第7話「試験とパーティーと姉妹間条約」
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6月3日月曜日、わたくしことイツキとツキヒさんとハルカさんとセイラさん、そしてレイヤさんとヒカリさん、及びユエさんとユナさんとヒナさんの九人は、“ワールドフラワレス”のわたくしの家で編入試験のための勉強をしていました。
わたくし達九人は“ワールドアクア”の小倉にある、公立の愛宕高等学校に編入することに決めたメンバーになりますが、試験勉強をするにあたり、いくつか問題がありました。
まず、単純な成績から言えば、ハルカさんとヒナさんが断トツで悪く、合格出来るかどうかの瀬戸際というところでした。
しかし、ヒナさんを含むクローン姉妹組は、脳に基礎教養を含む知識などがDLされているため、問題ないのではと思ったのですが、「知識があっても、それを使いこなせるかは別問題」ということらしいのですが、知識が入っている分、ヒナさんの方がまだハルカさんよりはマシという感じでしょうか。
そして、わたくし達全員に共通している問題として、“社会科”に関する知識が各パラレルワールドごとに違っているため、ほぼゼロから勉強しなければならない、ということでしょうか。
“数学”や“理科(化学、物理、生物)”に関しては、基となる基礎理論が同じなため、特に問題にはなりません。
“国語”に関しても、幸いなことに使っている言語が共通なために、新しく覚えることはほとんどありません。
外国語は各パラレルワールドごとに扱いが異なりますが、試験で使われる、“ワールドアクア”で“英語”と言われている言語に関しては、どの世界でも使われている言語(世界標準語かそうでないかの違いはありますが)ですので、こちらもほぼ問題ないと言っていいでしょう。
しかし、“社会科(地理、歴史)”に関しては各パラレルワールドごとに、国名から歴史まで、そのほとんど全てが違っています(似たような地名があったり、似たような事件・出来事が同時期に起こっていたりはしますが)。
なので、わたくし達は社会科を中心に勉強することになりました。
教師役は、休学中のお兄様がしていただけることになりました。
「今回の編入試験の範囲は、全教科共に、愛宕高校一年で習った範囲らしいので、
社会だと世界史Bの古代から中世辺りまでということになるな」
「中世というと、大体16世紀あたりまでということですね?」
「イツキの言う通りだ。
ルネサンスや宗教改革が起こったあたりだな。
というか、16世紀とかよく知ってたな、暦とかも“ワールドフラワレス”とは違うのに」
「いえ、予め少し予習していましたので」
お兄様の姉妹デート期間中に、わたくし達はお留守番していた時間で各々自習をしたりしていましたからね。
「ルネサンスって何だっけ?お笑い芸人のネタ?」
そう質問したのはカズヒさんです。
言い忘れていましたが、わたくし達と一緒に、同じく休学中のカズヒさんも、近々ある実力試験に向けて勉強しています。
「山田ルイ53世も、もうそのネタやってないだろ…
ルネサンスってのは、ギリシアやローマ字の文化を復興しようとする運動のことで、そうした運動の起きた時代のことを時代区分としてルネサンスと呼ぶこともあるんだが、
まぁ、今のカズヒは覚えなくてもいいことだ、今回の実力試験の範囲は“日本史”における古代だからな」
愛宕高校では、一年生が文理共通で理科なら化学ⅠB、社会なら世界史Bを履修することになるそうなのですが、二年生から文系理系に別れ、その際に文系は理科の生物ⅠB及びⅡ、社会の世界史Bともう一つを日本史と地理の中から選択、理系は理科の化学ⅠB及びⅡともう一つを物理と生物から選択、社会の日本史Bを履修、という風になっているそうです。
ちなみにお兄様とカズヒさん、そしてお二人の従妹の陽子さんの三人は理系ということでしたので、当然わたくし達も理系志望ということになります。
なので、一年の内容が試験範囲の編入試験と、二年で5月末までに習った内容が試験範囲の実力試験とでは、勉強する内容が一部異なるので、勉強が苦手なハルカさんとヒナさんは、終始この世の終わりのような表情をしています。
何せ編入後すぐに実力試験のため、今から同時に二つの範囲を勉強していかないと間に合わないのですから。
「だーいじょうぶだって、ハルカちゃん、ヒナちゃん!
