金稼ぎとランクアップ
【エンドレスファンタジー~金稼ぎとランクアップ~】
ギルドの登録と専用武器クエストを終えた儂は、取り合えず荷物になっているモコモコの毛を売りに一番目の前にあった道具屋に入った。
こじんまりとした店の中には沢山の棚があり、所狭しと色々なアイテムが置いてある。
「いらっしゃい。今日はどう言った用件だい?」
道具屋の少し太めの親父がそう声を掛けてきたので「モコモコの毛を売りに来たんですが」と言うと、「モコモコの毛なら一つ5Lで買い取るよ、いいかい?」と言うのでそのまま頷いた。
儂はアイテムウインドウからモコモコの毛を取りだす。
取りだしたそれは基本は小さなトランプ程度の大きさのカードになっている。
このカードの状態から更に念じると物質化するのだ。
売るのにはそんな事をする必要が無いので、そのままカードを手渡した。
「毎度!モコモコの毛が123個で615Lだね。またよろしく頼むよ」
そう言って親父が頭を下げてきた。
儂はとりあえず「またお願いします」と言って道具屋を後にする。
是で全財産が1100L程度になった。
だが、儂がゲームをやっていた時の扇の相場が一番低いレベルの物で10000L前後、多少値段の幅が違っているとしても今の財産では全く手も足も出ないだろう。
とりあえず、売ってるかどうかだけを確認する為に露店を見て行く。
露店自体はこの中央に集中し、東西南北の通路手前まであちらこちらにたっている。
露店と言っても実際地面に物を置いて販売すると言った物では無く、露店を開いている者の前にある『商品閲覧』と書かれているウインドウに触ると、目の前に販売されている品が書かれている新しいウインドウが開かれる。
その中から欲しいアイテムを選び、触ると購入できるのだ。
勿論金があればだ。
金が無ければ触ってもどうしようもない、何も起きないのだ。
金自体は購入した時自動的に減り、相手に手渡される事になるので、一々自分で金を出す必要が無い。
最初の頃は露店とはそういう物だったのだが、それでは中に何があるかウインドウを開いて見ないと解らず面倒くさい。
そんな意見が飛び交い、ゲーム会社の方も確かにと思ったのだろう、直ぐに対応された。
その結果、買う方法は変わらないが、それ以外に露店の直ぐ隣に木の板が立ち、其処にどんな品が売られているかが書かれるようになった。
便利な事に木の板に書かれている品は売れると自動的に消え、今現在ある物だけが表示される。
儂はその木の板を見ながら露店を見て行く。
一通り見渡してから3件ほど扇が売っている露店があった。
一つ目の露店では12000Lだった。
少し高いと思いながら見つけた二つ目の店で11000L。
相場自体が上がったのかと思い最後に見つけた3件目が15000L。
それ以外に見つける事が出来ず、やはり相場が上がっていたのかと納得した。
どっちにしても金が全然足りない。
儂は溜息を付きながらもう一度ギルドへ向かった。
金を稼がないといけないからだ。
今現在の金を稼ぐ一番の方法はクエスト報酬を得る事だ。
簡単なクエストをこなして報酬を得る。
基本的に街の周辺には高レベルのモンスターは存在せず、レベルの低いモンスターばかりだ。
最初の頃のクエストは大体その低レベルのモンスターを退治したり、アイテムを集めたりする物が多い。
ギルドに戻ってきてクエスト板を見ると、書かれているクエストは三つ。
角ウサギの退治。
角ウサギの角の納品。
角ウサギの耳の納品。
この中で一番報酬が高いのが角の納品だ。
角ウサギの角はドロップ確率が低いレアアイテムに分類される。
と言っても、其処まで珍しい物じゃ無いので基本的に露店に出されたりする事は少ない。
露天に出して売る位ならクエストで渡した方が金になるからだ。
角の納品は一本で2000Lになる。
耳の納品の場合、10個で200L、普通に店で売るよりは全然高い。
確か普通に店に売った場合耳は1個当たり10L程度だった筈だ。
そして退治のクエストは角ウサギ20匹倒せば良いだけだ。
納品に関してはアイテムを集めて何度でもその場で受けて渡してでこなせるが、退治の場合だけは一々受けてから報告して、また受け直さなければいけない。
少し面倒だが普通に倒すより少しでも金になる方が良いので、短い時間でギルドと街の周辺を行き来する事が多くなる。
因みに退治クエストの報酬は300Lだ。
大体20匹倒し終えるまでに耳は10個位ならドロップする事が多いので、それだけでクエストを二つ達成出来る。
その上この三つのクエストは何回でも受けられるので、序盤の金稼ぎには持って来いなのだ。
問題点と言えば経験値が低いという事位だ。
レベルが上がりにくい。
モコモコですら一匹経験値が5あった。
だが角ウサギの経験値は3。
スキル経験値も3と少ない。
と言うのも、素早さとかは角ウサギの方が上だが、ナイフで一突きすれば死ぬくらいHPが低いからだ。
