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≪11≫ 狩りの訓練

 カファルがいつもと違う様子の獲物を持ち帰ったのは、秋も深まり赤や黄色に山が色付いた頃だった。


「お帰り……って、それ……」


 彼女は後脚の強靱な鉤爪で獲物を掴んで運んでくるのだが、よりによってそれが、動いている。


「……ガッ、ガッ……グルルルル……」


 熊より大きな狼みたいな魔獣だ。

 頭と腹から血を流して、新緑色の毛皮を赤く濡らしている。

 だが、しかし、食いしばった牙の間から泡を吹くほど荒い息を吐いて凶暴な顔で睨み付けていた。


『ウォウ』

「……戦え、って言ってる? もしかして」


 カファルは魔獣にトドメを刺さず、そのままリリース。

 緑色の狼は即座に跳ね起き、見境を無くした目でルシェラを睨み付け、間髪入れずに襲いかかってきた。


 ――無理だって! いくら死にかけとは言え……! 『変異体』の魔獣を俺なんかが相手できるわけねえ!


 と、心中で悲鳴を上げようと、狼の魔獣は止まらない。


「あーもう! なら俺の魔法見せてやる!

 ≪爆炎火球ファイアーボール≫!!」


 ルシェラの手から火の玉が生み出され、向かってくる狼を迎撃する。

 衝突!

 爆発!


「ギョアアアアアア!!」

「う、うわわっ!」


 だが!

 爆風と爆炎を吹き払い突き抜け、狼は突進してきた。

 そも、ドラゴンの住処にうろつくような『変異体』の魔物は、超人的冒険者たちが力を合わせて対処に当たるレベルの猛者。

 中位程度の攻撃魔法一発ではかすり傷。牽制にしかならない!


 狼の魔獣は血混じりのヨダレを撒き散らし、牙を剥きだしてルシェラに飛びかかる!


「わああ!」


 地面に転がって爪と牙を掻い潜り、ルシェラはどうにか一撃を回避した。

 だが、狼の魔獣は早い、速い、迅い!

 ルシェラが身を起こしたその時、眼前には迫り来る死の顎門が、既に。


『グォウ!』

「ギッ!!」


 それがルシェラに届く寸前、動きを既に読み切っていたカファルの前脚が狼の魔獣を捕らえる。

 ドラゴンの怪力に掛かっては、この巨狼も為す術無い様子で、必死で拘束から逃れようともがくのみだ。


『グルルルル……』

「無理だってばぁ! 俺、ただの人間なんだから!」


 『もうちょっと頑張りましょう』と言わんばかりのカファルに向かって、ルシェラはぶんぶん首を振る。


 分かっては居る。ここは、そういう場所なのだと。

 今はカファルに守られているが、この魔獣と戦えるようにならなければ、自由に山を歩き回ることはおそらく不可能。

 街へ降りていくことも、自分自身の足跡を探すことも。

 それどころかカファルが巣を離れている間に襲われたら為す術無く死ぬしかないだろう。倒せなくてもせめて、抵抗できるようにならなければ。

 しかし、いくらなんでもこの訓練は無茶だとルシェラは思う。


『ル』


 スン……と若干肩を落とした様子を見せ、カファルは掴んでいた巨狼を握り潰す。


「ギャイン!」


 おそらく全身の骨が砕けて内臓が破裂したと思われ、狼の魔獣は数度痙攣し、それっきり動かなくなった。


「良かったあ……こんなの相手に特訓させられたら死んじゃうよ」


 命拾いしたらしいと思い、ルシェラは溜息をついた。


 そんなルシェラを尻目にカファルは羽ばたき、舞い上がる。


「ん?」


 そして空から山を見下ろし、やがて急降下して何かに襲いかかった。

 木々が揺れ、鳥が逃げ飛び、何かの悲鳴と咆哮がこだまする。


「んん?」


 やがてカファルは、山から何かを掴んで飛び上がる。

 半透明の体液を流して吊り下げられているのは、全身に黒い剛毛が生えた、二つの頭を持つ大グモだった。


「キシャアアアアア!!」

『ウォウ』

「さっきよりちょっと弱い奴持ってきたー!?」


 カファルは大グモを巣の近くに投下。

 大グモは不格好に着地するもすぐに起き上がり、鉤爪が付いた十二本の足をシャカシャカと動かしてルシェラに襲いかかってきた。


「ファ、≪爆炎火球ファイアーボール≫!!」

「シャアアア! キアアアア!!」

「うわっ、うわわー!?」


 相手の動きも怪我で鈍っており、ギリギリで対処できる程度だった。

 そのせいでカファルは止めに入らず、首をユラユラ動かしつつ我が子の雄姿を見守るモード。

 ルシェラの命懸けの追いかけっこは巣の周りで夕暮れまで続いた。

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ドラゴンが下々の微細(ドラゴン比)な強弱を感じ取れるのかは疑問だ
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