出会い
冴えない大学生の一目惚れを短いながらも、私自身が描きたいストーリーで書いていきます。その中で共感してくださる方や応援してくださる方がいれば嬉しいです。
是非、最後まで読んでください。
正直言って一目惚れだった。
こんな気持ちになったのは初めてで、今までに経験したことのない感情を抱いた自分自身に驚いた。
駅のホームで電車待ちをする僕は、文庫本を開くおしとやかな女の子から目が離せなくなった。
風に揺れる長い髪も、柔らかく鼻をかすめる甘い香りも、白いワンピースからすっと出た細い首筋も、彼女の全てが僕を虜にした。
話しかけるか、、いや、何年もまともに女の子と話していない僕が今話しかけたところで、会話が続かず呆れられるのは目に見えている。初めての一目惚れなんだ、ここは慎重にいかないと。
もうあんな経験はしたくないし、、。
けどそんな時こそ、予期せぬ事態というのは起こるわけで、、、
「お姉さん可愛いね、どの電車乗るの?」
見た目だけで言えば月に何人もの女の子に声をかけてそうなチャラい男がその女の子に絡んでいた。
女の子は笑顔で、やんわり対応しているがおそらくとても迷惑なのだろう。
「俺も君と同じ駅で降りちゃおうかな~、ねぇ、連絡先教えてよ」
チャラ男はしつこく女の子に連絡先を求める。
てか、駅でナンパなんかすんなよな。
ふとチャラ男が女の子の肩に腕をまわした。
もう耐えられない。僕の足は自然と動いていた。女の子の肩にまわるチャラ男の腕を掴み、格好よく一言言ってやった。
「あの~、、や、やめてあげてください、お、女の子嫌がってるじゃないですか」
格好よく、言ってやったつもり、だった。
「なんだよ!もやしには関係ねぇだろ!どっか行けよ!」
掴んだ腕を一瞬で振りほどかれ、僕はホームに勢いよく尻もちをついた。最悪だ、女の子を守れないどころかダサいところまで見せてしまうなんて、、。
僕が下を向いた時だった。
「しつけぇよやりちん野郎」
チャラ男を含め、ホームにいた全員の時が止まったように辺りが静かになった。
女の子の思いがけない一言に、チャラ男改めやりちんは怪物でも見たような顔で固まっていた。
「まもなく2番線に電車が到着します」
アナウンスが聞こえてまもなく電車が到着した。女の子はさっさと電車に乗り込み、時が止まっていたホームはまた動き出した。
僕は女の子と同じ車両に乗るのはどこか恥ずかしくて、女の子より3つ前の車両に乗り込んだ。
正直僕はびっくりしたというより困惑していた。
文庫本を開く女の子は全員おしとやかでおとなしいんじゃないのか。清潔感が漂っていて、絆創膏を常に3個は常備しているような子じゃないのか。なんだあの子は、めちゃめちゃ気が強くて誰も手が付けられませんって感じの子じゃないか!というか最初にあのチャラ男改めやりちんに見せてた笑顔は何だったんだ!
女の子って、こえ~
僕が様々な偏見や思いを巡らせていた時、車両間をつなぐ貫通扉が静かに開かれ、そこから最初のおしとやかな女の子が顔を覗かせた。女の子は僕に気付くなり笑顔で歩み寄ってきた。先ほどまでの僕なら大歓迎なシチュエーションだろう。
しかし僕の中に喜びはなかった。なぜ僕に近づくのか分からないがそこに好意はないと確信していたからだ。
「さっきは、ありがとう。この後時間ある?」
少し照れながら言う女の子の言葉、口調、態度は僕に考える時間を与えなかった。
気付けば僕は即答で、うん!と答えていた。男が皆バカと言われる所以がそこにあった。
女の子は僕の予定を聞いた後一言も話さなくなった。少し顔を赤らめ、時々窓の外の景色を見ていた。
僕は女の子が何を考えているのか、どちらの女の子が本当の彼女なのか、わからないまま電車に揺られていた。
しかし不思議と不安な気持ちはなく、やはり喜びの方が大きかった。
彼女がどんな二面性を持っていようと、僕の目の前にいる女の子は紛れもなく僕が一目惚れをした子だったから。
「まもなく〇〇駅、○○駅」
アナウンスが聞こえた時、彼女が開閉扉の方へ寄ったためここで降りるということが分かった。
駅を出た時、西の空にはまだ少し陽が残っており、その陽の光が夕方の雲の合間をすり抜けて神々しく光っていたことを僕は今でも覚えている。