最初、身体の動かし方や、少しでも早く動く敵に慣れていない者だと多少苦労するが、それでも多少で、慣れてくればそれこそ楽に狩れる様になる。
とりあえず儂は退治のクエストを受け、ギルドを後にする。
納品クエストはアイテムが手に入ってからその時に受ければ良いので今受ける必要が無い。
むしろ今受けてしまい、間違えてアイテムが手に入らなかった時は、破棄しなければいけなくなり、破棄した場合ペナルティーで罰金1000Lにクエストを受けた回数がマイナス5される。
受けた回数が減らされるとその分次のランクに上がるのに時間がかかるので、出来そうもないクエストは受けないのが基本だ。
儂はとりあえずギルドから一番近い西門から街の外に出る。
街の周りは5メートルはある石の壁で囲まれている。
その門を抜けた先に広がるのはのどかに見える平原。
少し先に進めば森や川などもあるが、今はそんな所に行く必要が無い。
とにかく直ぐ近くに大量にいる角ウサギを倒さなければいけない。
早速儂は直ぐ近くにいた一匹の角ウサギにナイフを突き立てる。
すると光の粒に変わって消えて行った。
そう、角ウサギはこれ程までに弱いのだ。
その上ノンアクティブなのでこちらから攻撃しなければ襲いかかってこない。
だからこそ最初の一匹は基本的にナイフを突き立てただけで終わってしまう。
問題は周辺にいる角ウサギだ。
この角ウサギ、リンクモンスターなので、一匹が攻撃を受けると、ある程度の範囲内にいる角ウサギが襲いかかって来るのだ。
儂は気を付けて一匹しか傍にいないのを確認したつもりだったが、予想外にもう一匹後ろの方から体当たりをかましてきた。
軽くたたらを踏みながらも、最初から見えていた方の角ウサギの体当たりは躱す。
改めて体当たりを食らわせてきた方の角ウサギに向き直ると、また儂に向かって走ってきている所だった。
とりあえず、また体当たりをしてきた所をひょいと躱し、着地して動けない所にナイフを突き刺す。
その隙を付いたかの様にもう一匹の角ウサギが体当たりをしてくるが、視界に収まっていたので来るのが解っていた。
だから、危なげなく躱す事ができ、そいつも着地した時の動けない所を見計らってナイフを突き立てる。
「ふぅ、簡単すぎる」
一息吐きながらそう呟いた。
ある程度思った通りに身体が動かせるのであればそれこそこの角ウサギで苦戦するような事はあり得ない。
あるとすればそれこそ回りに10匹近くいるときに無謀にも攻撃を仕掛けたりする時だろう。
今の体当たりで幾らダメージを食らったのか確認すると3のダメージしか食らっていない。
10匹いたとしても落ち着いて戦えば問題なく倒せそうだ。
そう思いながら次々と角ウサギを倒していく。
20匹倒し終えた時点で一度ギルドへ戻り、クエストを終了させてまた受ける。
ついでに耳も13個ほど集まっているので10こ渡してクエスト完了。
そしてまた外へ出る。
それを5回ほど繰り返した時、ギルドの受付の対応が少し変わった。
何故かと言うとランクが上がったからだ。
「おめでとうございます。クエストを10回こなした為、ランクがEからDに上がります。これからもこの調子で頑張ってくださいね」
そう言われただけで、特に何かがある訳ではない。
とりあえずランクが上がったのでもう一度クエスト板を確認するとクエストが二つほど増えていた。
一つは巨大蛾の退治。
巨大蛾とは街から少し歩いた森近くの街道にある、道を照らす明かりの近くに現れるモンスターだ。
こいつは基本的に夜しか現れない。
クエストの報酬は1000Lと高いが、意外と強い上、厄介なスキル攻撃をしてくるので余り受ける者はいない。
角ウサギより素早い上、空を飛べるのでナイフだと攻撃が届かない場合が多く、その上空から鱗粉を撒き散らして毒状態にしてくるのだ。
毒消し代や、その他諸々の経費、時間等を考えれば割に合わない。
もう一つ追加されたのはビックフロッグの退治。
こいつも街から少し行った所にある川の周辺にいるモンスターだ。
基本的にこいつは体当たりしかしてこないが、低レベルモンスターにしては攻撃力が高い。
間違えて5匹位に囲まれれば死ぬ危険性もある。
クエスト報酬自体は500L。
それぞれ5匹退治すればクエスト達成になるが、それなら今まで通り角ウサギを倒し続けた方が良い。
ランクを少しでも早く上げるなら新しく出たクエストをこなすべきだが、ランクよりまず金が欲しい。
一応角ウサギを倒し続けるだけでもランクはもう一つなら上げられる。
問題はその回数だ。
新しく出た二つのクエストであれば大体20回こなせばランクが上がる。
角ウサギの場合は60回こなさなければ上がらないのだ。
一応ギルドのランクは一つ下のレベルの依頼までであれば回数さえこなせばランクを上げられる。
だが二つ下とかになると幾らこなした所でランクは上がらない。
むしろその低いランクのクエストしかしなければランクが下がる。
