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≪26≫ お仕立て

 冒険者ギルド支部を出たルシェラは、一旦ティムと別れることになった。


「ちとゲメルに話聞いてくるわ。俺一人のがいいだろ。

 その間に、ルシェラをどうにか()()()()()()()()してくれ」

「あいあいー」

「……え?」


 ヒラヒラと手を振って鎧男は去って行き、後には話について行けないルシェラが残された。


「目立たないように、ってどゆこと?」

「あのなあ、いつまでもその毛皮巻き野生児スタイルで行く気じゃないよな?」

「マントを被ってその下が露出過多って変質的では?」


 ごもっともだった。

 この外套を脱ぎ捨てるだけで、ルシェラは往来の視線を独り占めできるだろう。


「さっきのギルドでも危うくめちゃ目立つところだったじゃないですか。

 だから見た目だけでも普通にすべきなんですよ。目立つのはある程度しょうがないから目立つなりに普通にね」

「確かに……」

「普通の服も買うべきでしょうけど冒険装束も欲しいですねえ。

 妙な気配が漏れても冒険者の格好してたら相手が納得してくれるかもでしょ?」


 ビオラの言い分には一理あった。

 『どんな変人奇人でも冒険者にならばなれる』というのが世間の認識で、ただの変な子どもとして街を歩いているよりも納得感を醸せる、という話だろう。

 いずれにしても、文明社会で暮らすための服は手に入れなければなるまい。


「問題は子どもサイズの防具ってそうそう売ってないってことなんですよね」

「それだけどなー、ルシェラの持ってきた『変異体』の毛皮、あるだろ?」

「ありますね」

「あれを見て大喜びしそうな変態を一人知ってる」

「ああ……彼女にやらせるんですか」

「丁度近いだろ、ここから」


 ウェインとビオラは二人で相談し、勝手に頷き合って納得していた。


「何? 誰?」


 * * *


 冒険者ギルド支部の周囲には当然、冒険者向けの商売をしている店が多い。

 クグトフルムのように大きな街であれば、周辺の小さな町や村で活動する冒険者のハブにもなっているので、その傾向は更に強まる。


 『アダマント・ソーイング』はそんな店の一つで、非金属製の鎧のオーダーメイド製作や補修を請け負っていた。


 カラフルな糸、帯、加工しかけの皮、巻いた布等々が壁と天井を埋め尽くしている工房にて。


「きゃあああああっ!

 ほ、本当に!? 本当に、こ、これを、切ったり!? 縫ったり!? 染めたり!?

 し、して良いの!? 本当に!?」


 背の低い作業台に大量に並べられた種々の毛皮を見て、工房の主であるミドゥムは身悶えながら黄色い歓声を上げていた。

 ミドゥムは外見だけならルシェラと同じくらいの歳の少女に見えるが、彼女はドワーフであり、これでも大人だ。ドワーフの女は人間で言うなら十代前半くらいの容姿で成長を止め、それ以上育つことがない。


 ルシェラとカファルの『家』には大量の毛皮が山と積まれていた。カファルが仕留めた魔獣の毛皮を、逐一剥ぎ取ってはルシェラにプレゼントしていた結果だ。

 それをルシェラはいくらか持ってきていた。『変異体』の毛皮は一枚でも相当な財産になるし、装備の材料としても特一級品だ。

 何かに使えないかと持ってきた毛皮が、早速役に立っていた。


「加工費と口止め料は端切れで払うってことでいいか?」

「ななな何を企んでるの!? こ、こんな毛皮をタダで縫った上に、は、端切れまで貰えるなんて!

 さては貴方、ミドゥムちゃんを誑かす悪魔か何かですな!?」

「んなわけあるか」

「しかもこんな可愛い子に着てもらえるなんてぇ! あああ、もう手が震えちまうですよ!」


 アップ髪に作業エプロンというスタイルのドワーフ女子は、仕事の依頼を持ってきたウェインが引くほどに興奮していた。

 彼女は鼻息も荒くルシェラの方を向き、熱っぽい視線でじろじろと観察する。


「採寸完了!」

「一瞬見ただけで!?」

「そういう奴なんだ……こいつ変態だから」

「そう言えばビオラさん、前回会ってから1.1キロ太りましたね! ちょっと食べ過ぎました?」

「ぶちころ!!」


 ビオラがミドゥムに襲いかかってもちもちのほっぺを摘まみ上げた。


「何日でできる?」

「ふふふふふ、このミドゥムちゃん様を舐めるでありません。

 もう他の仕事なんかやってられねえですから、店を閉めてぶっ通しでやって4,5日で完成ってとこですねえ」

「マジでそんな早く? 毛皮の加工からだろ?

 折角これだけの素材なんだから、ちゃんと相応の質の防具作れよ?」

「形にするだけならそんなもんです。魔化はどうせ専門外なんでスロットだけ作っとくですよ。

 『変異体』の毛皮なんて、それ自体マジックアイテムみてえなもんですから、魔化が必要かは疑問でやがりますがね」


 腕まくりしてスリーブを着けたミドゥムは、もう振り返りもせず、なにか特殊な輝きを宿す裁ちバサミで毛皮を切り始めた。

 作業速度は素人にでも分かる早さだった。


「つーわけだ。

 こいつ変態だけど腕は確かだから後は任せておけばいい」

「あ、はい。お願いします」

「後は普通の服ですねえ。こっちは既製品を漁りに行きましょうか。

 ……じゅるり」

「じゅるり?」


 ビオラは眼鏡を光らせて舌なめずりをしていた。

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