第三十八話『ミラ』
ロジェさんが神父さんに何かを話しかけてから神父さんはうなづき、教会の奥の方にある扉の方へ入って行ってしまった。
ロジェさんも少し当たりを見渡したあと、教会の隅にあった机を持ってこようとしていたので手伝おうと思い、ロジェさんの元に向かおうと思ったが、ミラがまだ少しポンチョの裾を引っ張っていた。無理にはがすことは避けたかったので、ミラに声をかけた。
「uii mote h…じゃなかった。uii mote je,roje heifen. so….」
と言ったところで、ミラの様子を見てみると、ミラは首を振って行って欲しくないとアピールをしていたが、拒絶されたくないからなのか、ポンチョを掴む力は少し弱くなっていた。
しかしロジェさんが一人で持ってくるには無理がありそうなぐらい大きな机ではあったので、やはり手伝うべきだとも思った。ミラを置いていくのも心苦しくはあるが、行こうと思い、ロジェさんの方をみると、驚いたことに一人で机を軽々しく持ち上げていたので、全然大丈夫そうだった。
ミラもロジェさんが軽々しく机を持ち上げているのを見て、持ち上げられるとは思っていなかったのか驚いていた。私たちは顔を見合わせて、ミラが「anret yhe uii…」というので、二人して驚いたのが、少し面白く感じて、笑い合った。
ミラは少し寂しそうな悲しい顔をしていたのが、少し晴れて花のように可愛らしく笑うので、私はとても嬉しかった。
ロジェさんがこちらに机を運んできても私たちがニコニコしているので、ロジェさんはその光景を見て少し不思議そうにしていた。そしてロジェさんは私たちに
「was hafen?…zer yhst zuu loustig.」
というので、ミラが
「Wii sparuten ouf je,roje!yarra je,rinn!」
「yarra!」
と私は返す。子どもたちと話すことが多いので、軽い会話の受け答えを簡単に返す言葉をたくさん学んだのだ。
「?」
さらにロジェさんにはわからないという顔をした。
「je,roje yhen doii!」
「?morke?」
とミラはあんなに大きな机を運べてすごいのすごいの部分にしか言及しないので、ロジェさんも褒められていることはわかるのだが、何が褒められているのかわからないので、とりあえずありがとうと言ったうようだった。
私も机というボキャブラリーを知らないし、運ぶというボキャブラリーも知らないし、重いはなんというのかわからない。英語と似ているので、英語の単語でワンチャン通じるかもしれないが、通じなかった時が怖い。
ロジェさんに日本語で話そうかと思ったが、知らない言葉で会話をされて、何もわからないまま置いてきぼりにされることの悲しさは知っていたので、ミラが置いてきぼりにされた悲しい思いをするのは避けたいと思い、なんとかポリット語で話せないだろうかと考えた。
ーhafenとdesを使えばなんとか伝えられるかも…
「je,roje konnen… des hafen, …eins?so, je,roje yhen doii!」
というとロジェさんは納得したように、うなづき、 ミラもその通りと言わんばかりにうなづいていた。
ロジェさんにhafenがわかって、話せれば、割となんでも通じることがあるというふうには聞いていたし、hafenには”持つ”の意味から派生した意味がいくつかあるというふうには聞いていたが、少ない語彙でも通じたことに少し嬉しさを感じた。
教会の奥に通じる扉の開く音がしたかと思うと、神父さんが帰ってきた。手には羽ペンとインクの入った瓶のボトル。そして小さな紙と封筒のようなものを持ってきた。神父さんが持ってきた紙を机の上に置いた。ミラは背伸びをしてその紙を見ようとしていた。
その紙は何も変哲のない紙であったが、明らかに本に使われる紙とは違うことがわかった。そして封筒がある。
ーlitter……letter!手紙か!
と理解した。
ロジェさんがすぐに椅子を持ってきてくれたので、ミラはそこに座ったがまだ少し座高が机に届かないようで、ミラの目の顎の下に机がくるぐらいになっていた。何かクッションのようなものがあればいいけど、と思い、辺りを見渡してみるが、そのようなものは見当たらなかった。
ロジェさんや神父さんもどうしたものだろうかと思い、困った顔をしながら話していた。ミラが椅子からおり、私の腕を掴む、そして椅子の方に私を引っ張ったかと思うと、
「konnen je,rinn setest?」
と言われ、なんだろうと思っていたが、ロジェさんに「座る、欲しい、みたい、いい?」と言われたので、なんで私が座るんだろうと思ったが、一応座ってみると、ミラが私の膝の上に座ってこようとしたので、私がミラのことを抱き上げ座らせると、ミラは嬉しそうに、「morke!」と言った。
確かにこれであれば、ミラも机に手が届き、ちゃんと書くことができる。少しだけミラに信頼されたということでいいんだろうかと心の中で思った。




