第15話「“シスターズアルカディア”VS魔王軍③」
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魔王軍幹部ビーシャス、その側近じゃという【吸血鬼殺し】のキバトを相手に戦う妾ことセイラ。
その奴の持つ刀“影斬り”は、“吸血鬼殺しの刀”と呼ばれる刀の中でも最上位クラスの斬れ味を持つ刀で、妾もかつてはその刀に殺されたことがある。
そもそも、“吸血鬼殺しの刀”とは、富士の山の真下を流れる“竜脈”(この“竜脈”というのが妾にはよく分からんが、なんでも錬成術という特殊な術を扱うのに使われるそうじゃが、詳細は不明じゃ。“竜神”の鱗が結晶化した物とされる“竜の涙”と何かしら関係があったのかもしれんが、今は関係ない話じゃ)の影響を受け、なおかつ太陽の光を浴びた特殊な鉄鉱石から作られた刀で、これで“吸血鬼”の身体を切断すると、斬られた身体が復活しなくなるのじゃ。
その理由はよく分かっておらんが、“吸血鬼”がかつては太陽光を苦手としておったことにあるのか、はたまた“竜脈”とやらに秘密があるのか…?
大昔、“吸血鬼”は太陽光を浴びるだけで焼け死んだとも言われておるが、今では普通に日射しを浴びる程度ではなんともない。
それでも、“吸血鬼殺しの刀”の刃が、究極の再生力を誇る“吸血鬼”を斬ることが出来るのは、やはり“竜脈”とやらに何か特殊な力があるべきと考えるのが妥当じゃろうか?
まぁ、今はそんなことはどうでもよいな。
ともかく、その“吸血鬼”を斬ることが出来る性質を利用して、首を切断、より正確には脳と心臓を繋ぐ血管を斬ることで、“吸血鬼”は永遠に復活出来なくなり、死を迎えるというわけじゃ。
『ハァっ!!』
キバトは、常人にはあり得ぬ程の速度で妾に近付くと、“影斬り”で正確に妾の首を斬りにくる。
しかも、ご丁寧に前後左右に残像を残しながら、斬りかかってくる方向も、時に背後から、時に正面から、時に斜め後方からと変えてきており、なおかつ斬るタイミングも完全にランダムなものじゃから、妾も完全に避けきるのになかなか苦労しておる。
「ふむ、お主は転生してただの人間になったというが、正確には違うな?」
対する妾も、ただ避けるだけでなく、時に呪術『影移動』を使って影から影へと移動して奴との距離を稼ぐ。
月明かりの中では、影は何処にでもあるからの、移動も自由自在というわけじゃ。
相手からすると、普通に避けられるか、『影移動』を使われるか分からぬから、ちょっとした油断で不意をつかれる恐れがあるので、心身共に消耗が激しいじゃろう。
ま、それは妾も似たようなもんじゃがな。
「お主のその移動能力は、霊能力である『縮地』じゃろう?
つまり、お主は霊能力者に転生した上で、“吸血鬼殺し”としての修練を積んだ、というわけじゃな?」
『確かにその通りだが、それを知ったところでどうする?』
その時の奴の一閃が、妾の首をかすめる。
ふむ、今の一撃は危なかった…
『影移動』でかろうじてその一撃を避け、移動した先にて妾は首筋に手を当てると、“影斬り”のかすめた場所から血が流れていた。
かすり傷ではあるが、普段ではこの程度の傷はすぐに治るのじゃが、“吸血鬼殺しの刀”による傷は治せんからの。
勿論、光の精霊術である『ホーリーヒール』など外部的要因による治療ならば可能じゃが、今はそんな余裕もないし、切札でもあるお兄ちゃまの加護をこの程度の傷の治療にあてるのは勿体ない。
『今のでかすり傷か…
普通の“吸血鬼”ならば、確実に首が飛んでいたハズなんだがな』
「じゃろうな。
妾とて、まさかかすり傷を負わされるとは思っておらなんだわ」
『だが、次は無いぞ』
再び『縮地』で目にも止まらぬ速度で妾を射程に捉えたキバトの刃が、妾の首筋に向けられる。
前後左右には時間差で妾に斬りかかってくる残像があり、本物の刃がどの方向から向けられたものか、どのタイミングで刃が妾に届くのか、一瞬では判断が難しい。
じゃが、そんな小細工はもう妾には通じん。
妾は、正面を向いたまま右手を背後へ向け、人差し指と中指を突き出し、背後にいる本物のキバトの心臓へと向けた。
「紅の呪いよ、来たれ!『ブラッディアロー』ッ!」
奴の刃先が妾に届く前に、妾の炎血の矢が、キバトの心臓を貫く。
…いや、ギリギリで避けられたか。
しかし、致命傷は避けただけで、身体に傷は負わせられたようじゃな。
「ふむ、今のタイミングで避けるか、なかなか良い反射神経をしておるな」
『ガ…ッ、ぐぅ…ッ!?
な、なんだ、今の攻撃は…ッ!?』
「なんだと言われても普通の呪術じゃがな?」
『そッ、そんなわけがあるかッ!?
百歩譲って、残像に騙されず俺の位置を正確に掴めたとしてッ!!
俺の刃より早く術の詠唱を終えるなどッ!?そんなことがあってたまるかッ!?』
妾達“吸血鬼”は、控え目に言っても、普通の人間達より遥かに強い人種と言える。
例え相手が霊能力者であっても、死なない(厳密には死ににくい)肉体を持った妾達がおいそれと負けることはない。
では、何故そんな妾達を“吸血鬼殺し”達が殺せるのか?
