幽霊部員 前編
あの旧校舎での出来事からはや2週間程の期間が過ぎた。
今思い返せばあれは酷い仕打ちだった。
人が人ならイジメだとも取ってしまうんじゃないか。僕がショックを受けて学校に来なくなったらどうするんだ。うんぬん。
なんて事を反芻しているが、僕の所属部活動は新聞部のままである。
つまり、それが良いことかは置いておいて、旧校舎での出来事は僕が新聞部で3年間やっていく決意を固めさせるだけの奇妙な魅力を持っていたのだった。
といっても、学生の本分は授業に真面目に出て、勉強をする事である。それを疎かにする気はない。
なので、新聞部の取材活動は程々にー
するつもりだったのだが。
「なぁあんた。確か新聞部部員だよな」
「え、うん。そうだけど」
休み時間、僕は男子2人組に話しかけられた。
「同じクラスだけど、話すのは初めてだよな。俺は末森で、隣は本郷。よろしく」
「うん、よろしく」
背が高く怖そうな人と、小さいが優しそうな人。
僕の第一印象はそんな感じだった。前者が末森で後者が本郷だ。
「俺たちは軽音学部に入ってるんだけど、ちょっと気になる事があってさ」
「どんな事?」
「あんま大声で言いたくない事なんだけどさ、その、」
「うちの部活に関して、なにな悪い噂を聞いた事が無いか?」
軽音学部の悪い噂?それは聞いた事が無かった。
僕はまだ入学して2ヶ月経ってないし、新聞部としての活動期間も短い。多分この学校に関して得ている情報は彼らと大差ないだろう。
「うーん、聞いた事ないね」
「そうか…そうだったか」
「期待に添えなくてごめん」
「いや、こっちも変な事聞いちまったな。悪い」
「部活の先輩達なら何か知ってるかもしれないけど、聞いてみようか?」
「あ、あぁ!ちょっと聞いてみてくれないか」
「うん、ちなみにどんな噂なの?」
「軽音学部の部室に、死んだ先輩部員の幽霊が出るって話」
放課後。
まさか、幽霊とは。
彼が内容を話すのを渋っていたのは『高校生にもなって…』みたいな所もあったのだろう。
でも話してくれた。それならば出来る範囲で応えたいものだ。
という事で、新聞部部室の前まで来た。
今日も宇水先輩しか居ないんだろうな、と思い部屋に入る。
「お疲れ様ですー」
そこには、見慣れた宇水先輩と全く知らない女子生徒がいた。
「あんた誰」
「………初めまして」
彼女は書く手を止めて、僕を見ている。
チラッと上履きに示された学年色を確認する。どうやら2年生らしい。
「先輩、コイツ誰」
しょ、初対面の人に向かってコイツとは…
いくら先輩とはいえ、酷い。
ちょっと凹んだ僕を尻目に宇水先輩が話す。
「新入部員の子。一年生の」
「あ、初めまして。新入部員の…」
「別に言わなくていい」
まさか、名前すら言わせてもらえないとは。怒っているんだろうか。
「悪いな。彼女ちょっと怒ってるみたいでさ」
当人がいる前でそれを言うとは、煽っているんだろうか。
と思ったが、彼女は特に反応を示さなかった。
…彼女が居ない時に、宇水先輩にあの事を聞こうか。彼女怖いし。
と考えた僕は僕は適当な席につき、記事の校正を始める。
その後、特に会話もなく痛い沈黙が続く。
彼女はノートにペンを走らせ続け、宇水先輩は相も変わらずゲームをしている。
…彼女は中々居なくならない。もう待つのも面倒だし聞いちゃおうか。
思考が二転三転したが、結局、宇水先輩に聞くことにした。
「宇水先輩、ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「おー、なんだ」
「軽音学部の部室に幽霊が出るっていう話、聞いた事がありませんか?」
『軽音学部』『幽霊』という単語が続いた所で、彼女が目の色を変えた。
そして僕に詰め寄る。
「あんた、それ知ってんの」
「え?あ、はい」
「ちょっと来て」
「え、でも」
「先輩、今の話知らないでしょ」
彼女は宇水先輩に確認を取る。
宇水先輩は、「あー、聞いた事があるような、無いような」とふわっとした答えを返す。
「ほらダメ。いいから来なさい」
「私の名前は鵜飼 凛。新聞部2年。軽音学部の『幽霊』部員調査、付き合いなさい」
僕は彼女に引っ張られ部室を出る。
「『ダメ』って…」とでも言いたげな宇水先輩を残して。




