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第11話

 11月13日ぶん

 一週間がとても速く感じる。もう少し遅くてもいいのに。まだまだ今年中にやりたいことが沢山あるし、やらなきゃいけないこともたくさん残ってる。何とかしなければ。

 拷問、というよりは調教が終わり疲労によって足腰が立たなくなったリスタッタを脇に担いで階段を登る。靴に浸透した水気が歩くたびにグチュグチュと音を鳴らし、足の裏と靴底がくっついたり離れたりを繰り返す。服に染みついた彼女の体液による独特で不快な香りは人間の鼻でも分かる程で、風呂に入らなければ気が狂ってしまいそうだった。

 階段を登りきると、そこには彼女の弟や妹が心配そうな顔を浮かべて待っていた。ただ、俺が近づくにつれ一歩、また一歩と毛を逆立てながら退いていく。やはりこの匂いは人種問わず不快なんだろう。



「俺は風呂に入ってくる。お前らも姉を風呂に入れておけ。お前らが入れないなら俺が湯舟の中に沈めるが、これ以上俺の近くに置いておきたくはないだろう?」

「ね、姉さんに何をしたんだ……」

「長時間擽った」

「く、擽った? それだけで?」



 人のじゃれ合いの中にある擽りという行為。じゃれ合いで済めば、単なる遊びの範疇で収まる。だからこそ、それしか知らない者には脇に抱えられているリスタッタの惨状とその遊びが結びつかない。


 激痛であればここまでの惨状にはきっとならなかっただろう。

 長く続く痛みというものに人は慣れやすい。時には継続的に痛みを得たせいで、痛みを感じなくなる無痛症に陥ったりする。その典型的な例が俺の父だ。小さな掠り傷では痛みを得ることが出来ず、爪を剥いだり体に穴を開けたりと生命に関わる大きな傷でないと痛みを感じない。まあ、父の場合は痛みを感じなくなったというより、痛みを悦楽に変換しているのだが。小さな満足感に慣れてしまうとより大きなものを求めるようになる、そういうことだ。


 一方、擽りによって与えられるものは痛みではない。快楽なのだろうか。まあ、この場合は痛みではないということが重要なのだから、分類で悩むのは些細な問題だ。

 永続的に続く笑い。息を吐き出す行為しか良しとされず、手足を動かせないから身を捩って逃げることも出来ない。断続的なものなら慣れることが出来たのだろうか。しかし、俺は常にリスタッタのあらゆるところを擽り続けた。それによって彼女は喉が枯れるまで、意識を失うまで笑い続けることとなったのだ。

 手枷足枷によって拘束されていた部分は、暴れたせいで体毛が擦れて赤くなった皮膚が見えている。しかし、彼女の表情はというと笑ったままで固定されているので実に幸せそうだ。



「で、どうする? 俺が入れればいいのか? それともお前たちが入れるのか?」

「ぼ、僕がお風呂に連れていきます!」

「そうか、では受け取れ」

「うッ」



 そう嫌そうにするな。こいつは……。

 いや、リスタッタは自分の私利私欲のために花瓶を割って頭を下げたんだったか。そんな事実を思い返すと嫌そうに対応されているのも因果応報に見えてくる。今彼女が起きて、彼らが浮かべている表情を目の当たりにして悲しむのかと言われれば別だが。

 彼らもこんな姉を持ってしまい難儀なものだ。同じく歪んだ趣味嗜好を持つ家族に囲まれている一人の人間として同情の目でも送ってやろう。


 リアーデタタに、まるで汚い雑巾であるかのように襟をつままれた彼女を背にして浴場に向かう。

 地下室の掃除を後回しにしているせいで、風呂に入った後またあの場所に足を運ばなければいけないのだが、後の面倒よりも今が大切だ。二度手間になってしまうことは許容しよう。ああ、他にも洗濯をしなければいけないのか。どうせならリスタッタの衣類も剥いでおけばよかった。そうすれば風呂に入りながら出来る。


 そうして、彼女の体液塗れの服を浴室に持っていき、身と心を清める作業が拷問と化した後のこと。湿度が高い浴場に異臭が充満し、悶え苦しみながら風呂から上がり、掃除道具を手にした時のことだった。


 パリーン……


 そんなつい数時間ほど前に聞いたばかりの音が俺の耳に入ってきた。

 この音を聞いた時の俺の心境を話そう。

 俺はとてもウキウキしていた。今までの出来事に対する負の感情を吹っ飛ばし、俺はウキウキとして、多分スキップしながらその音の方に向かったと思う。なぜなら、リスタッタは二度と俺に相談もなく下手なことをしないと思っていたから。この状況を作り出すとすれば、リアーデタタかリグーラタタのどちらかだとふんでいたからであった。


 そして、その予想は当たった。



「またか……」

「申し訳ございません、主様……。俺がやりました……」

「ま、待ってください! わざとではないんです。グラの尻尾が当たってしまっただけで」

「いいえ、壊したことに変わりはありません……。どうか、罰を……」

「そうか」



 騎士のように膝をついて謝罪していたのはリグーラタタだった。灰色の体毛が逆立ち、耳も尻尾もピンと張り詰め彼の心の中にある怒りを表出させている。俺に対する怒りと自信に対する怒りといった所だろうか。姉が酷い目に合っているにも関わらず自分はその場にいることが出来なかった、そういった感情も含まれているんだと思う。

 こんなことを考えてしまうのも、俺に向く怒りが表情の割に薄いからに他ならない。



「では、外に出ろ」

「外、ですか……? 地下室ではなく……?」

「あれはリスタッタが大人だったからだ。大人にもなっていないお前たちにはしないさ。それはリスタッタにも言ってある。だが、相応の躾が必要なのも事実。さあ、外に出ろ」

「分かりました……」


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット


 そういえば、騎士風に膝をついて謝罪していても、彼が着ているのってメイド服なんですよね。しかも外に行っていたわけだからショートの……。

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