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第4話

 11月6日ぶん

 この小説を考えていると本当に気が狂いそうだ。

 間に他の小説も挟みながら書いた方が筆のノリもよさそう。今日一日暇なときはずっと考えていたのだが中々言葉が浮かんでこなかった。書き続けるにもひと工夫必要そうだ。

 何度目かの無言の状態に陥った彼女は再び書類を俺の前に差し出してきた。彼女はサインを求めることなく、文章の区切りとして利用しているはずの点線を指さしてくる。

 それにどんな意味があるのか即座に理解した俺は、やはりどんなに欲しているものが転がり込んできたとしても精査せず首を縦に振ることは無いだろうと改めて思った。

 点線だと思ったその点一つ一つは歪な形を持っていた。人間の目では判別できないが、獣人のよく見える目では理解できる文字の形を成しているのである。



「拡大鏡を使っても無理か。なんて書いてあるんだ」

「私を買えば同時に私の他の家族も養う義務を持つ。そう書いてあります」

「……。お前、下に就くと言っている身でそんなことして無事に済むと本気で思っていたのか?」

「そんなわけありません! というか、それがいいんじゃないですか!」



 俯いていた彼女の顔が再びこちらに向く。

 彼女の瞳はこの家に入ってきた時より獣らしくギラギラと輝いていた。

 彼女の口元からは長く大きな舌が唾液を光に反射させテラテラと輝きながら力なく垂れさがっている。

 よくよく耳を澄ませば、いや、澄ませずともこちらからは見えない所でバッサバッサと尻尾が勢いよく揺れる音が聞こえてきた。


 同族だ。

 その恍惚とした様相を見て俺は悟った。

 彼女は俺や俺の家族と同じ、変態に分類される狂気にも似た性癖を持つ同族である。



「私の家族にはもちろん男の子がいますよ。一番上でも育ちざかり真っ盛りの男の子です。お姉ちゃんは僕が守るんだ、なんて言いながら健気にもトレーニングに励む弟がいます。私、弟のことが大好きなんです!」

「続けたまえ」

「はい! こんな人をだますようなことをして私がただじゃ済まないとおっしゃいましたよね。それでいいんです。それが良いんです! 私が家族のために人知れず傷つき、私がボロボロになった所でようやく弟達は気付くんです。自分が守ると言っていたのに守り切れなかった私を見て弟はどんな顔を浮かべるのでしょうか? へ、へへ……。ですが、より極上の表情を得るには少しでも私を魔の手から守っているという事実が必要なのです。主人から強要される羞恥を煽る服装。姉にそんな服は着させまいと恥ずかしさに身を焦がしながら自分の心を犠牲にして……、それこそが最高のスパイスに……。ふへへ……。いかがですか!? 私達ウィンウィンの関係を築けそうじゃありませんか!?」



 それを聞いてやはりと思い立つ。



「却下だ」

「な、何故ですか!?!?」



 やはり特殊な性癖持ちというものは相容れない。

 俺の両親がこの家に俺を置いたまま旅をしているように。二人で旅行に出かけると言っておきながら最終的には二人別れてそれぞれの道楽を楽しんでいると容易に想像が出来るように。彼女と俺はどうしても共に在れないと思うのだった。


 だが、しかし。

 金貨7枚か……。


 俺の心は確かに揺らいでいた。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット

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