10組にはあたしもいるんだから、安心しなよ!」
「試験受ける前からアタシ達を勝手に成績悪い組に入れないでくれる!?」
愛宕高校では、学期ごとにクラス替えがあり、各学期ごとに行われる実力試験が、次学期のクラス分けに関わるそうなのです。
前回のお話で、お兄様が一学年200人前後で、1クラス20人前後の全10クラスの組分け、と説明をされていましたが、厳密にはこれは理系のみの話だそうで、文系は別に100人程度いて、こちらも1クラス20人で全5クラスあるそうです。
まぁ、わたくし達は全員理系なので、あまり関係ないからと説明を省いたそうなのですが。
そして、実力試験の成績上位から順に1組、2組、3組…、と割り振られていき、一番成績の悪いクラスが10組(文系の場合は5組)となります。
その中で、当然お兄様は1組、従妹の陽子さんも1組で、カズヒさんだけが10組なのだそうで、カズヒさん的にはハルカさんとヒナさんという仲間が出来て嬉しいということのようですが…
「カズヒさんは勉強を頑張って1組に上がろうというつもりはないのですか?」
「んー、無理っ!」
「即答ですか…」
「ウチらと同じクラスになりたいとか思わんと?」
そう言うツキヒさんは、すでに自分が1組確定のように言っていますが、事実このメンバーの中で模擬試験をやった際に、わたくしの次に成績が良かったので、ツキヒさんも1組なのは確実でしょう。
というより、ツキヒさんの場合は実力試験で陽子さんと成績勝負をすることになっていますから、そういう意味でも陽子さんに負けるわけにはいきませんしね。
「いやー、だってどうせ授業中は別々なんだし、
お昼とか放課後は一緒にいられるから、クラスが違うくらいはどうってことないかなーって」
「イツキ、ツキヒ姉ちゃん、無駄だよ、カズヒはこういう奴だから…」
「でも赤点は今まで取ったことないし、数学は常に満点なんだからいいでしょ?」
「そこも納得いかんっちゃんね、数学だけはカズヒちゃんに勝てんのが…」
「アタイも数学だけは得意だぜ?」
そう言ったのはヒカリさん。
確かに、ヒカリさんも数学だけは模擬試験で常に95点以上を取っていますが、他の科目に関しても70点後半から90点前半と好成績を収めています。
「いや、ヒカリちゃんは数学以外も出来るじゃーん!!
オイラなんて70点とか取ったことないのに!!」
「いや、そりゃヒナが出来なさ過ぎるだけだろ…」
「それにしても、ヒカリちゃんが勉強出来るなんて、ちょっと意外かも」
「意外ってどういう意味だよ、カズヒ!?」
「そのまんまだろ?
ヒカリのイメージとして、頭が良さそうってのは無いんだよ」
「レイヤまで!
そういうレイヤこそ頭が良さそうな印象は無いぞ」
「ああ、恥ずかしながら前世のオレはどちらかと言えばバカな方だったけど、
オレの体は元々ゼロのスペアボディとして、ゼロの知識と記憶そのものがDLされてるからな、今じゃヨウイチの次に頭がいいと言っても過言じゃないぜ?」
「その割には模擬試験の成績はイツキやツキヒ、それにユエにすら負けてるよな」
「うぐ…っ、そ、それは、ほら、知識があってもそれを使いこなせるかどうかは別問題ってやつで…」
「あはは!レイヤ姉ちゃもオイラと同じだね!」
「ヒナと一緒にされるのは納得いかねぇ!」
「つーか、クローン組はズルいのよ!
知識が頭の中にあるんだから、後はそれを引き出すだけでしょ?
