第1話 処方箋に潜む嘘
宮野華は、薄暗い書斎の机に腰を下ろし、開かれた薬草図鑑を前に眉をひそめた。見慣れない植物名、奇妙な効能、そして――どこか不自然な調合法。16歳の少女の姿に転生した自分の指先が、現代の化学知識を駆使して自然と動く。
「……これは、偽薬だわ。」
宮廷で名を馳せる薬師家の末娘──そう自称する彼女の家には、表向きは名声があるものの、裏では毒薬や効かない薬が蔓延していた。街の人々のささやき、宮廷内の噂、家族の冷たい視線……すべてが、目の前の処方箋の中でつながる。
初めて任された薬局の小部屋。華は、埃をかぶった調合器具と色とりどりの薬草を前に、息を深く吸った。ここから始める――この街の病も、偽りも、すべてを解明するための第一歩を。
「患者の命は、薬の嘘で奪われることは許さない。」
華はそうつぶやき、手元の薬瓶にラベルを貼る。今夜、町の小さな薬局から、異世界の宮廷を揺るがす物語が静かに動き始めるのだった。
扉をノックする音がした。そこには、元盗賊の薬草採集者ルーカスが、笑顔で一握りの奇妙な根を差し出していた。
「お嬢さん、また新しい材料だ。今度はどんな薬になるのか、楽しみだね」
華は小さく微笑む。心の奥底で、異世界でも薬学の論理が、真実を解き明かす武器になることを確信していた――。