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第2話

 11月4日ぶん

 書きたいことはあるけど繋ぐことが出来ない。

 自分に足りない所ですね。ギャグも寒いし古臭い気もするし、最近の作品を読んで勉強しなければ……。

 危うく詐欺にあうところだった、というのはこういうことを言うのだろう。衝動のままに行動していいことがあった試しなんてない。今回も確認を怠って金の無駄遣いをするところだった。

 とはいえ、客として招いてしまったため、出ていくまでは奴隷であろうとなかろうと家の客である。現在は両親がいないため人の目は無い。しかし、人の目が無いからと言ってここで無下に返したとあれば名家の名折れだろう。

 驚きの声をあげたまま声も上げず固まってしまった犬人の少女を見ながらそんなことを考える。


 それにしてももったいない。

 というよりは、人間の視点から見ると子供時代の獣人の違いがよく分からない。大人になれば筋肉が付いてきたり丸くなったり、象徴的な部分が極端に大きくなってきたりと人間より分かりやすい変化をするのが獣人の特徴だが、子供時代の獣人は本当に違いが分からない。

 少年的でもあり、少女的でもある、中性的な骨格。体毛のせいで眉毛やまつ毛で判別することは出来ない。手も同じくだ。女性的な部分も……。



「あ、あの……」

「なんだ?」

「え、えと。私、何でもできますよ? 教えてくれたらなんだってこなします。だから、この書類にサインしてくれないかなぁ……と」



 ようやく口を開いた彼女は、言葉の後に懐から一つの書類を引っ張りだしてテーブルに広げた。本来妖美な女性が男を篭絡するときにする仕草も、彼女がすると情欲より不憫に思う気持ちが勝ってしまう。

 差し出された書類に書かれていた名前はリスタッタ。性別は彼女の発言の通り女。嘘が付けないというわけでは無いので、でっち上げの可能性も捨てきれない。が、そんな希望的観測を抱いてまですぐさま買いたいわけでは無い。



「さ、早くそこにあるものを食って出ていきたまえ。こっちも予定が詰まっていて忙しいんだ」

「予定とは、何を?」

「奴隷商に会いに行くんだ。奴隷を買いに行くんだよ」

「私でいいじゃないですか! 何でもできる私でいいじゃないですか! 女の私でいいじゃないですか! 可愛いですよ! モフモフですよ! 胸は、無いですけど……。胸は無いですけど! でも尻尾があります! 犬人の中でも一番太くて長い尻尾が今ここにサインして頂けたらついてくるんですよ! しかも金貨7枚で! お買い得ですよ!!」



 書類のある部分を指さしながら彼女はそう叫んだ。

 奴隷の単価はだいたい金貨10枚からが相場だ。女の獣人となれば15枚は下らないはず。故に、金貨7枚となれば破格の値段だろう。余ったお金で安い家が一軒は建つ。売れ残ってこうして彷徨う理由は何かしらあるのだろうが、小金持ちであればお試しで買っても損することは無いだろう。

 だが、とある目的を持つ俺にとって彼女は必要のない買い物。これによって買いたいものが買えなくなったとあれば俺は人目も憚らず泣き崩れることだろう。



「俺の購入リストにお前のような奴隷はない。さあ、帰ってくれ」

「それは私に胸が無いからですか? 胸が無いからなんですよね!!」

「いや、獣人なんだからあと数年すれば大きくなるだろ。そんなに卑下することじゃ……」

「もう成人しているんですよ! もう育たないんですよ私の胸は! 喧嘩売ってるんですか!?!?」

「なん、だと……」



 バシンバシンとテーブルを力の限り叩きながら抗議してくる。

 嘘だと思い、書類を見るとそこには20と自分より3つほど年を経た数字が書かれていた。

 これが本当だとしたら、彼女は獣人にとっては稀な慎ましやかな胸を持つ女性として未来永劫生きていくというのだろうか。女性の胸に対するコンプレックスというものは男には分からない。ただ、辛い思いをしてきたということだけは伝わってきた。



「あの、この肩に置かれた手はなんですか?」

「皆まで言うな。すまなかったと思っている」

「じゃ、じゃあ! 私を買ってくれるんですね!!」

「それは無しで」

「何でですかぁあああ!?」



 まるで遠吠えでもするかのように、鼻先を上に向けて彼女はそう叫ぶのだった。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回


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