アタシらなんて、まずその知識を詰め込むところからスタートなのよ!?」
「でしたら、ハルカ姉上様の脳にもチップを埋め込んで、知識をDL致しますか?」
「そ、それはちょっと怖いわね…、でも試験に合格するためなら…っ!」
「ふふ、冗談ですよ、地道にコツコツと頑張りましょう、ハルカ姉上様♪」
「うぅ…、まぁ、それしかないわよね…」
「おーい、姉妹同士で仲がいいのは嬉しいが、そろそろ勉強進めないか?」
「おっと、少々話しすぎてしまいましたわね、失礼しました、お兄様」
「ところで、先ほどからユナとセイラ様がやたらと静かな気がするのですが…、というか、よく見ればこの場にいませんね……」
「「「「「えっ!?」」」」」
ユエさんに言われて見渡すと、確かにユナさんとセイラさんの姿が見えません!
「え、あいつら何処に消えたんだ!?」
「お待ち下さい、兄上様…、わたくしの“聴力強化”で探してみます」
そう言ってユエさんが耳をすませていると、
「見つけました、隣のプレイルームにいますね…
どうやらテレビゲームをしているようです」
とりあえず、わたくしとユエさんとツキヒさんとお兄様の四人だけで、隣の部屋へ向かいました。
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ユエさんの言う通り、二人は隣のプレイルームで、任天堂から発売された“持ち出せる家庭用据置型ゲーム”を大画面に繋いで、先日お兄様からプレゼントで姉妹全員がいただいた『ポケッ◯モン◯ター』の最新シリーズをプレイしていました。
「あーっ!!セイラ様、そこは『ムーンフォース』ですよーっ!」
「むっ?そうか、こやつはフェアリーが弱点じゃったか?うっかりしておったわ。
というか、タイプ相性が複雑過ぎてなかなか覚えきれんのじゃ…」
どうやら、セイラさんが通信対戦をしているのを、ユナさんが隣で見ているという感じのようですが…
「セイラ様は、勉強はぼくより覚えが早いのに、ポケ◯ンに関してはぼくの方が一歩上ですね!」
「むぅ…、勉強で勝つことよりポ◯モンで負けることの方が悔しいのじゃ!
この対戦が終わったら、後でもう一度、妾と勝負するのじゃ!」
「ポケ◯ンもいいですが、二人は勉強は良いのですか?」
「「ひえっ!?ゆっ、ユエ(お姉ちゃん)っ!?」」
背後に般若を浮かべたユエさんにすごまれ、恐怖の表情を浮かべるセイラさんとユナさん。
「おおおおっ、落ち着くのじゃ、ユエっ!!
落ち着いて妾達の話を聞くのじゃっ!!」
「そうそう!ぼく達は、ちゃんと今日の社会のノルマは終わらせたから、今は休憩してるだけなんだよ!!」
「それは本当ですか?」
「本当じゃ!!黙って部屋を出たのは悪いと思ったのじゃが、あの雰囲気の中で、妾達だけしれっとノルマ終わったから遊んでよいか?などと聞けるわけないじゃろ?」
セイラさんとユナさんは、勉強が苦手、というより勉強嫌いな一方で、決して頭が悪いというわけではなく、むしろ一般的に見れば成績は結構良い方という二人。
普段遊んでいるように見えて(実際遊んでいるのですが)、試験の成績は良いという二人なので、真面目なユエさんからすると、納得いきかねるところがあるのでしょう。
なまじ、最低限ここまではやる、というノルマをクリアしている分、怒るに怒りきれないユエさん。
「だからといって、」
「まぁまぁ、ユエ!
勉強したくない時に無理矢理やらせても、集中出来ず、身にならないだろ?
納得いかない気持ちは分かるが、二人の成績なら、このままノルマをこなしていけば、試験には間違いなく合格出来るだろうし、ここは二人の自由にさせてやろう、二人にもペースってものがあるだろうから」
「さすがはお兄ちゃまじゃ!妾達のことをよく分かっておるのぅ!」
「さっすがアニキ!愛してるっ!」
「…まぁ、兄上様がそう言うのでしたら。
しかし、ある程度遊んだらその他の科目のノルマも終わらせるんですよ?」
「はーい!」
「そのくらい分かっておるのじゃ。
勉強は好かんが、妾だけが不合格になるのはもっと嫌じゃからな、その辺はわきまえておるよ」
「では、わたくし達は戻りましょうか」
「ところで、イツキお姉ちゃま?」
そう言って戻ろうとしたわたくし達に、セイラさんが話しかけてきました。
「はい、何でしょう?」
「イツキお姉ちゃまは、それ以上勉強する意味があるのか?
