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第3話

 11月5日ぶん

 自分でも頭の可笑しいことを書いているという自覚はある。

 だが、もっと頭をおかしくすることも出来たとも思う。地の文と会話文との切り替えとアップテンポにするための修業が足りないか。

 小皿に置いた乾燥果実に手を付けることなく、書面にリスタッタという名前が書かれた少女は再び沈黙した。

 既に乾燥している果実がこれ以上乾くことは無いが、せっかく氷を入れて冷たくした茶はもう温くなっていることだろう。茶色に染まる液体の中に、異物は一欠けらとして存在しなくなっていた。


 何時まで居座る気だろうか。

 まあ、客人として招いたのだから食べ終わるか出ていくまではもてなすつもりだが、時間というものがある。昼食も食べていないのに茶で腹が満たされそうだ。歩いたらタポタポ音が鳴るかもしれない。



「なあ、早くそれ食って帰ってくれよ」

「ダメです! 私はあなたがここにサインするまで帰りませんよ!」

「だからどんなに売り込んできても必要ないものを買うわけがないだろう?」

「何でですか! 妻もいない、婚約者もいない、恋人もいない、想いを馳せる人もその態度じゃあいないでしょう。それなのに! ボンボンのくせに周りに女の一人も抱えていない男のくせに! 目の前に女の子がいるのになんで首を縦に振らないんですか!?」



 いや、もう成人しているんだから女の子じゃあないだろう。

 獣人にしては体型が幼いようだけど……。

 というか自分を売り込みに来ているくせにこちらを見下しすぎじゃなかろうか。ここまで言われたら尻を蹴飛ばしながら外に放り飛ばしてもいい気がしてきたのだが。そもそも昼時の腹が減る時間にこうして強引に居座ること自体がおかしいのだ。



「胸じゃなかったらどんな女の子を買うというんですか! あなたみたいな人はね、外面ではそんな『みんな違ってみんないい』みたいな気のいいことをほざいておきながらいざそういうのを目の前にすると嫌な顔をするにきまってるんです! そして貧乳の恋人ができた暁には巨乳のビッチと浮気するに決まってるんです! むきぃいいいいい!!!」



 だがこのまま謂れのない誤解をそのままにして野へ放ち、不名誉な噂話を広められるのも癪だ。一つ、大きめの咳ばらいをして彼女の怒り狂った目を見据える。



「リスタッタ、君は誤解している」

「誤解? 何が誤解ですか! これから人種一胸が大きいという牛人の女を買いに行くムッツリスケベが! 間違って男の方を買い付けて私の胸より大きい雄ッパイでももんでやがれです!」

「…………、ふぅ……。まあ、いいだろう。俺がこれから奴隷商のもとで買おうとしている奴隷は男の奴隷だ。それも骨格がまだ定まらず顔が女性的でもあり男性的でもある成長の分岐点に立っている少年の奴隷だよ」

「……ぁ、ふーん」

「先に言っておくが男色の気は無い」

「では、なぜ?」



 やけに静かになった彼女が理由を尋ねてきた。何やら彼女の目はここに来た時よりも真剣みが増しているように見える。

 加えて彼女の黒光りする爪がより一層鈍く光ったように見えたのは、きっと幻視では無いだろう。



「なんて答えたらいいものか。簡単に言うと俺は少年を愛でたいんだ」

「それは男色の気があるのと同義では?」

「それは違う!! 男色の気があるということは、少年とくんずほぐれつしたいという願望があるということ! それは否! 断じて否である! 俺は少年とイチャコラしたいわけじゃない! 少年の表情がコロコロと変わり行く様子を外から眺めたいのだ!! それも羞恥に! 特に自分は男らしい者だと思い込んでいる少年に女物の下着とスカートをはかせた時の表情を今は見てみたい。鏡に映るのは中性的な顔立ちのせいで可愛らしく映ってしまう自分。屈辱に歪む表情。悪戯な風が吹き込みスカートを持ち上げたところを、必死で女物の下着を見せまいと、自らの男としての尊厳を保とうと、必死で顔を真っ赤に染めながらスカートの裾を皺になるぐらい強く握りしめる様子を見てみたい! そしてあわよくばその証拠を残し、青年になり外見的にも男らしくなったところでその証拠を見せ、数年越しに羞恥に染まる顔を俺は見たいんだ! 故に、イエス、ショタ! ノータッチ!!」

「……」



 俺の心からの叫びは未だ底を尽きないが、彼女の様子を一度伺うために区切りを入れる。静寂が訪れた家の中、彼女は顔を俯かせプルプルと震えていた。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット

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