それは、呪術の詠唱に時間がかかるからじゃ。
奴らは、術を詠唱される前に殺せるから“吸血鬼殺し”足り得るのじゃ。
ちなみに、“吸血鬼殺し”の全てが霊能力者というわけではなく、中には“吸血鬼”以外の亜人であったり、妖獣であったり、ごく普通の人間もおったりした。
共通しておるのは皆、身体能力に長けておる者達、ということじゃ。
じゃが、そんな常識は“真祖”である妾には通じん。
“真祖”の超高速詠唱術は、“吸血鬼殺し”達の一呼吸より速い。
さらに、お兄ちゃま達とのキスによってパワーアップし、詠唱が省略出来るようになった今の妾の詠唱術に、最早スキなど無い。
ちなみに、妾の切札でもある『世界ヲ変エル力』の詠唱に関しては例外じゃがな。
あれは、超高速詠唱術は使えん。
それなりに時間がかかる故に、事前準備か、囮役が必要となる面倒な術じゃが、それ故に発動さえしてしまえば、一定空間内は妾の領域となるため、文字通り無敵状態になるわけじゃが。
閑話休題。
「というわけで、ここからは妾のターンじゃ。
せいぜい一撃で死なぬよう耐えるのじゃぞ?
紅の呪いよ、大いに来たりて舞い踊れっ!!
『ブラッディアロー』!『ブラッディアロー』!『ブラッディボール』!『ブラッディシュート』!『ブラッディバースト』ッ!!」
妾は、その超高速詠唱術に加えて、複数の術を一つの詠唱で放つ同時詠唱術を使った。
『なっ…!?こ、ここまで非常識な存在とは聞いてないぞッ!?』
今度はキバトが『縮地』で、妾の術から逃げ惑う。
「はははははっ!!そりゃそうじゃろう!!
妾の真の力を知って生き延びた者など、身内以外におらぬのだから、伝承のしようが無いというものだっ!!
ほれ、どんどんいくぞ!!
『ブラッディシュート』!『ブラッディシュート』!『ブラッディアロー』!『ブラッディバースト』!『ブラッディメテオ』ッ!!」
『ぐぁあああッ!?おっ、おのれぇえええ…ッ!!』
キバトは『縮地』で上手く避け続けているが、己の霊力を使っての『縮地』では次第に限界が訪れ、やがて避けきれなくなり、妾の術が当たり始める。
『ぐぉおおおおッ!?!?』
「さて、これで終わりじゃ!
紅の呪いよ、我が力となりて、敵を滅せよ!『ブラッディエンドバースト』ッ!!」
妾の放った一撃は、確実にキバトを捉えた、ハズじゃった。
しかし、爆発の直後、妾は背後に殺気を感じた。
(マズい!この一撃は『影移動』では躱せん…!)
ほとんど直感でそう判断した妾は、『成人化』を解除し、元の12歳の身長に戻ることで、首を狙ったその一撃を回避した。
『なっ…!?』
そして、再び『成人化』で17歳の身体に戻った妾は、空を斬ったキバトのガラ空きとなった胴を思いっ切り蹴り飛ばしてやった。
『ぐぁああああッ!?!?』
「ふむ、今の一撃は危なかったぞ。
先程の移動は魔術による『転移』じゃな?
元々の魂が魔人のものであれば、確かに魔力もあって魔術も使えるのじゃろうが、魔人の肉体ではないその体で魔術を行使すれば反動もキツかろうに」
今でこそ、お兄ちゃまは人間の肉体である程度魔術を反動無しに使えるようになった(姉妹達とのキスによるパワーアップのおかげじゃな)が、それまでは、血管が千切れるなどの反動があって大変じゃったそうじゃ。
案の定、キバトは全身血だらけ(妾の攻撃を受けた影響もあるじゃろうが)で、立つのがやっとというような体じゃった。
『ぐぅ…ッ、その余裕の態度…、後悔させてやる…ッ!!』
「ふむ、それは楽しみじゃ。
出来るものなら、やってみせよ、その刀で出来るものならな?」
『…何!?』
妾の言葉に、キバトがハッとした顔で自身の持つ刀に目を向けた。
『なっ!?これは…っ!?“影斬り”ではなく、普通の刀…!?いつの間にッ!?』
そう、奴の刀はすでにすり替えられておった。
いつからそうなっておったのか、妾でさえも気付かなんだが、恐らくはカズヒお姉ちゃまが超能力で奴の持つ“影斬り”と普通の刀を入れ変えたのじゃろう。
その理由まではこの時の妾には分からなかったが、お姉ちゃま達が相手をしておったビーシャスが、魔人と“吸血鬼”の混血じゃったから、キバトの持つ“影斬り”を使ってビーシャスを倒そうと考えてのことだったらしい。
それにしても、妾にさえ気付かせぬ早業とは、相変わらずのチートぶりに恐れ入るわい…
「というわけでじゃ、そのボロボロの体と、普通の刀で、どうやって妾を後悔させてくれるというのかの?」
『…ちっ、悔しいが、俺にはその役目は無理そうだ………』
「ふむ…?よもや諦めたのか?
ならば、このまま立ち去るか、あるいは妾の手で、」
「とどめを刺してやろうぞ」と言いかけたところで、突然、妾の視界が斜めになった。
「な、に………?」
『余裕をかまし過ぎたな、“真祖”の“吸血鬼”よ』
妾は振り返ろうとしたが、そうすることが出来なかった。
何故なら、首と胴体が物理的に離れておったからじゃ。
いや、はっきりと言おう。
妾の首は、背後に現れたビーシャスによって切断されておった。
それも、先程までキバトが持っておったのとは別の“影斬り”によって………
『これで終わりだ、“真祖”の“吸血鬼”よ…』
ビーシャスの声を聞きながら、妾は、自身に“死”が訪れるのを感じていた………




