第十七話『授業』
その後、ロジェさんの話を聞いていたが、結果から言うと私にとっては何も分からなかった。
分からない言語で分からない言語の説明をしているので、言われてみればそうなのだが、一生懸命聞いていても分からなかった。
図や絵などがなかったので、感覚的にも何を言っているのかはまったくもって理解できなかった。
ー小さい子が受けるから、私も分かるかもと思っていたのが、バカだった…。
と心の中で反省していた。
授業では言語の発音についてやっているようであったが、黒板に書かれている言語もよく分からず、なぜ同じ形をした言語が違う発音をするのだろうかと思いながら見ていた。
その間こどもたちを見ていると飽きている子だったり、私が渡した黒板に絵を描いたりしている子だったりと集中して聞けている子が多い印象だった。まだ子どもたちは四、五歳のように見え幼さそうだったし、しょうがないところもあるかもしれないと思った。
そのこともあったからか、授業は30分ぐらいで終わった。子どもたちは授業が終わると、すぐに私の手をひっぱり、外に出たかと思うと、私の周りでかけっこをしていた。その後に続いてお母さんたちも出てきたようだ。子どもたちは私の周りをぐるぐると回っているだけだったので、動けないと思っていた。
ー私はどうしてここに、引っ張られてきたんだろう
そんなことを呆然と考えて、ロジェさんの方を見てみるとロジェさんは少し落ち込んだような顔をしていたが、こちらをみるとすぐに笑顔になり、こちらに近づいてきた。
「何か、あった?」
ロジェさんは私に聞いてきた。
「ロジェさん、私どうしたらいいですか?」
「…どうしたら?」
「えっと、引っ張られてきたはいいんですけど、動けなくて。」
「動けない?助ける?」
「お願いします!」
ロジェさんに言うとロジェさんは私をぐるぐる回っている子どもたちの中から解放してくれた。子どもたちは、ロジェさんに対して、「***!」「**!」などを言っていた。文句を言っているのだけはわかった。
ロジェさんは困ったような顔をしていたが、お母さんたちが、子どもたちをなだめているようだったので、ロジェさんと私はそのお母さんたちに「モルケ」とお礼を言って、教会の方に入った。
神父さんがロジェさんにモルケとお礼を言った後、紙幣のようなものが手渡しされていたため、ロジェさんは授業で研究費とか生活費とか稼いでいるのかと納得した。
ロジェさんは街に着くまでの間、とても落ち込んだような顔をしていたので、話しかけるべきか、話しかけないべきかでとても悩んだが、勇気を出して話しかけることにした。
「ロジェさん。」
ロジェさんに話しかけても返事はなく、落ち込みながらも何かを真剣に悩んでいるのではないかと思い、もう一度声をかけてみる。
「ロジェさん!」
結構大きな声で言ったとは思ったが、ロジェさんには届かなかったようだ。ロジェさんのコートを引っ張り、
「ロジェさん。」
と言うとロジェさんはこちらに気がついたようで、少しびっくりしたような顔をこちらに見せ、
「?何か、あった?」
「ロジェさん、落ち込んでいるから、どうしたのかなと思って…。」
「落ち込む、」
「えっと、気分、気持ち?が落ち込む、いい方になってない?と言いますか…。」
ー落ち込むっていう言葉だけなのにうまく説明できない…
そう思っているとロジェさんには伝わったのか、ロジェさんはうなづき、
「落ち込む。私は、上手に、子どもに教える、できない…。」
と言っていた。話を聞くに、ロジェさんがこの年頃の人に教えたのは初めてだったらしく、普段はもう少し上の年頃の子やロジェさんよりも年上の方に教えることの方が多いそうだった。
そんなロジェさんの悩みを聞いているといつの間にかロジェさんの家についたため、ロジェさんは一旦、暖炉に火を灯し、バーリーもといココアを入れてくれて、私と共に暖炉の前にあるソファに座った。
「子どもは、私の、教える、こと、面白く、ない、から。楽しく、言葉を学ぶこと、難しい。」
と私に言った。そもそも、小さい子は勉強自体が好きではないかもしれないとも思う。
私が小さい頃はどんなことをして、言葉を覚えただろうかと想像してみるのであった。