昨日やった模擬試験では、すでに全教科満点だったではないか…」
「え、イツキちゃん全教科満点やったと!?
ウチが点数聞いた時は『まぁまぁでしたわ』、なんて言っとったのに!?」
「まぁまぁで全教科満点、ですか!?
イツキ姉上様にとってのまぁまぁって何なんですか!?」
ツキヒさんとユエさんに詰め寄られ、わたくしはしぶしぶ答えました。
「テストの点数よりも、解答時間の方がわたくしにとっては問題なのです」
「「解答時間?」」
「はい、制限時間の半分以内で全問題を解き終え、残り半分の時間で確認のためもう一度全問解き直してこそ、完璧と言えます。
昨日の模擬試験では、社会の解き直しにかける時間がわずかに足りなかったので、点数上では満点であっても、それは本当の満点とは言えませんから」
「「いや、意味が分からんっちゃん(分かりません)…」」
わたくしにとって、二度解き直してそこで初めて完璧な解答となります。
一度目の解答では、運良く当たっただけで、そんなものは実力とは見なしません。
なので、昨日の模擬試験は、たまたま全教科満点が取れただけで、出来としては「まぁまぁ」と言ったまでのことなのですが…
「イツキお姉ちゃん、完璧主義過ぎない…?」
「たまたま正解であっても、試験に合格出来ればそれで良いのではないかのぅ…?」
「ま、まぁ、イツキにはイツキなりの信念があるってことだろ!
さ、とりあえず、隣の部屋に戻って勉強の続きをやろう!」
とまぁ、そんな感じで編入試験の勉強を進めるわたくし達でした。
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「えー、では、無事、編入試験組全員が試験に合格し、編入出来たたということで、合格おめでとうパーティーを開催します!!」
「「「「「いえーーーいっ!!」」」」」
「「「「「おめでとーっ!!」」」」」
それから何だかんだで日付が過ぎていき、6月14日の金曜日、わたくし達全員の編入試験が終わり、その合否判定が出たところで、わたくし達の“合格おめでとうパーティー”をすることになりました。
例によって、いつもの大浴場で。
当然、皆何も着ていない生まれたままの姿で、湯船には当然お湯が張っています。
しかし、今回はそれだけでなく、これまでの“歓迎パーティー”と違い、洗い場にテーブルを設置し、そこに飲み物(アルコールは無しです)や、メイさん達の作ったたくさんの唐揚げやフライドポテトのようなつまめる食べ物、そして老舗の和菓子店で購入した羊羹などのデザートも用意して、立食パーティーのような形式でのパーティーをすることになりました。
家族水入らず(お湯はありますが)の、ありのままの姿での立食パーティー、なんて素敵ではありませんか♪
これを思い付いた時、わたくしは天才かと思わず自画自賛致しましたわ!
「大浴場で裸の立食パーティーとか、誰も考え付かんし、考え付いたとしても、やろうとはせんよ、普通…」
「さすがはイツキちゃんってところだよね!」
「いや、ウチは褒めたつもり無いんやけど…」
カズヒさんもツキヒさんも満足しているようで何よりですわ♪
「いや、ウチそんなこと一言も…って、ひゃん!?いきなりウチの胸触らんとって!?」
「ああっ!イツキちゃんズルい!
あたしもツキヒちゃんのおっぱいいただくと!」
「だーっ!!二人して何しよっとかーーっ!!」
わたくし達がじゃれている間にも、他の姉妹の皆様方も、それぞれに特に仲の良いメンバー同士で集まったりして楽しんでくれているようで何よりです。
そうしている間にも、食べ物や飲み物の追加は、メイさんとセイさんとレイさん、そしてナナカお姉様が適宜運んできてくれています。
ちなみに、この四人のお姿もま劇的で、裸エプロンならぬ裸メイド服(カチューシャに前だけを隠したメイド服、しかも胸元はガッツリ開いてる)という際どい格好なのです!
こういう時のための防水用メイド服を特注で作らせておいて正解でしたわ!
