第二十話『カード作り』
ロジェさんがニンジンを指さして、
「これは、ladebar」
といい、「ラーディーバー」と私が軽く復唱をしながら描いていく、文字については発音については私が勝手に英語で認識しているだけなので、ロジェさんに正確なものを書いてもらう。さらに続けていく、
大根を指さし、「whirebar」「ウィレーバー」
ナスを指さし、「parener」「パレーナー」
トマトを指さし、「irener」「イレーナー」
など様々な野菜を指さした後、「一旦、終わる。」とロジェさんが言った。大体20枚程度になったので、これで試験的にやってみるそうだ。ちなみにパレーナーつまり、ナスはここでは白いらしい。そのため、ロジェさんも「紫?」と困惑していた。白いナスも日本にたまにスーパーにあるなと思った。
日本とはかなり気候、風土がかなり違うことが影響しているせいもあるのだろうと思った。図鑑で大体の形を見たものの、違うものなどが多かったので、辞書や実際に部屋の中にある野菜などは見て描くものもあった。
そういえば、と思いロジェさんに質問をしてみる。
「バーって地下とか埋まっているって意味なんですか?」
「すごい、分かる、できる?」
「本当なんですか?」
ロジェさんはうなづいた。
「”bar”は土の下、という、意味。」
「じゃあ、ナーは土の上ですか?」
と聞くと、今度はロジェさんは首を横に振った。
「”ner”は、果物?実という意味。」
「実ですか?」
ロジェさんはうなづいた。そして、
「野菜だけ、ない、果物にも、使う。」
とロジェさんは言った。そしてあるものを持ってきた。その手の中にあるものはカゴでその中にはフルーツが入っていた。オレンジを取り出し、ロジェさんは
「これはmirebar。リンの言葉でオレンジ?」
「はい、オレンジだと思います。」
「あとは、」
ロジェさんはカゴの中を見たが、思ったよりも果物の種類が少なかったらしく、難しそうな顔をしていたが、別のものを取り出した。
二つの赤い小さな実がついたもので、さくらんぼのように思えたが、私の知っているさくらんぼよりも小さく感じられた。
「これは、barはつかない。特別な果物。drop。」
「ドロップ、ですか?」
ロジェさんはうなづいた。
「dropは死ぬことと、救うことを、表す。だから、他の、果物とは違う。」
「死と救い?」
変な感じがする。死ぬことと救いはある意味では対極に聞こえるし、またある意味では同じでもあるのかなとも思った。ロジェさんは続いて言う。
「物語に、出る。あと、食べる、とき、種に毒がある、から、気をつけて。」
と言われて、そういえば、日本のさくらんぼも種に軽い毒があったなと思う。
「ロジェさん、dropの種はどのくらいの毒なんですか?」
「…?死ぬぐらい。」
ー死ぬのか…ロジェさんに教えてもらえてよかった。
この世界ではおそらく似たような果物や野菜はあるけれど、特徴が違うのかもしれない。あの森の中で野宿することになっていたら、すぐにポックリ逝っていたかもしれないと思うと寒気がした。
今日の晩御飯は、ロジェさん特製のポトフだった。これがladebarで、これがwhirebarとフォークで食べながら、今日分かったポリット語をなぞってみる。
今日だけでもだいぶポリット語の語彙が増えてことが嬉しいなと感じていると、ロジェさんが私の方を見て微笑んでいた。何かあったのだろうかと思い、
「何かありましたか?」
と聞くと、ロジェさんは
「リンが嬉しい、から。」
と私は嬉しいと思ったことが顔に出ていたらしい。少し恥ずかしくなってしまった。
その後はロジェさんと明日の話をした。どうやら明日は今日よりも上の子たちをみるらしい。今日のように小さな子たちではないけれど、まだ文字を書くことは難しいらしい。ロジェさんは少し明日、今日使ったカードを使ってみると言った。
役に立ったらいいなとその話を聞きながら思った。




