中
しとしと。
雨の中を傘を指して歩く。結局返信することはできず、逃げるように部屋を出た。出たくないはずの部屋にスマホを置き去りにして意味もない逃避を続けている。この時間にスーパーはどこも開いていない。ただ、それでもずきずきと締め付けられる痛みを払うためににげることしかできない。それがその場しのぎであることは理解しているがそうするしか方法がなった
気づけば、既に結構な時間が過ぎていた。世話しなく走り去る車と遠くで聴こえる電車の音が変わらない日常を強く感じさせる。道行く人が少しづつ増え、6日前と同じ風景が広がっている。かつて自分にも同様に日常の空気が流れていて世界は光って見えていたのに、いま自分の瞳は別物を写し出している。
「はぁ」
漏れでた空気の音がした。ボーッと突っ立てるわけにもいかない。重たい足を引きずるように歩き出そうとしたとき。
「小田くん。」
ビックッ。
その声は今1番聞きたくない相手のものだった。
「小田くんだよね?」
声の主が近付いてくる。体が動かない。でも心臓の音だけは早くなっていく。
「やっぱり、小田くんだぁ。」
ふふっと柔らかい笑みがこぼれた。
「まきさん。」
「久しぶりだねぇ。今週全く会えてなかったもんね。あ、それよりなんで連絡無視したの?」
答えることができない。自分がここまで幼いとは思っていなかった。たかだか、失恋しただけでこんなにも影響を受けるとは思っていなかった。そして、のこったちっぽけなプライドがそれを知られたくないと主張することも恥ずかしかった。
「・・・・・・」
「ねぇ、どうしたの?なんで黙ってるの?」
顔すら見れない。顔を背けまきさんを見ないようにする。それが精一杯の抵抗だった。
「ねぇってば!」
少し怒ったような声で話しかけてくる。それでもぐちゃぐちゃの頭ではどうしようなくただ黙ることしかできない。
「もう!」
ぐいっ。
頬が優しく包まれたかと思うと無理やりまきさんの方を向かされた。整った顔に不似合いなフニャッと歪んだ眉が怒ってるんだよーっと主張しているようだ。
「ふふ、こっちむいたねー。さぁ、お姉さんを無視した理由をはくのだ!」
いつもと変わらないその様子で話しかけてくる。やめてくれ。その気がないのにそんな態度をとらないでくれ。じゃないと、また……。
「えええ、ど、どうしたの?なんでないてるの?」
ふと目から涙がこぼれてしまった。恥ずかしくて、情けなくてどうしても見られたくない涙がこぼれてしまう。
「うーん、急にどうしちゃったの?やっぱり連絡とれなかったのはなにか理由があるんだね?」
そう優しくいう声にまた涙が止まらなくなった。