レベル相当のクエスト1回行えば、レベルが二つ以上下のクエストを100回までやっても問題ない。
101回以上やるとランクが下がるのだ。
だからこそ、低いレベルのクエストをやる時は、そのレベルのクエストを1回やって、低いレベルのクエストを100回、そしてまたそのレベルのクエストを1回やって低いクエストをと言った面倒くさい事をしなければいけない。
あくまでそれは二つ以上下のレベルのクエストを受ける場合であり、一つだけ下のクエストであれば問題ない。
儂はとりあえず、もう一度角ウサギ退治のクエストを受け外に出た。
それから更に25回程角ウサギ退治のクエストをこなし、その間に集まった耳を納品するクエストを35回こなしてランクがDからCに上がったのを確認してから所持金を見た。
約18000Lある。
これで余裕を以て扇が買えるな。
売りきれていなければって、殆どの確率で売り切れることなんて無いだろうけど。
儂はとりあえずホクホク顔で先程の一番安かった露店の場所に向かった。
運が良い事に未だ露店を開いていてくれたので早速購入。
漸く扇を手に入れた。
扇の名前は一番レベルが低い鉄扇。
唯の鉄の扇だ。
意外と重量がある為、攻撃力が意外とある。
儂は試す為に街の外に出て角ウサギに襲いかかる。
くるりと回るように回転しての一撃。
遠心力が加わったその一撃はナイフで突き刺した時のダメージの2倍近いダメージを与え角ウサギを光の粒に変えて行く。
それを見て襲いかかって来たのは5匹の角ウサギ。
基礎動作を元にし、角ウサギの攻撃が来るのでそれを加えた上での多少変更した舞を舞いながら攻撃をする。
2匹倒し終えた時点で一匹が魅了状態にかかり、身動きを取らなくなった。
レベルが低くても、同じくレベルが低いモンスターにであればきちんと魅了効果が表れるんだと言う事を思いながら、儂は舞続ける。
2分ほどの短い舞、それで5匹の角ウサギは全て倒し終えた。
多少攻撃がかすったりした為ダメージを食らっているが、10にも満たないダメージなので本当にかすっただけだ。
やはりステータスが足りない。
うまく攻撃を裁き、躱しながらそのまま攻撃に移るのに速度も足りなければ反射神経も追いつかない。
攻撃一つとっても何度か躱されたり、ミスを犯したりした。
流石に最初から高望が過ぎたか。
儂は苦笑を洩らしながら今現状の扇を使った動きに慣れる為角ウサギを狩り続ける。
クエストを受けようかとも考えたが、それより今はこうして漸く手に入れた扇で舞たい。
使い慣れた扇での戦闘がだんだん馴染んでくるのが楽しくて止められない。
その後、儂が漸く現状の動きに馴染み、満足したのは角ウサギを200程倒し終えてからだった。
その頃にはもう日が完全に沈み、街からこぼれる光がこの周辺を軽く照らしているだけだった。
儂はとりあえず運良く手に入った角ウサギの角と耳をギルドに収め、宿屋に向かう。
あれだけ動き続けたと言うのに、感じるのは多少の疲れ、元々ゲームのステータスにスタミナが無いので、その事もあってか疲れはあってない様な物なのだろうと思った。
とりあえず、宿屋に入り金を払って部屋を借りる。
食事は出ないので、帰ってくる前にギルドの酒場でサンドイッチを何個か買ってある。
ついでに携帯用の水もだ。
儂は部屋に入るととりあえずサンドイッチを食う事にした。
サンドイッチをばくつきながら部屋の中を見渡すとあるのは今座っている椅子とテーブル、小さなベッドが一つだけだった。
サンドイッチを食べ終え、そろそろ寝ようかと考えた時トントンと扉がノックされた。
ノックして、入ってきた相手は宿屋の女将さんだ。
「お湯を持ってきたよ、1日頑張ってきたんだろう? 最後に汗くらい流しておきな」
そう言って桶に入ったお湯とタオルを渡してくれた。
ゲームをやっていた時にはこんな事が無かったので少し驚きながら「あ、ありがとうございます」とだけ何とか返事を返した。
そう言えばそうだよな。
改めて考えれば儂は汗をかいていた。
その事でもっと早く気付くべきだったのだが、疲れ自体を余り感じていなかった事からすっかり忘れていたのだ。
儂は改めて女将さんに感謝しながらタオルをお湯に浸し、絞っては身体を拭いて行く。
タオルで身体を拭いただけでも爽快感はかなり違うもんだな。
儂は全身を拭き終えると桶とタオルを女将さんに返しに行った。
「きちんとしたようだね。冒険者だからこそ清潔にしとかなきゃだめだよ」
お礼を言う儂に、からからと笑いながらそんな事を言ってきた。
儂は素直に頷くと、もう一度女将さんに礼を言って部屋に戻った。
そうして漸くベッドに横になる。
すると直ぐに瞼が落ちて、眠気が訪れた。
肉体的には大して疲れていなくても、やはり色々あったおかげで精神的には疲れていたのだろう。
そんな事を考えながら、儂はそのまま眠りに落ちた。
最後に、次に目覚めた時もまだゲームの中にいれるのだろうかと思い、ゲームの中にいたいと願いながら。