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第5話

 11月7日ぶん

 衝動に赴くままボタンをポチッと押してしまう。そして、日が経った頃になんで自分こんなの買ったんだっけ、となることありませんか?

 これはどういうことだろう。

 あれから一晩明けた翌日の朝である今。家のリビングには椅子の数が足りない程の人が訪ねてきていた。小金持ちであり、一般家庭よりは大きな食卓がデンと置かれているリビング。椅子もそれに伴ってそれなりの数が置かれてある。それなのに、座れずに立ったままこちらを向いている者が何人かいるのだ。

 何の冗談だというのか。



「では、確かに金貨七枚頂戴いたしました」

「……あ、ああ」

「今後も我が商館をよろしくお願いいたします」



 身綺麗な衣服、というよりは派手に着飾っているせいで光がよく反射し鬱陶しく感じる趣味の悪い服に身を包んだ男が手を揉みながらこちらに話しかけてくる。

 彼の手には、昨日獣人の少女が持ってきた紙が握られていた。彼女の名前や奴隷を扱う上での諸々の注意点を書き記した紙の一番下には、俺の名前が艶のある黒インクで書かれていた。筆跡は見紛うことなく俺のものである。

 なんということだろう。俺はあの紙にサインしてしまったとでも言うのだろうか。


 あの後、夕刻まで居座り続けたリスタッタと書面に記されていた彼女。流石に腹が減ったのかお腹をグルグルと鳴らしながら小皿に出した乾燥果実をお茶で流し込んでから奴隷商のもとへ帰っていった。

 確かその時書類を俺の前に提示したまま持ち帰るの忘れていたのだ。それを俺はどうしたのだったか。昼食も食べていない頭に栄養が回っていない状態で、自分はどんな行動をとったのだったか。



「ようやく私達を受け入れて下さる家が見つかって私達幸せです! これから精一杯ご奉仕させていただきますね、ご主人様!」

「いやはや、お前が売れる日が来ようとは……。商館の品位を落とさぬよう、しっかりと働くんだぞ」

「はい! それはもちろん! あと、私が売れ残ったのは店長様がいつも丁寧に説明してしまうのがいけないんですよ」

「私は正直者だからな。問われたことに対してはなんでも答えたくなってしまうのだよ」



 頭が痛くなるとはこういうことか。

 現実逃避は止めよう。俺は自分で情報を精査できていないうちは買うのはよした方がいいと言っておきながら、安価で得られる精神的利益の方を優先してしまったらしい。

 腹が減って頭が回っていなかったのか、彼女の弟アピールが俺の嗜好に刺さったのか。きっとどちらもなんだろう。食卓に座り家の内装をキラキラとした目で見まわす獣人の少年を見ながらそう思う。


 幼さの残った可愛らしい顔。

 まだ大人になり切れていない少女的な面影を残した少年の横顔は、リスタッタが涎を垂らしながら告げた「表情の変化を見るのが楽しみだ」という言葉に頷けるほどそそるものがある。

 男の場合大人になるにつれ無くなっていく首元の体毛はまだしっかり残っている。性別が偽りなく男であるなら、そこからでも少年であることは理解できた。

 身体の線はリスタッタに似て細い。肉が全くないというわけでは無いので、最低限の食事はとっていたのだろうが、本当に最低限だったのだろう。女装が似合いそうな骨格をしていた。

 それが、二人。椅子に座らず立っている。



「姉ちゃん、これ美味しい!」

「ふふ、そうね。優しいご主人様に拾ってもらえてよかったわね。ありがとう、っていいましょう?」

「「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」」



 舌足らずな合唱がリスタッタの言葉に続いてリビングに響いた。

 十人分の椅子が置かれた食卓に座っているのは、俺と奴隷商とリスタッタ、それから性別を判別することが本当に難しく、こうして言葉を話していないとただの動物と見間違ってしまう程幼い少年少女が7人。

 彼女は昨日、弟がいるとは言っていた。だが、年ごろの弟の話をしていただけでそれより幼い家族がいないとも言っていなかった。


 だが、話を聞いていないからと言って買うのを止めるというわけにはいかない。何故なら、そういう契約を交わしてしまったのだから。

 これは単純に俺が世間知らずで、私利私欲に走ってしまった愚か者だったというだけのこと。とどのつまり、もうこの事実は変えられないのだから楽しまなければ損ということだ。



「では、私はこれにて」

「今度は館の方へ直接足を運ばさせてもらうよ」

「ええ、そうしてくだされ」



 奴隷商が家から出ていく。

 玄関で彼を見送った後、俺は自室にリスタッタと立ちっぱなしだった彼女の二人の弟を自室に呼びつけることにした。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット

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