第6話
11月8日ぶん
時間が……。
どんどん遅くなっていっている。もう少し早い時間に投稿できるように生活のリズムを整えなければ。これから忙しくなるというのに対応できなくなりそうだ。
三人を自室に呼びつけた俺は、手始めに自己紹介をするよう言った。
薄い茶色の毛で、人間であれば眉が生えているあたりに丸い白い模様が入っているのが昨日家に押しかけてきた少女、リスタッタ。仮にも貴族の家に売れたとあって、奴隷商の方でも気を効かせてくれたのだろう。昨日と比べて毛並みがより柔らかくなっているように思えた。
彼女の尻尾はやはり獣人においては一、二を争う程には長いらしい。慎ましやかな胸を手で抑えながら話す彼女は、自分の運命を呪うように目から光を消していた。
リスタッタとは正反対の見た目。つまりは基本白い体毛で覆われ、首元の毛や眉のあたりが薄い茶色の毛で覆われている少年の名前はリアーデタタ。獣人族の場合、女性であれば「ッ」を男性であれば「ー」を名前に入れることが多いのだそう。
ただ、人間との間に出来た子の場合や、都会の空気に揉まれ価値観に違いが生まれた獣人の間に出来た子の場合は違うらしい。よって、名前から彼女達は風習を重んじる一族のもとに産まれたことは容易に理解することが出来た。
リアーデタタは非力そうな毛色に反して力持ち。だが、読書が好きらしい。風体に似合っていないようで似合っている少年だ。
もう一人は、全身が灰色の毛で覆われた少年。リスタッタやリアーデタタとは違い、体を覆う体毛の中に見る限りでは違う色が混じっている様子はない。こういった体毛が一色の獣人は大人になればなるほど珍しくなる。子供の頃は片方の親の毛色を受け継いでいたが、成長するにつれてもう片方の親の特色が出てきたというケースが多いからだ。この子は将来どんな色が混ざるのだろう。
この少年の名前はリグーラタタ。他の二人からは面倒見がよく、どんな時でも子供たちの相手をしっかり務めてくれると自慢げに語られていた。
目つきは色味のせいか若干鋭く感じるが、ふむ、二人の言う通り物腰は柔らかそうだ。ただ、その目つきに似合ってしっかりとした芯を一本持っているように思える。
「さて、三人を呼んだわけだが、君たちには主に従者としてこの家の中で働いて欲しい」
「従者、ですか?」
「働けるのは願ってもないことですが……」
「まあ、この家に通してからというもの、働いている従者を見ていないだろう? そういうことだ。両親がいた時はいたんだが、全員連れていかれてしまってな。今まで俺は一人でこの家のことを行ってきた。だが……」
「僕たちの面倒までは見られないと?」
「そんな……」
「いや、それは違う。食事、裁縫、洗濯、家の中で出来る大半のことは俺がしよう。それが、まあ俺の趣味のようなものだ。だから生活する環境を与える代わりに買い物や子供たちの世話を頼みたい。俺は結婚したことも弟や妹がいた試しも無いのでな、子供の扱い方なんぞ分からん」
俺の言葉にリスタッタより弟二人の方が早く反応する。
彼女は一歩引いたところで俺たちのやり取りを鑑賞していた。まあ、そうだろう。昨日あれだけ自分の中にある欲求を暴露したのだ。獣人は嘘を見抜く出来る者が多いと聞く。本当にそれが出来るのだったら、肉体的な苦痛を強いることはないと理解しているはずなのだから。
それに、このまま事態が進行した方が、癪ではあるが彼女にとっても得なのだろう。
「それだけでよろしいのですか?」
「ここに置かせてもらえるのですから、俺とリアはなんでもする覚悟はありますが……」
「ほう、そうか」
リアとはリアーデタタの愛称らしい。ちなみにリグーラタタの愛称はグラというようだ。
「では、この家の従者の証としてこの服を着てもらおうか」
そういうと、俺は事前に用意していた服を差し出す。
いやはや、色々なサイズ、人種用の服を作成しておいてよかった。
「え?」
「これ、は……?」
ああ、その顔だ。
その顔を見ることを俺は昔から焦がれていたのだ。
彼らの引きつったような表情が、俺とリスタッタの口角を釣り上げさせた。
今日の筋トレ日記
腕立て伏せ30回
腹筋30回
背筋30回
これを二セット