独だと感じる時がある。
(家族には自分から気を使ってしまっているだけなのに、羨ましいなんておかしい。)
ミラは素直な子だ。いい意味ですぐに顔に出るからすぐに助けに行けるし、嬉しそうな時には周りの人を笑顔にしたり、悲しい時には悲しいとちゃんと周りに悲しいと言ったりすることができる。それがどれだけ凄いことなのかミラはわかっていないかもしれないが、助けを求められることは大事にしてほしいと思った。
ロジェさんが私にいう。
「ミラのお父さんは、軍の人。だから、長い、時間会う、できない。お父さん、いる人はそういう、人が多い。」
「軍の人?ですか?」
ロジェさんはうなづく、軍の人は作霖の人に似た私のことはあまりよく思っていないのではと思ったが、ロジェさんはそれを察知したのかは分からないが、私にこう説明してくれた。
「モリ・ハルドの人は、ポリットの軍に、入る。けど、モリ・ハルドの人は、殺す、したいぐらい、作霖のこと嫌い、違う。それに、軍の人、違う時は、モリ・ハルドの人、みたいに、国をあまり、考える、しない。だから、大丈夫。」
ロジェさんはこう説明した。モリ・ハルドは軍もポリットになっているのかと思うと同時に、この世界に来たときに最初にあった人たちもたぶん、モリ・ハルドの人だったのかなと考えた。
「最初に会った軍の人たちも、モリ・ハルドの人ですか?」
とロジェさんに聞くと、うなづいて
「最初の人?は分からない、けど、モリ・ハルドの人。リンが作霖の言葉、違う、他の言葉、が分かる、人がいた。」
最初の二人組のどちらか分かったのだろうか。そうぼんやりと二人の顔を思い出そうとするがもうすっかり忘れてしまったようで、何も浮かんでこなかった。
私はことごとく運がいいような気がする。作霖の言葉じゃないと分かる人がいて、捕虜や殺される場合を防げたし、この世界で唯一と言っていい日本語を話せるロジェさんに会えたし、モリ・ハルドは貿易都市で他国の人々に対して寛容な受け入れの雰囲気がある。どれもがうまくいきすぎていて、逆に怖くなるレベルだ。もしポリットに飛ばされていたら、即刻殺されていたのだろうと思う。
そんなことを考えていると、三人がやってきて、私たちに
「veiel morke. und ve estet uir karen.」
とお母さんが言った。その後にお父さんが続いて、「sehr veiel morke.」と感謝の言葉を述べた。ミラはまだ手紙を持ったままだったので、しゃがんで、
「mira?」
と言って手紙を指さすと、ミラはハッとした顔をして、私に小声で「morke!」と言った。そしてミラはお母さんを見た後、
「fur uiie mamu.」
と言って、手紙を渡した。お母さんは手紙をゆっくりと開いたが、どうやらこのお母さんは文字が読めないらしい。少し頭を捻った後、ミラに
「uii mote mira ve lesen.」
と言った。するとミラは少し恥ずかしがって、
「……bis lesperter!」
と言った。そしてミラは誤魔化すように私の方を見て、
「veiel morke!」
と言って、さらに手を振って
「bine!」
と言った後、お母さんとお父さんの手を引いて楽しそうに去っていた。




