身勝手な春
もっと話を聞かせて
もっとあなたを知りたいから
春は勝手だ
身勝手に人を出会わせて
別れさせる
そんなやり方、誰もついてこない
そう思うと私は春に似ているのかもしれない
私には誰もついてこない
ついてきてほしくないからだ
身勝手な私は何かをする気力はない
自分が何者かもわからない
そんな私に誰かを巻き込んではいけない
君に会ったのは桜の降る帰り道
身勝手な君は私なんかお構いなしに話しかける
迷惑だと言っても
歩くスピードを上げても
君は私についてくる
もっと話を聞かせて
もっとあなたと話したいから
君は聞いてもいないのに話をする
家族の話、学校の話、友達の話
趣味や好み、ついしてしまう癖から
昨日の晩ごはんのことまで
君はいつも楽しそうに話す
おすすめの映画があったとか
面白い本を見つけたとか
ドジって失敗しちゃった事とか
もっと話を聞かせて
もっとあなたを覚えていたいから
君はたびたび、同じ話をする
家族の話、学校の話、友達の話
趣味や好み、ついしてしまう癖から
昨日の晩ごはんのことまで
私は最後まで君の話を聞く
さも、初めて聞いたことのように
初めてのリアクションをする
話す君の表情が素敵だから
もっと話を聞かせて
もっとあなたに生きててほしいから
自分がどんどん消えていく
とても怖い、辛い、痛い
あなたを失うのが怖い
それなら、いっそ…
そう、つぶやく君に
私はかける言葉が出てこない
その恐怖を体験したことがないからだ
私ができることはあなたの話を聞くこと
ただ、それだけだった
もっと話を聞かせて
もっとあなたを知りたいから
キョトンとした君の顔に桜が落ちる
話をしたいって顔をしてたから
ついてきてほしいって顔をしてるから
あの日、君が言った言葉を私が言う
身勝手な私は話し始める
もう一度、この話を