第9話
11月11日ぶん
早い時間に書き始めたはずなのに、投稿時間がいつもと同じになってしまった。この時間帯に投稿することが体に染みついてしまったということだろう。どうすれば矯正できるだろうか。
至高とはなんだろうか。
俺にとっての至高とは、成長途中の幼い少年とも少女とも言い難い顔つきをした少年が、女装して羞恥心から表情を歪めることである。例え対象となる少年が同じ人物であっても、何日経過したところで飽きることはないだろう。だから、こうして家の屋根裏部屋から何度となく見下ろしたリアーデタタやリグーラタタが羞恥に顔を俯けスカートの裾を握りしめる光景を見たとしても、等しく興奮する。
その理由はただ一つ。同じ人物が恥ずかしがったからといって動作が全て一致するわけでは無いのだから。その日の体調、その日の天候、前日にかけられた言葉や当日にかけられた言葉、来訪者の有無、着ている服や下着、行為への慣れ、それらは全て一時として同じことはない。
ロングスカートを履いていた場合。強い風に煽られてスカートが揺らぎ、最初の内はめくれ上がるのを拒否して必死に両手でスカートの前後を押さえていた。
しかし、時間が経過して危惧していることが起こらないと理解すると、風に揺らぐスカートが鬱陶しく感じるようになるだけで押さえることがなくなる。恥ずかしい服装をしていることには変わりないが、自分より恥ずかしい格好をしている兄弟のことを考え、自分も後でその恰好をすることを考え現状に慣れてしまうのだ。
そこへ悪戯な風を吹かせる。自然な風では不十分だから魔法で作り出した突風だ。スカートが今までないくらいにめくれ上がり、下に履いていた男物の下着が露出する。必死にめくれ上がった前を押さえこもうとしたところで、今度は後ろ側をめくる。するともう片方の手で押さえようとするのだが、今度は側部。すると仕舞いにはしゃがみこんでその場から動かなくなるのだ。
あれは良かった……。
ショートスカートの場合はまだ遠目にも見れていないが、行きと帰りでこれもまた違う表情を見せてくれる。たったそれだけでも購入費金貨7枚を払ったかいと10人の生活費を毎日払っているかいがあるというものだ。次は一緒に出掛けるか、時間差で出かけてどんな風に買い物をしているのかよく観察してみるのも良いかもしれない。
そんなわけで、たった二人の少年を一月観察していても一向に俺の中からは飽きが生まれない。このまま何十年と過ごしてもよいと思ってしまう程だ。
「これは、どういうことだ?」
「も、申し訳ございませんご主人様!」
「謝罪を聞きたいわけでは無い。なぜこうなったのかと俺は聞いている」
だが、それは俺に限った話らしい。
本日の昼下がり、いつになってもリスタッタが屋根裏部屋に来ないと思っていた時のことだった。家に響く何かの破砕音。ガラスではなく、陶器が壊れる音だった。それを聞きつけ、慌てて一階に下りればそこにあったのは、割れた花瓶と力なくしゃがみこむリスタッタの光景。
彼女は羞恥にしか染まらない弟たちの光景に飽きてしまったようだった。
やはり俺と彼女の趣味嗜好は相容れない。
俺は少年たちの恥ずかしがる姿が見られればそれでいい。しかし彼女が望むのは、家族が己の感情の沸き起こりによって生み出す表情の変化なのだ。それは羞恥だけでなく、渇望、怒り、悲しみ、喜び、恐怖、懺悔……。正の感情から負の感情まで、全ての感情の沸き起こりによる表情の変化を欲していた。
もう一度言うが、彼女が欲しいのは変化なのである。
あの日からずっと羞恥に染まる弟達を見てきた彼女にとって、その変化は突発的に起こる変化ではなく日常の一部になってしまったのだ。日常の一部ということは、当たり前の事象。そこに彼女が望む劇的な変化なんて存在しない。
「も、申し訳ございません」
「次に謝ったら仕置きだ。なぜこうなった」
俯く彼女はこちらから表情を読み取ることは出来ないが、きっと笑っている。兄弟たちが心配そうにこちらを見てきているこの状況から悦楽を得ている。
俺自身の浅慮で買ってしまったのだ。リスタッタの暴走の責任は俺になるだろう。うちの両親はそういう人だ。だとすれば、これ以上暴走させないためにも少し発散させてやる必要があるかもしれない。
「何も言えないか。そうか……。こっちに来い!」
「ぁあ! い、痛いです! ご主人様……!」
「ま、待ってください! 何もわざとやったわけでは……ッ!?」
「俺がどんな時でも優しい主人であるとは思わんことだ。二度も機会をやったのに主人の命に従わなかった。わざとやったやらないに関わらず、怒りを買うのは当然のことだと思うが?」
寄ってこようとしたリアーデタタを止める。奴隷契約をしているとこういう時は楽だ。余計な争いを生まずに済む。
一応優しく掴んだはずなのだが、リスタッタが下に体重をかけるせいで掴んだ髪の毛がピンと痛々しいほどに張ってしまう。彼女自らしていることなので望んでのことだろうが、今まで女装をさせるとき以外はにこやかにしていたリアーデタタの顔が憎悪を詰め込んだような表情に染まっているのでよしてほしいものだ。
「こっちだ、きびきび歩け。それぐらいなら出来るだろう?」
「ぁあ……!? い、痛い、痛いです……! お許しください、お許しください……!」
さて、どうしたものか。
まあ、とりあえず父の趣味嗜好によって取り揃えられた道具が詰まっている地下室にでも連れていくことにしよう。そうすれば、多少なりとも家のものを壊すといった暴走に対する抑止力にはなるはずだ。
今日の筋トレ日記
腕立て伏せ30回
腹筋30回
背筋30回
これを二セット