「ああ…っ!!なんという天国…っ!!」
と、そんなメイさん達のお姿を、目と鼻から血を垂れ流しながら拝んでいるのはアキホさんでした。
「やっぱり着エロこそ至高…!
それに、普段見られないメイさん達の裸を堂々と見られるなんて…っ!!
イツキ師匠っ、ありがとうございます、ありがとうございますっ!!」
いつの間にかわたくしがアキホさんの師匠になっていましたが、まぁ、喜んでくれているのから良いでしょう。
「そういえば、お兄ちゃんは?」
ツキヒさんのおっぱいを揉みながら、カズヒさんが周囲へ視線を巡らせてお兄様の姿を探しています。
揉まれている方のツキヒさんは、もう慣れたのか、これ以上何かを言っても無駄と諦めたのか、羊羹をつまみながら、ある方向を指差してこう言いました。
「…ヨウ君ならあそこよ」
ツキヒさんの指差す先には、レイヤさんとヒカリさんに押し倒されているお兄様がいました。
「だーから!ご主人様を最初に気持ち良くさせるのはこの第一“使途”であるアタイの役目だっ!!」
「なんだその肩書きっ!?
それなら、前世の頃から第一の親友であり相棒だったオレの役目だろっ!?」
「ちょっ、おまえら落ち着け…っ!くっ…、お、オレの息子を掴みながらいがみ合うの、はっ…、あ、ちょっ、それ気持ちい…っ!?」
「あらあら、お兄様ってば、もうすっかり元気になられて…♪」
「というか、ヒカリちゃん、お兄ちゃんのこと“ご主人様”なんて呼んでるんだ」
「むー…っ、やっぱりモヤモヤするっちゃん…」
「では、わたくし達も混ざりましょうか♪」
「そうだよ!
羊羹よりも、お兄ちゃんのナニをいただこう!」
「ひゃん!?ちょ、カズヒちゃん、そんな急に強く揉まない…っ、あぁんっ♪」
そうしてわたくし達もお兄様の元へとル◯ンダイブしました♪
「お兄様を一番に気持ちよくさせるのは、このわたくし!一番最初の妹の役目ですわーっ!!」
「何のっ!!それは現役妹にして、唯一血の繋がったカズヒ様の役目なのだーっ!!」
「あっ、ちょ!?え、えーっと、ウチは…っ、ヨウ君と一体化する武器にもなれるお姉ちゃんで…、ってそんなことより、ここは公平にじゃんけんで順番決めるべきやと思うっちゃん!」
「うおっ!?イツキにカズヒにツキヒ姉ちゃんまで!?
ちょっ、本当に待っ…、」
「あー!!やっぱ無理、我慢出来ないっ!!
ヨウイチーっ!!そこを代われー!!
代わらないと言うなら、容赦なく殺すっ!!」
と、そこへ先程までメイさん達を追いかけていたアキホさんが、背中に、蛾型の魔獣“ガモス”の羽を生やしながら、こちらへ向かってきました。
アキホさんは、わたくし達姉妹の中で、唯一お兄様のことを好ましく思っていない、と口ではおっしゃっている方で、その心の内ではお兄様への愛情がある、いわゆるツンデレ的な妹だと思っているのですが…
「どわーっ!?ちょっ、アキホっ!?
