第四十三話『ロジェさんへのプレゼント』
マフラーをあげるなら今なのだろうか。と思い、ロジェさんの首元を見てみる。ロジェさんは今日はマフラーをつけていない。プレゼントとしてあげることをロジェさんは知っていて、つけていないのだろうか。ロジェさんの方を見るとばっちりと目が合った。
ロジェさんは首を傾げてこちらを見ている。
「ロジェさん。」
と声をかけると、ロジェさんは
「どうしたの?」
と優しい声で聞いてくれた。
「プレゼント、今渡しても大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。」
ロジェさんに「どうぞ!」とプレゼントを渡そうとしたが、ロジェさんは両手に飲み物を持っているので、私が受け取ろうとしたが、ディーヴさんが
「soll uii ve hafen?」
と提案してくれた。多分飲み物を持とうかという提案だろうか。ロジェさんはその言葉を聞いて、「morke.」と言ってディーヴさんに飲み物を渡した。私もディーヴさんに「morke!」というとディーヴさんは笑顔で、「blezene!」と言った。
ポリット語では「お願いします。」と「どういたしまして。」は同じ言葉を使うとロジェさんから教わった。よく外部から来た人が間違えることがあるから、覚えておいた方がいいと言っていたが、まさかここで聞くことになるとはと思っていた。
ロジェさんにプレゼントを渡すと、ロジェさんはリボンをゆっくりと解き始めた。少し緊張している。私はこんなにプレゼントで緊張したことはなかった。まだ、ロジェさんのことをよく知らないからかもしれない。おそらく、好みを把握できていないことが緊張を加速させているのだろう。ロジェさんが毛糸を選んだから大丈夫なはずだと自分に言い聞かせる。
家の中でずっと編んでいるのは知っているから完成した形も知っているはずだけれど、ロジェさんは少しワクワクしながらプレゼントを開けていた。ロジェさんがマフラーを取り出し、とても優しそうな目でマフラーを見たあと、「ありがとう。」と言ってくれた。
ロジェさんが私を見ているので、どうしたのかと思っていると、マフラーを私に渡してきて、
「つける、お願い、いい?」
とロジェさんは言った。
「もちろんです!」
と言ってロジェさんからマフラーを受け取る。ロジェさんはとても背が高いので、とても届きそうにない。
「ロジェさん、屈んでもらってもいいですか?」
というと、ロジェさんは腰を曲げて私の顔の少し上に自身の顔がくる位置に調節してくれた。ロジェさんの首の後ろに手を回して、マフラーをつけようとする。その体制が抱き締めているみたいで少し恥ずかしくなってしまった。
(大丈夫!ディーヴさんにやったみたいにやれば、大丈夫!)
と自分に言い聞かせるが、ロジェさんの綺麗な顔がすぐ近くにあるのが慣れない。首の後ろにマフラーをかけて今度は正面でクロスさせて、またもう一周と思ったところで、とても緊張して顔が真っ赤になっている私を心配して、ロジェさんは
「大丈夫?」
と声をかけてくれた。
「……大丈夫です!はい!」
と焦って少し声が上擦ってしまった。もう一度ロジェさんの首の後ろでマフラーをかける。その後ろで、ディーヴさんが少しニヤニヤしながら、私を見ているのを見てさらに恥ずかしくなってしまった。
正面で、あとは軽く固定するだけである。ロジェさんの顔がとても近くて、また緊張してしまう。ロジェさんは真剣に私がマフラーを結んでいるのを見ている。軽く固定して、大丈夫そうだったので、ロジェさんの方を向こうと顔をあげると、ロジェさんと目がある。ロジェさんの目はサファイアのように綺麗な青色の瞳をしている。
(綺麗な瞳だなあ。)
と思い、同時に少し見ていたいと思う。緊張を忘れてしまっていたが、ロジェさんが
「……どうしたの?」
と顔を赤くして私に尋ねてきて、私の恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてしまった。ずっと目を何を言わずに見られていたら、恥ずかしくなるに決まっている。ロジェさんへの罪悪感で
「…ごめんなさい。何でもないです……。」
と顔を覆いながら、ロジェさんに答えた。しばらくお互い固まっていたが、ディーヴさんが寄ってくる足音が聞こえたことで、正気を取り戻した。
ディーヴさんたちもこれから予定があるようで、飲み物を受け取った後、別れることになった。別れ際に、ディーヴさんに
「Haf doiie daze!」
と言われ、”haf”って”hafen”のことだろうかなどと困惑しているとロジェさんが
「Hafen car doiie daze!」
と返していたので、ロジェさんと同じように「Hafen car doiie daze!」と返した。ディーヴさんが笑顔で手を振ってくれたので、私も笑顔で手を振る。見えなくなったところで、ロジェさんがまた、
「別のも、みる?」
と聞いてくれたので、「はい!」とうなづいた。




