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8/11

void 休日のひと時()

朝早く。

隆太とゴルンが木剣を交えている。

しばらくは高速の打ち合いが続いたが、隆太の剣がブレた一瞬のスキを突かれ、隆太の剣は切り上げられた。

そのまま首筋に剣を突きつけられ、隆太はゆっくりと両手を挙げた。



「……参りました」



その言葉でゴルンはすっと剣を納め、軽快に笑う。



「いやぁ、それにしてもメキメキ上達してるな!この調子ならあと少しでBランクに到達するんじゃないか?」

「ありがとうございます!」



そう言ってぺこりと頭を下げる隆太。

そんな隆太を見てゴルンは頬を掻く。



「それにしてもなぁ……お前、今日休みだろ?朝っぱらからこんなところに来て特訓たぁ、頑張ってるなぁ……」

「なんか、一日一回は剣を振らないと気が済まなくて」

「お前がそれでいいならいいけどよ……」



今日は隆太の非番の日。

しかし、朝早くに隆太は訓練場を訪れ、剣を振っていた。

ゴルンがたまたま訓練場を訪れた際、試合を乞われた、という訳である。

隆太は木剣をしまい、荷物をまとめる。



「それじゃ、俺はこれで」

「おぅ、しっかり休めよ」

「はい!」



そう言って隆太は訓練場を後にした。

見習い時代はこんな日も一日中訓練場で剣を振るうような毎日だったが、騎士になってからはリーゼから休むように言われている。

見習い騎士は基本戦力として扱われないが騎士となると話は変わる。

自分の仕事日に万全の力が発揮できるように休日はしっかりと心と体を休めることが推奨されるのだ。

隆太はいつもより軽い荷物を持ちながら歩く。



——数日前。



『え、ドライバーと神石を預かりたい!?』

『そう。研究の為にしばらく預けてもらいたいの。』

『もちろん、仕事日にはお返ししますが、隆太君のその力の解析が対バグルートへの大きな近道につながると思っているのです!』



そう言って頭を下げる実子と翔太。

そこまで言われると、隆太としても断る理由がない。



『分かった。預けるよ』



そうしてドライバーを翔太たちに預けたが故、今ドライバーが手元にない。

隆太は、まだまだ特訓していたい気持ちはありながらも、それを抑えて街をブラブラと放浪していた。

このまま自身の部屋に戻るのはどことなくもったいないような気がする。

折角外に出たのだから、外で何かしたい、と思っている。

隆太はそういう人間であった。


しかし、日はまだまだ低く、人通りも少なく感じる時間。

さて、どこで暇をつぶそうかと道を歩いていると、突然人の流れが多くなってきた。



「あ、朝市か」



どうやら朝市を行っている道に出たらしい。

そこにはたくさんの人たちが少しでもいい物を手にしようと目をぎらつかせていた。

隆太も、何か掘り出し物は無いかと見て回ることにした。



——どれもこれも、使い方の見当もつかない。

隆太が見て回った感想がこれだ。

結構異世界の常識に最適化された品物が多く、隆太の知識に当てはまるような品物はほとんどなかった。

基本的に建物の外見は中世の雰囲気があるが、魔法によって作られたその外壁は近代建築のそれに匹敵する物となっている。

こっちに来てあまり生活に困らなくて済んだのも魔法、という技術のおかげによるものが大きい。



そして、もう一つの問題。

当然、朝市と言うからにはアクセサリーや掘り出し物とは別にもう一つ、巨大な市場がある。

そう、食品だ。

しかし、隆太は料理をしない側の人間である。

故に。



「よくわからん……」



食材を見てもちんぷんかんぷんであった。

もしかしたら、日本と同じような食材もあるのかもしれないが、隆太にはさっぱりだった。

匂いとかで何か分からないかと鼻をスンスンと動かす。


——特に何もわからなかった。



という訳で、隆太はフラフラと市場を歩き回っていたわけだが。

ふと、近くで小さな子供がキョロキョロと不安そうにあたりを見回しているのが見えた。

おそらく5~6歳ぐらいだろうか?