ここで『“ガモス”化』はマズいって!!」
「落ち着け、アキホっ!!屋敷ごと壊す気かっ!?」
ふむ、しかし“ツン”もここまで来ると厄介ですわね。
少々、お仕置きが必要でしょうか。
「心配いりません、わたくしの屋敷はその程度では壊せませんわ。
……何故なら、屋敷を壊すより先に、わたくしが敵を殲滅致しますので」
「ひぃっ!?しっ、師匠っ!?」
ヒカリさんによって羽交い締めにされているアキホさんの顔に恐怖の表情が浮かびます。
半分くらいは冗談のつもりでいましたが、アキホさんのその怯える顔を見て、わたくしの中にちょっとサディスティックな欲求が浮かびました。
「ほらアキホっ、早く謝れっ!!じゃないと、」
「ひーっ!!師匠、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!冗談ですっ、冗談ですからっ!!本気でヨウイチをころ、」
「いーえ、許しませんわ♪」
「いやぁあああああああああっ!!」
「だーっ!!イツキも落ち着けーっ!!」
レイヤさんに羽交い締めにされながら、わたくしはアキホさんが恐怖から失禁してしまったのを見て、改めてカワイらしいアキホさんに惚れ直してしまうのでした♪
「はーい、一旦落ち着きましょうねー、二人ともっ!」
直後、わたくしの頭部へゴチンっ!!という何かが落ちてくるような衝撃があり、わたくしは意識を失ってしまいました……
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「はーい、一旦落ち着きましょうねー、二人ともっ!」
お兄ちゃんを殺そうとしたアキホちゃんと、そのアキホちゃんを殲滅しようとしたイツキちゃんを止めるために(まぁ、イツキちゃんの方は半分くらい冗談だと思うけど)、あたしことカズヒは『物質転移』で、“そこそこに硬いたらい”を二つ取り寄せて、イツキちゃんとアキホちゃんの頭の上に落とした。
それらの効果は抜群で、二人はいい具合に意識を失って気絶した。
「うおっ!?このたらい、カズヒが?」
イツキちゃんを背中から羽交い締めにしてたレイヤちゃんが、自身にたらいが当たらないよう上手く避けつつ、意識を失ったイツキちゃんが床に倒れないよう上手く支えてあげながら、あたしに尋ねた。
「うん、そうだよー
直撃すれば、数分前くらいの記憶なら吹き飛ぶ程度の衝撃を与えつつも、外傷や後遺症なども一切残さないような素材で作られたたらいだよ」
「…は?」
「な、なんじゃそりゃ…?
そんな素材で作られたたらい、というか、そもそもそんな素材があんのか?」
同じく気絶したアキホちゃんを支えていたヒカリちゃんがそう尋ねてきた。
「んー、よく分かんない!
ただ、あたしがそう念じて『物質転移』を発動させて、実際に出てきた以上は存在してるってことじゃないかな?」
「ま、マジでか…?」
「そんなことありなのかよ…?」
「ヒカリもレイヤも深く考えたらダメだ。
最早カズヒのチート具合はそこまでのレベルに進化してるってことだ。
…その内、この世に存在しない未知の物質まで『物質転移』させかねないな」
「そんな、人を化物みたいに言わないでよー!!」
というか、あたしがチートならそもそものお兄ちゃんはどんだけチートなの!って話だし、イツキちゃんやセイラちゃん、キョウカちゃんなんかは単独で世界を滅ぼしかねない存在だよ!?
あたしなんか全然カワイイもんだと思うけどな!
その後、しばらくして意識を取り戻した二人は、計算通りに争っていた前後の記憶があやふやになっていたので、その後は何事もなくパーティーが進み、お開きとなった。
だけど、今回の一件で重大な問題が浮かび上がった。
というか、ここ数日は編入試験の勉強などのために、皆忙しくしていて、あえてそのことに触れずにきたのだが、これから新たな生活が始まるという段階になって、触れずにはいられない問題に直面することになったのだ。
その日の夜、お兄ちゃんが“ワールドアクア”のあたし達の家で眠ったのを確認したあたし達姉妹(キョウカちゃんとリンちゃんとセイラちゃん、そしてメイコちゃんとアキホちゃんの五人は除く)は、“ワールドフラワレス”のイツキちゃんの屋敷に集まっていた。
「皆さんに集まってもらったのは、これからのわたくし達の“新性活”について話し合うためですわ」
そう切り出すイツキちゃん。
「さすがにこれだけの人数ですから、毎日全員で、というわけにはいきません。
なので、お兄様とエッチをする順番などをどうするか、きっちりと決めておかねば、先の大浴場のような混乱を招きかねません」
「あー…、まぁ、大浴場では、その、本当にすまなかった……」
「つ、つい、試験勉強のストレスから、とんだ恥ずかしい真似を……」
顔を真っ赤にしながら、反省の弁を述べるのはレイヤちゃんとヒカリちゃん。
「いえ、お二人の気持ちはよく分かりますし、お二人が暴走していなければ、わたくしやツキヒさんが暴走していたかもしれません」
「そこで何でウチなん!?」
「まぁまぁ、ツキヒちゃん落ち着いて。
でも、実際、どうするの?
