表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

第10話

 11月12日ぶん

 どうしたら日中にも小説を書けるようになるだろうか。新規小説のネタを思いついてはメモしたりするのだが、小説を書くことが出来ない。本当にどうしたものだろう。

 木製の温かみ溢れた家具が並ぶ家の中とは異なり、地面にただ穴を掘って作ったと思われる石造りの冷たい印象を与えてくる階段を下る。すると、突き当りに見えたのは松明を置くための台と鉄製の無骨な扉。それを見て、俺が演技をしていると分かっているにも関わらずリスタッタはゴクリと生唾を飲み込んだ。

 それほどまでに家の外観とは遠く離れた異質な扉がそこにはあったのである。

 普段であれば俺はここに近寄りたくもない。父と母、それからこの家に雇っていたメイドとの愛の巣と呼ぶに相応しい……、いや、愛の巣ではないか。両親の悦楽のために作られた、屋根裏部屋では収まりきらない道具たちを収め楽しむ部屋なのだ。



「あ、あの? こ、ここは?」

「趣味嗜好は人それぞれだ。だから俺が受け入れられないからと言って行為に及ぶお前を咎めるようなことはしない。相談を受ければ渋々だが俺が許容できる範囲で協力しよう。だが、従者となった分際で俺に相談も無しにこの家の物品を無下に扱ったとあれば、相応のしつけが必要だと思うんだ。お前はどう思う?」

「あ、あはは……。あの、今からしっかり謝りますので多少見逃してはもらえませんか?」

「俺とお前との間に認識の差があるようだな。よし、いいだろう。しつけてやる」



 逃げようとするので髪を掴んでいた手に力を本格的に込める。サッと青ざめるリスタッタの表情を見て感情に何も浮かばないということは、やはり俺の中にこういった趣味はないらしい。それを再認識してホッと胸を撫でおろす。

 重い鉄の扉を片手で何とか開けると、埃の匂いと錆びた鉄分の嫌な匂いが鼻をつく。扉の脇にある棚のような場所に掘られた溝に松明の火を差し込むと、灯りが伝染して暗かった部屋に色が付いた。黒に銀、それから赤茶色。この部屋に置かれているのはほとんどが鉄製の拷問器具だった。

 ヒッと隣から短い悲鳴が上がる。

 彼女は経験したことがあるのだろうか。それとも誰かに行われている拷問を見たことがあるのだろうか。はたまた、道具に触れたことも絵で見たこともないのに雰囲気から感じ取ったのだろうか。


 ああいや、そうか。

 彼女は獣人。

 その中でもとりわけ鼻の良い犬人である。


 これらの利用方法を知っていても、知っていなくても、この部屋に染みついた血の香りが嫌でも理解させているのだろう。



「丁度手枷と足枷があるな。そこに座れ、適当な道具を見繕ってくる」

「あ、あのあの、これはいったい……」

「父の趣味だよ。父は無類の拷問好きでね。特に……。鞭打ちはもちろん、こういった道具を使って爪を剥いだり、逆さ吊りにしての水攻めとかもやっていたな。これは何に使うんだろう。ここを覗いたのなんて小さな頃だったから分からないのも沢山あるな」

「ごう、もん……」



 手枷と足枷が付属した椅子に彼女を座らせて適当な道具を探る。傷つけて悦に浸りたいわけでは無いのだ。多少の恐怖を与えるだけでいい。もっとも、現在進行形で彼女の精神に影響を与えているようだからこのまま長時間ここに拘束して何もせずに戻るというのも一つの手だが。それではきっと効果は薄いだろう。



「弟や妹を拷問にかける際は死なないようにお願いします。それから、その時は自分もその場に! ああ、なんで今あの子たちはここに居ないんでしょう。姉が拷問にかけられる様をみてどんな形相をするのか、表情が崩れるさまを見たかった……。今から呼んでみてはいただけませんか?」



 ほらみたことか。

 彼女に生半可なものは効かない。明日になればケロッと痛みや苦しみを忘れて壺や花瓶を二~三個割ってしまうだろう。そう思わせる程にはリスタッタの表情は悦に染まっていた。



「お前は勘違いしているな。俺は少年たちの恥ずかしがる顔が見たいんだ。だというのに拷問にかけるわけがないだろう。それに、残りは常識も知らない幼い子供達だ。体が小さい子供達にそんなことをするはずがない」

「で、ですが、ご主人様がそうであってもお父様が……」

「それこそ勘違いだ」

「勘違い、ですか」

「俺の父の趣味は拷問する方ではない。拷問をされる方だ」

「へ……?」



 俺はきっと幼き頃見たあの光景を一生忘れないだろう。

 1人のメイドに治癒魔法をかけられながら、もう一人のメイドに爪を剥がれ、手足を折られ、焼き鏝を当てられ、それでも尚高らかに笑っていた父の姿を俺は忘れたくても忘れることが出来ない。

 隣で行われていた母の趣味嗜好に則った狂気の沙汰も合わせ、あれはトラウマだった。しかし、それと同時に自分もそれだけ自由に生きても良いのだと思うきっかけをくれた光景でもあった。


 さて、長話を続けて余計な心配を上にいる子供たちにかけるわけにはいかない。手っ取り早く終わらせるとしよう。俺はあの日みた中で一番ましだと思われる道具を台の上から手に取った。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