入部 前半
「成程!そんな君は我が新聞部に入らないか?」
新入生ターゲットの部活勧誘ーーー
そこが僕と部長との出会いだった。
何が「そんな君は」なのかは分からなかったが、高校の部活など何でも良いと考えていた僕はその言葉に乗ることにした。
「おぉ!入ってくれるか!私は五百蔵楓、新聞部の部長だ!よろしくな!君!」
僕が送るはずだった何の変哲もない課外活動の時間。
その時間は今日この人と出会った事で打ち崩される事になったのだ。
ーーーー
「お疲れ様でーす」
「あー、おつかれー」
今日の授業を終え、新聞部の部室に入った僕を出迎えたのは3年の先輩だった。
「先輩…またゲームですか?」
「いやー、俺が担当してる記事はもう校正まで終わったからさぁ。少しぐらい遊んでてもいいだろ?」
「相変わらず仕事早いんですね…僕のやつも手伝ってくれませんか?」
「断る!」
「なんでですか!?」
「甘やかしてばかりでは後進の育成は務まらん、って事だよ」
この人は「宇水渚」
新聞部の副部長である。
非常に仕事のできる人間だが、そのモチベーションの出所は『仕事を早く終わらせて休みたい』というところから来ている。
なので他人の仕事を手伝おうとはしないのだ。
(とりあえず、自分の仕事をするか…、でもネタすらまだ考えてないからなぁ…)
その後、30分程机に向かって熟考していた。しかし、ネタのカケラも出てこない。
(考えるのもめんどくさいなぁ…ちょっと先輩に聞いてみるか)
「先輩ー、僕でも取材できそうないいネタ無いですかねー」
先ほどからずっとスマホと向き合っていた先輩がこちらを向く。
「お前、まだそこなのか…手が動いてないとは思っていたが」
「そうです、まだここですよ。何かいいのがあれば教えてくれませんか?」
「んー」
少し悩んだ後、彼は話し始めた。
「ちょっとオカルティックな所に踏み込むんで、俺は避けてたんだがな」
「旧校舎の黒い鏡は知ってるか?」
『黒い鏡』。
「いや、聞いた事ないですね」
「なんかなぁ、旧校舎に真っ黒い鏡があるらしいんだ。んで、夜中にそこに行くと何か起こるらしい」
「なんですかそれ…どこかで聞いた様な話ですね?」
「だろ?先輩から教えて貰ったんだけど、こういうオカルトは俺は好きじゃ無いからな」
「でも、意外とこういうのは人ウケが良いぞ。それに、最終的に『何も無かった』ってオチをつけたとしても、ケチを付けるやつは居ないしな」
「ありがとうございます。今から行ってみます」
「おー、頑張れよ。でも噂じゃー夜中らしいぞ」
「今回は偵察です。夜中は隙見て行ってみますよ」
手をヒラヒラさせている先輩を尻目に、早速旧校舎へ向かうことにした。
実際に現地に行けば、少なくとも手抜きの記事とは思われないようにすることができるだろう。
オチなんて先輩の言う通り、『何も無かった』でも良いのだから。
そういや、今日は新聞部に誰もこなかったな。
新聞部の部員は6名で、3学年それぞれに男女の部員がいる。
一年生の女の子もいるらしいのだが、あまり知らない。
その子と新聞部で会ったことが無いのだ。
(同じ部活なのに、変な話だなぁ)
なんて事を考えていると、旧校舎に到着した。
特に立ち入りが禁止されている訳でもなく、一階の一部分は倉庫などに使われている。
なのでたまに人の出入りはあるようだ。
流石に放課後は誰もいないだろうが。
といっても、先輩は旧校舎のどこそことは言ってなかったからな。
全部探すのは面倒だぞ。
などと考えていたが、驚くほどあっさりと見つかった。
その鏡は2階の踊り場にあった。
(確かに真っ黒いんだな)
噂通り、ペンキか何かで塗られたように真っ黒だった。
ここが踊り場で無ければ、鏡だとすら認識しないのでは無いか。
確かに変な鏡だな。
だが、それ以外何も無い。
異様ではあるが、言ってしまえばただの黒い鏡が鎮座しているだけである。
(夜中に来ると何かが起こる、って先輩は言ってたな)
と、場所の確認を済ませ、とりあえずその場を後にすることにした。
近場のコンビニで軽食を買い、学校へ戻る。
その後位置的に旧校舎に近い剣道場に居座り時間を潰していた。
もう剣道部の人間は帰っており鍵も閉まっていたが、ここの裏手の窓は割れたまま修理されてないのを知っている僕は自由に出入りできるのだ。
その後はスマホなどを弄り時間を潰していたが、次第に眠気が来た僕は少しだけならと思い寝ることにした。
キンコンカンコン。
という聞き慣れた音で目を覚ます。
しまった。今何時だろう。
スマホを見ると夜中の1時である。寝過ごしたかと思ったが、良い時間に起きれたようだ。
時間もいいことだし、早速旧校舎へ向かおう。