隆太は人混みをかき分けつつ、幼女に声を掛けた。



「あの、君、大丈夫?」



幼女はビクッとしながらも隆太の方を見て、少し後ずさるように動いた。

隆太は慌てて弁解するように話をした。



「あぁ、嫌、ごめんね。もしかして、お父さんやお母さんとはぐれたのかなって。何にもないんだったら俺はすぐに行くよ」



隆太がそう言うと、幼女は少しだけ警戒を緩めたのか、ポツリ、と声を発した。



「お姉ちゃんとはぐれたの……」





姉とはぐれたという幼女を連れ、市場をうろうろする隆太。

曰く、姉と一緒に市場に来たはいいものの、途中で人ごみに巻き込まれてしまい、姉を見失ってしまったとのこと。

クリスと名乗った幼女は隆太に肩車されてきょろきょろとあたりを見回している。

クリスが言うには、姉は結構目立つ容姿をしているため、すぐに見つけられるだろうとのこと。

隆太がそのお姉さんの容姿について質問すると、「スラーっとしてて、すっごくかっこいいの!」と返された。

まぁ、おそらくむこうも探しているので、自分が傍についておけば危ない事にはならないだろうと思い、探すのをクリスに任せながら市場を進む。



しばらく歩き回っていると、「泥棒っ!」という一際大きな声が聞こえてくる。

しかし、すぐに「痛っ!放せ!」という男の声が聞こえてくる。


隆太はとりあえず騎士として現場に急行せねば、という思いで人ごみをかき分けつつ声のしたところへと赴く。

そこには、見覚えのある人物が片手に大量の食品を抱えつつ、もう片方の手できつく男の手をひねり上げている光景があった。


隆太が声をあげようとしたその時、頭の上のクリスも同時に叫んだ。



「リーゼさん!?」「お姉ちゃん!!」



その声にリーゼは振り向く。



「クリス!!?と隆太!?どんな組み合わせだ!!?」



リーゼが一瞬気を取られた隙に男は拘束を脱し、逃げようとする。

しかし、すぐにリーゼは再び男の手をきつくひねり上げた。

男は悲鳴を上げるが、リーゼは冷たい目で男に語り掛ける。



「ほう、まだ反省していない様だな……このまま折るか?」



そう言われた男は真っ青になって首を振る。



「ならば騎士がくるまでおとなしくしていろ」




ひったくり犯を騎士に引き渡した後、隆太たちは市場を抜けた。

クリスは隆太の肩車が気に入ったようで、引き続き隆太の頭の上にいる。

隆太は驚いたようにリーゼと話す。



「驚きました、リーゼさん、妹いたんですね!」

「あぁ。そうだ。かわいいだろ?私の自慢の妹だ」

「私、じまんの妹!」



クリスはふふん!と隆太の上で胸を張っている。

そんなクリスの様子を微笑ましく思いながら、リーゼは話し出す。



「いや、気づいたらクリスがいなくなっていてな。探しに行こうと思った矢先、あの事件だ。先に保護してくれていたのが隆太でよかった」

「いえ、俺の方こそ。クリスちゃんがリーゼさんと会えてよかったです」



しばらく歩いたのち、ある家の前でリーゼは立ち止まった。



「ここが私の家なんだ。良かったら休憩していってくれ」

「えぇ!?そんな……」

「それに、丁度いいタイミングだった。ぜひ隆太にもしてもらいたいことがあってだな……」

「?」



そう言ってリーゼは隆太を家へと招き入れた。




リーゼの家は隅々まで整頓がされていた。

ダイニングに案内されると、席につくように促され、隆太は座った。

クリスはその向かい側に座ると、隆太に話しかけてきた。



「ねぇねぇ、お兄ちゃん、お姉ちゃんのこと、知ってるの?」

「え、あぁ、うん。お兄ちゃん、お姉ちゃんにいつも助けてもらってるんだ」

「へぇ!そうなんだ!」



クリスはキラキラとした瞳で隆太を見ている。



「お姉ちゃん、すごい?」

「うん、凄いよ。お兄ちゃんより、ずっと、ずぅっと!」



クリスはそれを聞いてでしょでしょ!と言った感じで鼻を鳴らす。

そんな他愛もない話をしていると、リーゼがダイニングに戻ってきた。



「すまない、わざわざクリスの相手までしてもらって」

「いえ。クリスちゃん、いい子ですし、全然楽しいですよ、ね!」

「うん!」

「それで、してもらいたいことって何ですか?」

「それはだな……」



そう言ってリーゼは隆太の目の前に皿を置いた。

中には赤みがかったスープが入っている。



「この料理の味見をしてほしいのだが……」

「これ、ですか?」

「そうだ」



出されたスープからは非常に良い香りが漂い、まだ朝ご飯前だった隆太の胃を刺激する。



「私は料理をすることが好きなんだが、食べてくれる相手がクリスしかいなくてな。いつもおいしいと言って食べてくれるのはありがたいのだが……」

「お姉ちゃんのりょうり、おいしいよ!」

「他の人にも食べてもらいたかったのだが、その機会が無くてな……是非食べて、感想をくれるか?」

「はい!いただきます!」



隆太は待ちきれないとばかりにスープを一口飲む。

どうやらトマトスープのようで、新鮮なトマトの風味を欠けさせることなくその豊潤な甘みと酸味を出している。

肉はたっぷりとトマトのうまみを吸い込んで、一口かみしめるごとに肉のうまみとトマトのうまみ、両方を感じられるようになっている。



「これ……」



リーゼはごくりと唾を飲み込む。



「めっちゃうまいです!」



隆太がそう言うと、リーゼは顔をほころばせた。



「そうか!それならもっと食べてくれ!クリスもどうだ?」

「たべるー!」



そうして和気あいあいとした休日は過ぎていくことになった。


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