void 異変の前兆()
「隆太君、まずいですぞ!」
「まずいって何が?」
先日の襲撃からしばらくして、隆太は翔太に呼び出されていた。
「バグルートでござるよ!あれ、どう考えても私たちのチートが原因に近いですぞ!?先日の三森殿の件と言い、何かしらのチートに起因していると考えるのが自然なのでは?」
「うーん……」
翔太にそう言われた隆太は、顎に手を当てつつ考え込む。
「それに、先日の鑑定結果も確認したのですが、これを見てくだされ」
そう言って二枚の紙を手渡してくる。
隆太は両方の紙を見てみるも、両方白紙であった。
「真っ白……?」
「そう、両方とも真っ白!実子殿によると、鑑定に失敗したのとは違うもののようで……でも、こんな異常が起こる可能性があるのは、同じようなチートだからではないのですか!?」
「そう言われると、確かにね……」
『とにかく、隆太君も気を付けてください。三森殿の例もある以上、私たちがバグルートにならないという保証はないわけですから』
その後、二人で他愛無い雑談をして別れた隆太は、王城へ向かった。
——王城に召喚された隆太たち3-2は、そのほとんどが王城に部屋を貰っている。
それは、神から召喚された賓客である、という理由からだが、極数名、実子や翔太等は別の場所に住む場所を変えている人物たちもいる。
いつものように隆太が部屋に戻ろうとしたとき、クラスメイトの一人とすれ違った。
元気のなさそうなクラスメイトに隆太は声を掛けた。
「やぁ……なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「あっ……隆太君……?だ、大丈夫、僕、もう行くから」
「あ……」
クラスメイトは隆太と目が合うと、気まずそうにさっさと歩いていく。
そんなクラスメイトを止めることもできず、そのまま行かせてしまう。
とぼとぼと道を歩いていると、少しぼそぼそとした声が聞こえてくる。
どうやら、王城に勤めるメイドの会話が聞こえてきたようだ。
「ねぇ、まだここに居るの?あの、なんだっけ、異世界人?」
「まぁ、ここ以外に行く場所もないそうですし」
「でも、最近は部屋に引きこもってるだけで、何もしてないじゃない」
「王様が丁重に扱うように言ってるからしっかりともてなしてはいるけど、本当になんでいるんだろうね?」
そう話しながら去っていくメイド達。
「……印象最悪だな……」
少し自覚があった隆太は苦笑いをしつつ自室に戻った。
——夜。騎士団の宿舎にて。
「なんで、異世界人を重宝するんすか……私たちの方が絶対に強いし、それに……」
そう言って机に向かい、沢山の本を並べていたのは、以前リーゼに物申した騎士見習いの少女、ミスカだ。
彼女を含めて数名は、隆太のクラスメイト達が騎士になってしまったせいで騎士になることができなかった。
勿論、不満はあったがそれでも最初は飲み込めていた。
しかし、今はどうだろうか。
異世界人の多くは部屋にこもりっぱなしで何でこんな奴らを採用したのか、という連中が大半である。
だからこそ、ミスカは同期の皆の要望をリーゼに伝えたのだが、結局受け入れられることは無かった。
「今度は、皆で直談判を――」
『——』
「——え?」