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第二十九話『編み方』

 ロジェさんの選んだ毛糸は、verwiteren(雪の降り積もる) shime() というものらしい。雪の降り積もった夜というように確かに、白色の毛糸が混ざり込んでいるのが、雪を意味しているようだと感じた。雪の降り積もるという言葉だけで一つの形容詞?動詞?があるのがこの地方が寒いことを想起させるようだった。


どうやら毛糸は人気なものらしく、在庫をたくさん用意しているようだ。ディーヴさんはカゴに毛糸を8玉ほど入れて、さらに編み棒と一緒に入れてくれた。


やり方がわからないので、ロジェさんに、


「編み方がわからないって伝えられますか?」


というとロジェさんは少しうなづき、ディーヴさんに


「リン tollen(トーレン) nee(ニー) toreten(トレッテン), so(ソウ) konnsen(コーネンセン) car(カー) zu() toreten(トレッテン)?」


ちょっとわかるかなとは思ったけれど、so ぐらいしかわからなかった。英語と少し似ているところがあるのだろうか。so がもし接続詞の「〜だから」という意味であったらその可能性が高いと思う。


ーもしかしなくても、日本語は消失したとして、実は英語は残っているとか


その可能性は考えていなかったが、もしかしたら4000年の年月が前文明から経っているとしても、英語がもし、いた世界ぐらい広まっていたとしたら、あり得るかもしれないと思った。


ロジェさんの話にディーヴさんは目を輝かせていた。なんの話をしていたのかと思っていると、ディーヴさんとロジェさんが何かを話していた。


ロジェさんは私に、


「レチアノール、教える、編み方。」


といい、申し訳ないと思い、ディーヴさんの方を見ると、


ya()!」


とディーヴさんはめちゃめちゃ笑顔で、返してくれた。ディーヴさんは私にお店の奥にある部屋に案内してくれて、ソファに座ってというように手でソファに案内してくれた。私がソファに座ったのを確認したあと、


「リン、wasten (ワステン)!」


と言ったあと、どこかに行ってしまった。そういえばと思えば、ここが最初にロジェさんに服を買って来てくれたとき、着替えをした場所だと思いだす。


ーあれから一週間、あとちょっとで二週間か…


と思う。慣れて来たようにも感じて、慣れていないようにも感じる。このまま1ヶ月、一年、もしかするともっとかもしれない。帰れないとするならば、この世界で生計を立てる方法を考えなければいけないと思う。


いや、日本でも親の元で生活していたから、今、ロジェさんに養われている状況は日本にいた頃と大差ないのかもしれない。でも、いずれは、ちゃんと考えなくてはいけなくなるだろう。


そんなことを考えていると、ディーヴさんが私に用意してくれたカゴと、もう一つ別のものが入っていた。実践して教えてくれるようだ。ディーヴさんに「morke(ありがとう)」というとディーヴさんは微笑んでくれた。本当にいい人である。


ロジェさんはというと、後ろの扉から私に、


「私は、少し、ゲルーノと話、する、から。リン、頑張って!」


と言われた。少し不安だなと思っていると、ディーヴさんは私に編み棒を渡した。しかし、その前に毛糸を一玉取り出し、糸の端の部分を中心の穴から取り出した。


私も一玉取り出し、ディーヴさんの真似をすることにした。糸の端がなかなか見当たらないと思っていると、ディーヴさんが笑って、指で指して教えてくれた。


「リン,konn(コン)?」


と言われ、konnの意味がわからなかったけれど、多分、取れた?とかできた?みたいな確認の意味ではあるだろうから、うなづいた。するとディーヴさんは、その毛糸を100cmぐらい引っ張り出したかと思うとその途中のところを持った。また「konn?」と聞かれたので、途中を持ちうなづいた。


すると、特殊な結び方を教えてくれ、ディーヴさんの指の通りにやり、その結んだところの輪っかの中に編み棒を通した。するとディーヴさんは右手に編み棒を持ち直し、さらにその編み棒に結んで言った。


その時の指の動きが特殊で、私には少し難しく感じたが、ディーヴさんがゆっくり教えてくれたため、ゆっくりであるが、最初の部分を結び終えることができた。ディーヴさんに、伝わらないとは思うが、「…どうですか?」と聞きながら、結んである編み棒の方を見せると「doii(すごい)!!」とものすごく褒めてもらえた。


さらにディーヴさんの指の動きを確認しながら、どんどんと編み進めてみる。すると、20分もたったか、経ってないかで、5段程度編むことができた。


ーだんだんできてきてる!!


と思い、マフラーの生まれたてみたいなものを見ていると、ディーヴさんは嬉しそうに、さらにホッとした顔をしていた。


ロジェさんが顔を出し、こちらの様子を伺っているようだったので、なんだろうと思っていると、ディーヴさんが何かを会話しに言ったようだ。私もその会話の中に入ろうと思ったが、編み物が手に置いてあるので迂闊に動いてもいいものだろうかと思っていた。


そんな様子にディーヴさんが気づいて、私からそっと編み物を受け取ってくれた。そして何か「***、****。」と言ったかと思ったがうまく聞き取れずにいると、ロジェさんが、


「そんなに、怖がる、しなくて、いい。」


と言ってくれたので、安心させてくれていたらしい。ディーヴさんに「morke(ありがとう)!」というとディーヴさんは嬉しそうに笑ってくれた。


そのあとは、続きは持って帰ってやってくれて大丈夫で、終わりそうというタイミングでまた来てくれれば、いいとのことだったので、ロジェさんと一緒に家に帰ることにした。


またディーヴさんにハグと頬にキスをされ、ディーヴさんと別れた。


街の様子を見ると、少しずつティレのお祭りの準備をしているようだった。


家に帰り、そして私はソファの前に座ってまた続きからやり始めるのだった。

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