アタシ達が日替わりだとしても、お兄ちゃんはほぼ毎日ってわけでしょ?
それって、お兄ちゃんの体力が持たなくない…?」
「そこはお兄様に頑張ってもらいましょう」
「そこはヨウ君の自業自得やけん、文句は言わせんっちゃん」
イツキちゃんもツキヒちゃんも厳しいな~…
まぁ、頑張れ、お兄ちゃん!
「とはいえ、アニぃに倒れられても困るし、さすがに毎日は勘弁してあげない?」
「キョウカちゃん達年少組と~、アキホちゃんを除けば~、21人になるから~、
一日に四、五人ずつで~、五日間のローテーションとかどうかな~?」
ハルカちゃんとモトカちゃんがそんな提案をしてきた。
改めて、あたし達“シスターズアルカディア”で決めた、お兄ちゃんとエッチが出来る16歳以上の姉妹は、あたし、イツキちゃん、ツキヒちゃん、ハルカちゃん、サクヤお姉ちゃん、マコト君、モトカちゃん、カナンお姉ちゃん、マイカお姉ちゃん、ミライちゃん、モモコちゃん、ナナカお姉ちゃん、レイヤちゃん、ノゾミちゃん、アキラ君、アカリちゃん、ヒカリちゃん、ショウちゃん、ユエちゃん、ユナちゃん、ヒナちゃん、で計21人だ。
「モトカさんの提案が一番現実的でしょうね。
ちなみに、組み合わせに関してはどういたしますか?」
「毎回同じ姉妹同士で組むよりは、違う姉妹同士で組んだ方がお兄ちゃん的にも、あたし達的にも刺激があっていいと思う!」
「カズちゃんの言う通り毎回違う組み合わせだとして、それはどうやって決めるの?」
サクヤ姉ちゃんの質問に、あたしに代わってミライちゃんが答えてくれた。
「それなら、毎週くじ引きをして、その週の組み合わせを決めていくというのはどうでしょう?」
「なるほど、それなら公平でいいかもしれませんね。
うふふ、今から毎週誰のおっぱいを拝めるのかワクワクが止まりませんわ♪」
「いや、アタシらの胸なら毎日お風呂で見てるでしょうが…」
「いーえ、ハルカさん!
裸になるのが当たり前の場所で見るおっぱいと、普通は隠している場所で見るおっぱいとでは興奮の度合いが違いますわっ!!」
「そうだよ、ハルカちゃん!全く分かってないっ!!」
「いや、なんでアタシ怒られてるの…?」
「まぁまぁ、ハルカ姉上様。
それで、イツキ姉上様、その“新性活”ですが、実際にはいつから始めますか?」
「皆さんの編入試験は終わりましたが、“ワールドアクア”の愛宕高校と、私達“ワールドシルヴァネア”の軍学校では近くに実力試験が控えています」
「うぐ…っ、そうだった…!」
「テスト…、もう嫌だよ~……」
ユエちゃんとナナカお姉ちゃんの言葉に、頭を抱えるマコト君とヒナちゃん。
いや、口にはしないだけで、ハルカちゃんとユナちゃん、アキラ君も複雑な顔をしている。
というか、あたしも何だけどね…
「大丈夫ですか、カズヒさん?
