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 あれから2人は寮の前で健全にお別れをして(若干ホッとしたような顔をしていた気がする)、エラは自分の部屋で遅めの夕食を食べているところだ。


 王城の食堂で食べることも可能だが、今日は既に閉まっていた。


 (姉様のあんな顔初めて見た)


 夕食に用意したチキンサラダのトマトをフォークで指しながらルイーズの悔しそうな顔を思い出す。


 ルイーズがエラに見せる顔といえば、怒る顔か馬鹿にした顔ばかりで、どれも見ていて気分の良いものではなかった。

 時には暴力を振るわれることもあり、手を振り上げたときの、まるで般若のような彼女の顔は思い出したくもない。


 姉妹でありながら、このような関係になってしまった理由は、フィッツアラン家が騎士の家系であることに起因している。


 フィッツアラン家は代々、国に忠誠を誓う騎士を輩出してきた実績が認められ子爵位を授けられた。

 その例に漏れず、長男のハロルドは近衛騎士団に仕官し、長女のルイーズはヴォーガン公爵令嬢の専属護衛として仕えている。

 次女として生まれたエラもまた、騎士としての道を歩むことが当然のように期待されていた。


 だが、体格に恵まれなかったエラは、どれほど鍛錬を積んでも重い盾を持ちながら走り続けることはできず、重い剣を自在に操ることは叶わなかった。

 正直なところ、エラの身長や体格にあった装備を整えてくれていれば、騎士になれたのではないかと今は思う。

 しかし、当時のエラは自分の努力が足りないのだと考えていたし、何より、脳に筋肉が詰まっているかのような父にそれを伝えたところで、きっと耳を貸さなかっただろう。


 もし母が生きていれば違ったかもしれない。

 色素の薄い金髪やラベンダー色の瞳、他の子どもと比べ小さめで産まれてきた彼女を見て、エラ(妖精)と名付けた母ならば、きっと止めてくれただろう。


 しかし、母はエラを産んだ数年後に病で亡くなっている。


 期待に応えられなかったエラと、体格に恵まれ順調に騎士の道を歩むルイーズを、父は次第に比較し、ルイーズばかりを褒め称えて構うようになった。

 そんな父の態度の中で育ったルイーズは、自分に自信を持ち、エラは自分よりも劣っている存在と認識し、エラを虐げるようになったのである。


 『老婆のような髪に辛気臭い顔!見ているとイラつくから部屋から出ないでくれない?』

 『どこに行っていたのよ!?早く装備品を磨いておいて!それくらいでしか役に立てないんだから』

 『騎士になれないのに栄養が必要なのかしらぁ??まともに動かないんだから食事はいらないでしょう?』

 『今日嫌なことがあってとーってもイライラするの。だからそこに立ってくれる?逃げたり抵抗したらもっと酷い目に遭わせるからね』


 日常的な暴言に加え、雑用の押しつけ、食事を抜かせる、果ては暴力にまで及ぶ——ルイーズは執拗にエラを虐げてきた。


 ちなみに、父や兄からは直接何かされたことはない。

 一度だけ勇気を出して、ルイーズの仕打ちを父に訴えたことがあるが、返ってきたのは「もっと強くなれ」という一言だけだった。

 それ以来、エラは父に対し何かを期待することをやめた。


 父や兄は騎士になれない私のことなど気にも留めていないのだろう——エラはそう考えている。


 (騎士であることを誇りにしている人たちだから、騎士道に背くようなことはしないって、そういうことだったのかな)


 だが、明らかに騎士道に反しているルイーズの振る舞いを咎めようとしないことは、騎士道に背くことにはならないのだろうかと、エラは首を傾げる。


 幼い頃、エラにとっては家族が世界の全てだった。

 だからこそ、エラは期待に応えられない自分が悪いと信じ、ルイーズからの仕打ちにも耐え、父や兄に見向きもされなくても仕方がないと自分を納得させていた。


 しかし、3年前に魔道師団に仕官し、あの家から離れたエラは、自分が狭く小さな世界に生きていたことに気づくことができた。


 (私はもう、彼らに認められる必要なんてない。姉様のことも、もう怖くない)


 なぜなら、魔道師団にはエラのことを認めてくれる仲間がたくさんいて、エラの魔法はルイーズの剣よりも強い。

 

 とはいえ——人間である以上、これまでの仕打ちを思い返せば、何も感じないわけじゃない。

 

(一ヶ月くらい、仕返ししても……いいですよね?姉様)


 食べ終えたチキンサラダのボウルを片付けながら、エラはひとり、くすりと笑った。



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