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第十三話『不安』

 ロジェさんはまだ顔色の悪い私を心配して、先に休むことを提案してくれた。そうしたら、ロジェさんの役に立てないと思った私が、首を振るとロジェさんはソファに座っている私の目を見て言った。


「怖い?不安?…教えて、ほしい。」


ロジェさんは私の目を見て真剣に言った。


ーロジェさんに隠し事をするのは良くない。


そう思い、私は口を開いた。


「ロジェさん、私、本当はジパングの人じゃなくて、多分、別の世界の日本から来たかもしれないです…。ごめんなさい。」


頭を下げる。私はロジェさんの目を見ることができなかった。ロジェさんはどういう反応をしているだろうか。私が、ジパングの人じゃないことを良くは思わないだろう。


どう思うだろうか、助けたことが利益にならないことを後悔しているだろうか。何の生産性のない自分を。


「顔、上げる、いい?」


ロジェさんが聞いてきた。ロジェさんに言われて顔をあげる。ロジェさんは先ほどと変わらない真剣な目をしていった。


「日本から、来た。は前も、聞いた。ジパングが、日本、違う?のは、一つの、分かる、こと。だから、良いこと。別の世界?は分からない、けど、大丈夫。」


「ロジェさんは、私が、ジパングの人じゃなくて残念じゃないんですか…?」


「残念?なんで?」


違うんだ。ロジェさんは利益になるから、私がジパング語が話せるから、じゃなくて善意の気持ちで助けてくれたんだ。


勘違いをしていた。


社会の先生が教えてくれた資本主義の考え方に私は自分の価値を押し当てていたようだった。


ロジェさんに悪いことを考えてしまった。ロジェさんはそんな人ではなかった。


「残念、じゃない。だから、泣かないで。」


ロジェさんに言われて気づいた。頬に涙が伝っているのが感じる。私は急いで、服の裾で涙を拭こうとしたが、ロジェさんにハンカチを渡された。そのハンカチで涙を拭う。


「わ、私、ジパングの人じゃない、から。ジパング研究のこと、手伝うって、手伝うって言ったのに、何の役にも立てないと思って、そしたら、ロジェさんは、私のこと、ここに置いておく意味がない、から。」


泣いているからだろう。声が詰まってうまく言葉が出てこない。


「そんなこと、ない。」


そう言ってロジェさんは私の背中をさすってくれた。こんな優しい人が自分の私利私欲のために自分を保護したではないかと思っていた自分に罪悪感を覚えてしまう。


その後もロジェさんは親身になって、寄り添ってくれた。


「役に立てなくても、置いてくれますか?」


そう聞くと、ロジェさんは困った顔をして、


「リンは、役に立たない、こと、ない。でも、役に立つ、立たないで、リンを、家に、置くは、関係ない。」


そう言ってくれて、私はとても嬉しくなった。


 しばらく経って自身でも落ち着いてきたことが分かる。


「ごめんなさい。怖くなっちゃって…。」


「大丈夫。怖い、分かる。」


ロジェさんは私が落ち着いてきたことを確認したようで、気になっていたのであろうことを聞いてきた。


「リンが、ジパング、の人、ない、思う、のは、これ?」


そう、先ほど読んでいた世界史探究の本を指さしてきた。


「そうです!」


「どうして?」


ロジェさんが聞いてきたので、先ほど気づいたことをロジェさんに伝える。


ー地図や地名が全く違うこと


ー2025年からきたが、2049年の書なのにも関わらず、私の知っている世界史とはかけ離れていること


ー自分たちの国のことを日本と記すが、ジパングとは記さないこと


「もしかしたら、昔の国や王朝の名前があったので、並行世界かもしれないです。」


ということも伝えると、ロジェさんはポカンとした顔をしていた。何かあったのだろうかと、ロジェさんの顔を見た。ロジェさんが口を開いた。


「短い、時間で、すごい。研究の人、なる?」


と聞いてきたので、私は少し褒められたことが嬉しく、照れ臭くなってしまった。それからロジェさんは私にお風呂に入ることを提案してくれた。


寒い地域であるほか、火山が近くあるため、温泉が湧くらしく、その温泉を各家庭が引いているらしい。ロジェさんは火山という言葉を知らなかったので、「とても、熱い火が…出る?山」というふうに説明していた。


何はともあれ、お風呂に入れることはありがたい。その言葉に甘えて、お風呂にゆっくりと浸かることにした。


お風呂に入ると疲れに染み渡ってくる。まだ、二日しかこっちの世界にいないのに、とも思ってしまうが、濃い1日であったとも思う。


そして、お風呂でロジェさんに変なところを見せてしまったことと、


ー私のこと、めんどくさかったよな。


と思い、一人で反省会をするのだった。

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