何やらコオロギにタバスコをかけてそれをミキサーでノニジュースと混ぜて飲んだような顔をされてますが?」
「あたし、そんなめちゃくちゃな顔してる!?」
「ふふ、大丈夫ですわ、どんな顔のカズヒさんもとてもカワイらしいですわよ♪」
「あ、ありがと…」
「はいはい、ごちそうさま。
それより、その“新性活”とやらやけど、皆の実力試験が終わってからの方がいいやろね。
…認めたくないっちゃけど、一人ハーレムに増える可能性もあるわけやし」
ツキヒちゃんが言ってるのはあたしとお兄ちゃんの従妹の陽子ちゃんのことだろう。
ツキヒちゃんは、実力試験の成績で自分に勝てば、陽子ちゃんの“シスターズアルカディア”入りを認めるという勝負をしている。
ちなみに、ツキヒちゃんは姉妹の中ではイツキちゃんに次ぐ二番目の成績だが、陽子ちゃんも学年では常に上位にいる成績だ。
実はここまで触れていなかったけど、皆の編入試験勉強期間中、陽子ちゃんも学校帰りにあたし達の家に来ていて、お兄ちゃんから勉強を教わっていた。
元々お兄ちゃんも成績は良かったが、前世の記憶と知識を取り戻した今なら、学校の試験程度の勉強ならほとんどする必要がない(特に理系科目に関しては)くらいになってたから、そのお兄ちゃんから効率の良い知識の覚え方やら何やらを習った陽子ちゃんなら、確実に学年上位五人には食い込めるだろう。
そうなってくると、二人の試験対決の結果は本当に分からず、ツキヒちゃんの言う通り、陽子ちゃんの“シスターズアルカディア”入りもあり得るということに!
「というか、ツキヒちゃん的にはもうほとんど認めてるんじゃないの?」
「はぁ!?カナン姉さん、何言いよーと!?」
「確かに、わたし達と出会う前のツキヒちゃんなら、ハーレムなんて絶対ダメ!って言ってたと思うけど、今のツキヒちゃんはなんだかんだで、わたし達と一緒にいるの楽しんでるよね?」
「そ、そりゃ…、まぁ…、楽しくないことはなくもなくもなくもないっちゃけど…」
「いや、どっち!?」
「そ、それとこれとは話は別なんよ!ともかく!この話は終わりっ!!」
「ニャははは♪複雑な乙女心ってやつだニャ~♪
まるでアキホちゃんみたいだニャ♪」
「ちょっ、頭を撫でんで!というか、いつの間にウチの後ろに!?」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるツキヒちゃんを、いつの間にツキヒちゃんの背後に回ったのか、ニヤニヤしながらツキヒちゃんの頭を撫でるショウちゃん。
「アキホちゃんみたい、ってことは、やっぱりアキホちゃんもお兄ちゃんのこと好きなの?」
「本人は絶対に認めニャいだろうけどニャ~」
「え、アキホのやつ、ヨウイチのこと好きなのか!?」
「ええっ!?いや、だって、アキホは部類の女の子好きで、ヨウイチのことだって本気で殺そうとしてなかったか!?」
「ヒカリちゃんもレイヤちゃんも、乙女心が分かってニャいニャ~…」
「本当、二人は鈍いな~…
ボクだって何となくアキホちゃんの気持ちには気付いてたよ?」
「「いや、アキラには言われたくねぇよ!」」
自分へ向けられる恋愛感情には一切気付かないという、お兄ちゃんとある意味同類のアキラ君が言うと、ちょっと説得力が落ちるが、やはりアキホちゃんも心の何処かではお兄ちゃんのことを愛しているんだろう。
だから、お兄ちゃんの妹として転生出来たのだろうから。
「とはいえ、アキホの方はまだまだ時間かかりそうよね、何より本人が一番自覚してなさそうだし」
ノゾミちゃんの言う通り、そこが問題だ。
「アキホのことは…、兄やも含めた、本人達の今後次第…、ってことで」
「モモコちゃんの言う通りね。
とりあえず、件の“新性活”は、皆の実力試験が終わってから、ってことでいいかしら?
もう夜も遅いし、今夜はこの辺にしときましょう、アカリちゃんももう限界っぽいしね」
マイカお姉ちゃんの言う通り、アカリちゃんの頭はすでにこくりこくりと船を漕いでおり、限界を迎えているようだった。
「ボク…、もう、限界、です……」
「ふぁあ~、だね~…
ぼくもそろそろ限界だよ~…」
ここにも一人、ユナちゃんが眠そうに眼をしばたたいていた。
「では、一応の方針が決まったということで、今夜はお開きとしましょうか」
とりあえず、学校の実力試験が終わるまでは、“全員抜け駆けなしのエッチ禁止条約”が姉妹間で結ばれることとなったのでした。




