第十四話『助手』
お風呂から上がると、暖炉に炎がついていた。ロジェさんはその前のソファに座って何かを真剣に悩んでいるようだった。ロジェさんがこちらに気づいていなかったようなので、ロジェさんの近くに寄って見ると、ロジェさんは流石にこちらに気づいたようだ。
「!リン。どうだった。」
「すごく、よかったです。ありがとうございました。モルケ!」
というロジェさんはにっこりと笑った。そしてロジェさんは私に対して、こんな提案をした。
「リンが、役に立つこと、気にする?なら、リンに、研究の、手伝い、以外に、教えるのを手伝う、してほしい。」
「教える、ですか?」
「私、言葉、みんなに、教える。から、それの、手伝い。」
「でも、私、話せないです。」
「ポリット語?」
「はい。」
「でも、大丈夫。少しずつ、私が教える。」
ロジェさんはそして少し微笑んで、
「私にも、日本語?教える、ほしい。」
と言われたので、私は全力でうなづいた。
「ごめんなさい。考えてくれて、役に立てるように頑張ります!」
すると、ロジェさんは複雑そうな顔をして私を見たので、
ー役に立つ、立たない関係ないって言ってたのに、役に立つって言ったからだろうか。
と何か、複雑そうな顔をさせる原因を探していたところロジェさんが口を開いた。
「ごめんなさい、じゃない。ありがとう、言って、ほしい。」
「あ、ありがとうございます。」
そうだ、私にはごめんなさいって言ってしまう癖があるんだった。ロジェさんはそれを気にしていたようだった。モルケが挨拶の中に入っているぐらいだから、ありがとうが結構大事なのかな?と思った。
「私は助手になるってことですか?」
とロジェさんに聞くと、ロジェさんは
「…じょしゅ?」
と聞いてきたので、
「えっと、手伝う人っていうことです。」
というとロジェさんは「助手…。」と舌の中で言葉を転がすようにしてつぶやいていた。
「助手、わかった。リン、助手できる?」
と言われたので、
「はい!」
と全力でうなづいた。
ロジェさんは私にソファに座ってくるように誘導し、暖炉の前に座った。
「お風呂に、入る、後は、冷えやすいから、暖かく、して。」
と言われた。ロジェさんはそのまま台所の方に消えていったので、ロジェさんに、
「手伝います。」
と言うと、やんわり断られてしまった。
暖炉の前でぬくぬくしていると、暖炉から木の燃えるパチパチとした音が響いてくる。
暖炉は映画や動画で見たことはあっても、自分の目で直接見たことはないので、パチパチと言う音に耳を傾けながら、炎が形を変えて燃えているのを眺めていた。
ぼーっとしていると時間を忘れてしまったようで、ロジェさんが「リン!ご飯。」と呼ぶ声で自分の意識に戻っていたようだった。
テーブルに着くと、フランスパンっぽいパンと、トマト缶で煮込んだようであろう、シチューのようなものが置いてあった。席に着くと、ロジェさんがどうぞと言ってきたので、「いただきます。」と言って食べると、ロジェさんが気になった顔で、
「いただきます。は、ご飯の挨拶?」
と言ってきた。
「いただきますは、食材の命に感謝?ありがとうっていうことです。」
と拙い説明でロジェさんは納得したような顔をして、「ありがとう。」と言ってきた。多分、教えてくれてありがとうの意味であると思う。
ロジェさんも朝と同じように胸に手を当てて、「ティレ・モルケ」と言って食べ始めた。
ーティレ・モルケってこんにちはって意味なのでは?
と疑問に思っていると、ロジェさんはこちらの目線に気づいたようだった。
「ティレ・モルケって、こんにちはと言う意味ではないんですか?」
すると、ロジェさんは少し、首を傾げた後、納得したような表情になり、説明をしてくれた。
「ティレにありがとう。だから、ご飯の、時の挨拶も、一緒。」
といい、加えて、
「蝋燭は、火を、つける。だから、ティレが、光で、分かる。ティレにありがとう、ちゃんと、伝えるため、につける。」
と言うふうに教えてくれた。蝋燭がここでは多いと思っていたのは、ティレのためであったらしい。
簡単な仮説として、この世界での蝋燭は日本でいうところの神棚とかお札とかお守りみたいな感じなのかなと思った。
私もティレ・モルケというとロジェさんは少し微笑んでくれた。
食べ進めているとシチューのようなものはトマト缶で煮込んだようなものの味がして、とてもおいしかった。お肉はほろほろと解けていくような感覚があり、にんじんや玉ねぎ、パプリカのようなものが入っていた。
日本の料理も美味しいけど、こっちの世界の料理もめちゃめちゃ美味しく、ロジェさんに「美味しいです。」ということを伝えると、ロジェさんは「嬉しい。」ととても良い笑顔で微笑んでくれた。




