第二十五話『髪』
カードをロジェさんと一緒に作成していく中で、たくさんの新しい単語に出会う機会があった。例えば、本のことはwirenel、絵本のことはmelwirenelというそうで、wireというのは紙のことでnelというのはまとめる的な意味があるそうだ。
melは絵のことで教会にあるあのステンドグラスのことはmelromerというそうだ。このことは教会でロジェさんが教えてくれた。romerがグラスである。
この世界では何かと何かの言葉を並べて一つの言葉になることが多いようだ。日本語にも確かに本や絵本のように組み合わせるものがあるので、似ているようにも感じる。
一番驚いた言葉の語源としては、この国を支配しているであろう国であるporittoである。poriは民族の名前でttoは「〜の」という意味があるらしい。だから、porittoはポリの国という意味になるそうだ。
ちなみにロジェさんに絵本について見せてほしいというふうにお願いをし、絵本を見せてもらったが予想とは反していて、小説に挿絵が付いたようなものをこの世界では絵本というらしい。
本は貴重なものなのではないかと思ったが、思ったよりも印刷技術は進んでいるらしく、少し高価にはなるが一般の人にも買えるそうだ。
ーこの世界のことをだんだんと知ることができて楽しい!
しかし、日本に戻る方法についてはロジェさんも本を読み返してみたり、聞いてみたりしているらしいが異世界からきた記録のようなものや人もいないらしく、つまりは元に戻る方法については一向に見通しが立たない状態だった。
また一方で、戻れないと悲観的に考える感情は私の中ではかなり薄くなっていた。
今日はいよいよ、小さな子達にカードを披露する日である。ロジェさんは朝から少しソワソワしており、私も若干緊張していた。前の時はうまくいったけれど、今回はどうだろうかと思うのであった。
小さい子たちには嫌にならないように、授業数自体を少なくしているらしく今回は約五日ぶりに小さな子たちに教えることになっていた。今日は2つの授業を受け持っているらしく、小さい子たちを教えた後に、ゲルーノくんたちのような子達に教える予定となっていた。
ロジェさんは、緊張する私を見て、
「大丈夫!リンのカード、はすごい!」
と励ましの言葉をかけてくれたが、ロジェさんが一番緊張しているらしく、私の髪を結ぶのが日課となっていたが、今日は結ぶのに手元が狂っていたのか何回も、「もう一回、いい?」と聞いてきた。
結果的には綺麗に仕上がったものの、ロジェさんの動揺が感じられた瞬間だった。
教会に着くと、神父さんがいつも通りロジェさんのことを待っていた。ロジェさんはいつも通り私に黒板を渡して、「いい?」と聞いてきたので、「もちろんです!」というふうにうなづいた。
当たり前でしょという風に黒板を無言で渡してこないところが、ロジェさんの人間性が垣間見える部分であると感じる。
子供たちが来て、黒板を渡すと、子供達がじっと私の方をみていたので、何かと思っていると、
「***、whori!」
何かをかわいいと言っているのはわかるのだが、何がかわいいのかがわからないと思っていると、子供たちは私の頭の後ろの方に回り込んだので、ロジェさんが編んでくれた髪のことかということがようやく分かった。
ーロジェさんがしてくれたって言いたい!!
と思っていると、ロジェさんが子供たちに囲まれている私を不思議に思ったのか、来てくれたようで、
「どうした?」
とロジェさんが聞いてくれたので、ロジェさんに
「髪がかわいいって言われたみたいなんですけど、ロジェさんがしてくれたってことを言いたいんですけど、言い方が分からなくって、」
というとロジェさんは笑って、
「言う、ない、でも、いい。」
と言ったので、ロジェさんに
「どうしても言いたいです。」
というとロジェさんは少しびっくりしたような顔をしながら、嬉しそうに笑って、
「”roje nellet uiier kare.”これで、ロジェは、私の髪を、結ぶ。」
「ありがとうございます!morke!!」
これで、言えるぞと思っていたが、子供たちはその会話を聞いていたらしく、キラキラした目を向けながらこちらをみていて、ロジェさんは少し困ったような顔をしていた。
その後、ロジェさんは子供たちからいろんなことを聞かれていたので、大変そうだなと思っていたが、ロジェさんが嬉しそうに子供たちと話していたので、助けなくても大丈夫そうだなと思った。




