第二十八話『kiru』
そんなこんなでマフラーを作ることになった私はロジェさんと一緒にディーヴさんの服屋さんに来ていた。毛糸をくれるらしい。ロジェさんが通訳係のようになってしまっているのが本当に申し訳なく感じる。
贈り物に関してはなんでも良いらしいが、ディーヴさんは私のことをかなりに気にかけてくれているらしく、この世界に来たばかりの私に一緒に作らないと持ちかけてくれたようだ。ディーヴさんに関してもそうだが、この世界の人、モリ、ハルドの人たちは外部の人について寛容らしい。
よく考えてみれば、こちらに来てから軍隊の人以外には冷たい目を向かられたことはなかった。子供たちには好奇心の目があったが、基本的には暖かい目で受け入れてくれているように感じる。ロジェさんの人脈のおかげもあるのだろうと感じる場面が多々あった。
ディーヴさんは、店番をやっていたゲルーノくんに声をかける。私とロジェさんがいるのを見ると、ゲルーノくんは「tire morke」と先ほどあったばかりではあるが、挨拶をしてくれたため、私たちも挨拶を返した。
ディーヴさんに案内され、お店の奥の方に入った。すると、小さな部屋があり、その中を見ると棚が左右と奥に並んでおり、その棚の中には毛糸が並んでいた。毛糸は綺麗なグラデーションのように色ごとに並べられており、とても綺麗だと思っていて、立ち止まっていると、ディーヴさんは私に、
「リン!***?****!」
部屋にディーヴさんは先に入っていたので、声がこもっていてよく聞こえなかったが、ディーヴさんが手のひらを上にして、手招きをしていたので、入っておいで、という意味らしい。
その中に入ると、毛糸の匂いなのだろうか、独特な匂いが部屋の中に充満していた。別に嫌いな匂いではないのだが、あまり嗅ぎ慣れない匂いがした。
ディーヴさんは私に、
「was motest zer kirus?」
と聞いていた。ここまで、wasとmotestとzerが使われていれば、なんとなく意味の想定がついてくる。英語的な文法から考えると、多分、wasが最初に使われていて、「何」みたいな5W1Hの一つなのではないかと推測できた。
motestはmoteというものと同じだと推測すると、多分ここまで形が変化するのは動詞っぽいと感じる。そして会話から推測するに、「〜したい」もしくは「欲しい?」みたいな意味なのではないかと推測できると思った。
そうすると多分zerは「あなた」?なのだろうかと考えた。合っているのかは分からないので。あとでロジェさんに聞いてみようと思った。
しかし、一つ聞いたような聞いたことが何ような単語があった。
「kirus?」
と私が聞くと、ディーヴさんが、
「ve yht kirus.」
とディーヴさんは毛糸を指さしてきた。kiruは毛糸らしい。するとロジェさんが、日本語で補足を入れてくれた。
「kiruttoのkiruと同じ、服は、kiruで作る、ものだから。」
と言われ、なるほどと納得する。聞き覚えがあると思ったのは、kiruはkiruttoと同じものだったからなのだろう。ディーヴさんにされた質問に返さなければと思ったが、ロジェさんに聞かなければ答えられないと思った。この世界で大切な人と言われ、思いつく人はロジェさんだから。
ー私はロジェさんにマフラーを送りたい
初めてマフラーなんて編むので気に入ってくれるか分からなかったが、ロジェさんにお気に入りの色を聞こうと思い、ロジェさんに
「ロジェさん、好きな色はなんですか?」
と聞くとロジェさんは不思議そうな顔をしたので、加えて、
「ロジェさんに、マフラーを贈りたいです!」
というとロジェさんはとてもびっくりしたような顔をしたので、もしかしなくても贈る相手に先に聞くのは失礼に値するのかもしれないと思って、恐る恐るロジェさんの顔を見ると、少し顔が赤くなっており、その後、笑顔を浮かべて、
「…ありがとう。」
とロジェさんは私に返した。大丈夫そうなのかなと思っていると、ロジェさんは私の前に出て、紺色で少し、白色の毛が混じったものを手に取ると、私に、
「これが、いい、と思う。」
と言ったので私は、
「ありがとうございます。」
といい、ディーヴさんにこの毛糸にしますと言おうと思い、ロジェさんに確認をしようと思った。しかし、先ほど髪の話をしようと思って子供たちに先に伝わってしまったことを思い出し、多分これであっているはずと思い、ディーヴさんに
「…uii mote? kiru.」
というと、ディーヴさんは感動したように、口元に手をやり、ロジェさんはとても驚いた顔をして私の方を見ていた。
「「doii!!」」
ディーヴさんもロジェさんもすごいと反応したので、私がポリット語を片言でも話せたことに反応したようだった。
「…そんな、すごくないです。」
というとロジェさんは、
「そんなこと、ない、すごい!!」
とめちゃくちゃ褒めてくれたので、逆に申し訳ない気持ちになった。




