第四十二話『ディーヴさんへの贈り物』
教会側の反対側の方にきた。こちら側では、屋台のようなものがたくさん出ている。バーリーやホットワイン、ビールなどの飲み物のお店。それに合いそうなソーセージや魚の揚げ物などのおつまみ系のお店もあれば、ビーフシチューやミートソースの煮込みのような汁物系もあった。
人が賑やかであるとは言ったが、有名な花火大会や夏祭り、花見みたいに人酔いをしそうなほどの混み具合ではなく、かといって空いているわけでもなく、理想的な混み具合というような感じであった。
ロジェさんは私に
「ココアと、温かいワイン、どっちがいい?」
と聞いてくれた。そういえば、お酒のことについては考えていなかったが、こちらの世界では未成年でもいいのだろうか。世界でもお酒の飲める年齢は国によってかなり違うことが言われている。少なくともロジェさんは私の年齢を知っているので大丈夫なのだろう。
しかし、お酒を飲んでみたいという好奇心よりも日本ではまだお酒を飲めないと法律で定められていることからくる罪悪感の方が強かった。
「ココア、バーリーでお願いします。」
というとロジェさんは店主に「barri und wine, blezene.」と言った後にお金を払い、私に渡してくれた。店主さんに、
「morke!」
というと、店主さんはにっこり笑って、
「Hafen car doiie daze!」
と言ってくれた。ロジェさんは私に
「良い、一日を、という意味。」
と教えてくれた。”have a nice day!”的な意味であるっぽいなと思った。バーリーはとても温かくて、冷えた体に染みる味をしていた。ロジェさんはそんな私をみて、
「美味しい?」
と聞いていたので、
「美味しいです!」
と答えるとロジェさんは笑顔で、
「よかった。」
と言った。
「ロジェさん、お金払います。」
といい、私がお金を取り出そうとすると、ロジェさんに
「大丈夫。」
と言われてしまった。このやりとりは以前にも何回かしたことがある。「払います。」「大丈夫。」「払います。」「大丈夫。」のやり取りが何回か続いた後、結局折れてしまう私の方である。ロジェさんはこういう時に絶対に折れない。
先に払わないとお金を絶対に受け取ってもらえないので、今度からは先にこっそり支払っておかなくてはと思った。
そんなことを考えていると、ロジェさんが、
「ワイン、嫌い?」
と聞いてきた。
「ワインは飲んだことないです。」
「!?……どうして?」
ロジェさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いているので、そんなにワインを飲んだことがないのは珍しいことなのかなと思った。
「日本の法律…決まりごとで禁止されてる……ダメって言われてるからです。」
というと、ロジェさんは納得したような顔をして、ただ少し複雑そうな顔をしていた。今の中で複雑な顔になるような会話があっただろうかと思っていると、後ろから突然「tire morke!」と声がかけられた。
ロジェさんと一緒に振り向くと、ディーヴさんとゲルーノ君と、ディーヴさんの旦那さんらしき人がいた。旦那さんの方には初めて会ったなと思いながら、「tire morke!」と返した。
ディーヴさんは私たち二人を見て
「whori!」
と言って笑ったため、なんの話かと思って首を傾げると、ディーヴさんは自身の頭を指さしたので、花冠のことだと気づく。私も可愛いと思っているので、ニコニコと微笑むと、ロジェさんは顔を真っ赤にして、何かを恥ずかしがっている。多分、ロジェさんはお店の人に花冠姿を見られたことが恥ずかしいのではないかと考えた。
「blezene syurnn.」
とディーヴさんが私に言って、手に収まるぐらいの袋を渡してくれた。”どうぞ”という意味なのだろうかと思い、ディーヴさんから受け取る。私もディーヴさんにマフラーがあるので、ディーヴさんに同じように「blezene syurnn.」と言って渡すとディーヴさんはとても喜んで、ハグをしてきた。私もハグをし返して、「morke!」と言った。
袋を開けると、中には手編みのクマのぬいぐるみが入っていた。可愛らしい丸々としたフォルムで、体の中心にはボタンが取り付けられていた。
「whori!morke!」
というと、ディーヴさんも私のマフラーを取り出して、「morke!」と言ってくれた。そして、ディーヴさんは私にマフラーを渡してきた。気に入らなかっただろうかと思って少し焦ったが、ディーヴさんが
「konnst zer ve toryusen?」
と言った。「toryusen?」と意味がわからずに、繰り返すと、ディーヴさんはうんうんとうなづいた。ロジェさんは「つけて、欲しいみたい。」と言っていたので、マフラーの巻き方はへなちょこだけど大丈夫かなと思ったが、ディーヴさんの期待に応えないわけにはいかないと思い、頑張ってみる。
ロジェさんにココアを預けて、ディーヴさんのマフラーを持って後ろの方に手を回し、マフラーを前の方で軽く固定したあと、長めにとった端の方をまた後ろに回す。そして形を整えた。
「できました!」
といって、ハッとしてポリット語でなんていうのだろうと思ってしまい、軽くパニックになったが、ディーヴさんにはそのことが伝わっていたらしく、「morke!」と言われた。そして、ディーヴさんは後ろの方を振り返り、ゲルーノ君と旦那さんに自慢をしているようで、くるくると回ってみせ、ゲルーノ君からは軽く呆れられているようだった。
旦那さんの方は、マフラーをつけてもらっていたのが羨ましかったのだろうか。ディーヴさんに、自身のマフラーを見せてから、それを軽く外そうとしたところで、ディーヴさんに肘でどつかれていた。ちょっと痛そうだなと思って、そんなディーヴさん家の人たちを微笑ましく見ていた。




