表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

第12話

 11月14日ぶん

 危ない、危ない……。

 時間がギリギリだった。

 この小説はこれにていったん終わりとなります。

 子供に対する躾とはどんなものだろう。

 メイドに対する躾とはどんなものだろう。


 その答えとして俺が持っているものは、少しの痛みと少しの恥ずかしさを掛け合わせたとある行為である。古来から躾と言えばコレと定義され、厳格な親を持つ悪ガキであったならば一度は体験したことがあるだろうものだ。

 椅子に半分腰変えた俺の膝にリグーラタタの腹部が乗る。メイド服越しに伝わってくるのは、彼の体を覆う体毛によって人間より温かくなっている体温と確かな柔らかさ。子供たちの遊び相手になっていることが多かったということもあり、確かに体は鍛えられている。しかし、膝に伝わってくるのは獣特有の柔らかさが大半を占めていた。



「あ、あの……。本当に外でするのですか……?」

「心身に刻まないことには躾にならないだろう?」

「あ、あの……! これからは気を付けて行動するので何卒……!」



 姉弟だからこそ、といったところだろうか。

 リスタッタが拷問部屋に入る間際に発した言葉と似通った言葉で必死に訴えかけてくるリグーラタタ。彼の獣耳や尻尾はツンと立っていた状態から変わり、下を向いている。尻尾なんてこれから行われることを察知したのか、股の間に逃げ込んでいた。

 短いスカートをめくりあげる。すると、手足をじたばたと動かしこの場から逃げようとするのだが、それは出来ない。俺だってこういうことをするためにそれなりに鍛えているんだ。人間よりはるかに力が付きやすい獣人を相手にしているとはいえ、まだ子供の彼相手に巻けるような軟な鍛え方はしていない。



「そら、一発目だ!」

「キャン……!?」



 左腕で彼の体を固定し、振り上げた右手を勢いよく尻に叩き落とす。直接肉を打っているわけでは無いのに、スパァンと軽快な音が外に響いた。

 力を込め過ぎただろうか。一発打っただけで手足の動きが止まり、だらりと下に伸びる。顔は垂れ下がって上からでは覗き見ることが出来ないため、動きを止めた今どんな表情を浮かべているのかを俺は妄想で楽しむことしか出来ない。

 ただ、遠くからこちらを覗くリグーラタタの身を案じた兄妹達の様子から容易に推測をたてることは出来た。



「下町では回数や時間を決めて行うらしいな。どのくらいが良い?」

「ど、どうかもうお許しください……」

「一回で躾が終わるわけがないだろう。そら、二発目!」

「ヒンッ……!?」



 それから続けてもう何発か打ち込む。

 一発叩く毎に少年とは思えない高い声が上がるが、彼はなんの疑いの余地もなく少年だ。まあ、女性であっても場合によって野太い声を出すことはあるし、男が高い声を出しても不思議ではない。

 日差しによる暑さはそれほどではないというのに、フカフカとしていた彼の体毛はじっとりと汗で湿っている。リグーラタタの腹部が当たる俺の膝は、今湯船に浸かっているのではと錯覚してしまう程に熱気と湿度で満ちていた。


 そんな状況を前にしてしまうと、躾という大義名分を自分から崩してしまいそうになる。

 後一度、震える声で許しを懇願されたらどうなってしまうのだろうか。妄想と現実の境界線が曖昧になり、舌なめずりしながら再び手を振り下ろそうとした、そんな時だった。



「おやおや、これはまた可愛らしい姿になってしまって」

「今忙しいんだが?」

「いえ、あれから待てど待てど一向に来て下さらないので様子見も兼ねて私自ら来てしまいましたよ」



 突然目の前に姿を現して声を変えてきた人物は、もともとリスタッタの持ち主だった奴隷商。名前は、なんだったか。

 前に会った時と変わらず、いや、外にいるせいで前以上に輝く装飾を身に纏った奴隷商はニンマリと厭らしい笑みを浮かべてリグーラタタの顔を覗いた。まるで先ほどまでの自分の顔を見ているかのような恍惚とした表情である。そんな彼の後ろには天人だろうか。灰色の翼を背に生やした、それ以外は人間の子供と同等の体格をしている少女がいた。



「なんの用だ」

「つい昨日仕入れたばかりの訳アリの品なんですがね?」

「帰ってくれ。今は忙しいんだ」

「それは申し訳ない。ですが、こちらだけでも目を通していただきたく」



 そう言いながら彼が差し出してきたのは一枚の紙。

 奴隷の売買を行うための、リスタッタ達を購入する際にも書いた薄っぺらい説明書だった。目の前に差し出されては嫌でもいくつかの文字は目に入る。

 買わないはずだった。



「いかがですかな?」

「なん、だと……」



 買わないはずだったのに、どういうわけか次の瞬間にはその紙は俺が握っていた。

 穴が開く程見つめてしまう項目には「男」というたった一つの文字。

 証拠を見せるためか、奴隷商が「ほら」と言いながら彼の服をめくりあげる。少女的な顔つきをしている彼の恥ずかしそうに一歩身を退く動作が心の奥底に突き刺さってくるのを確かに感じた。



「きっと、これから先どこにも売りに出されない一級品と思いますよ。貴方様にとっては……」

「少し家の中で話をしようか。リグーラタタ、躾は終わりだ。今日は姉と共に後はゆっくり休め」



 ああ、なんで俺の意志はこんなにも弱いのだろう。

 でも、仕方ないではないか。

 目の前に少年がいるのだから。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット


 獣人の設定を活かしきれなかった気がする。今度は細かな設定を活かせる展開を作るように工夫しなければ。

 では、次回作でお会いしましょう。

 また明日

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