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シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第1章~ワールドフラワレス~
8/103

第7話「姉」

*


 お兄ちゃんがカオルとの決闘に無事勝利し、イツキちゃんの家でお兄ちゃんの祝勝パーティとハルカちゃんの引っ越し記念パーティの準備をするあたし達。

 セイさんが料理を作り、メイさんがハルカちゃんの部屋の準備を整えている間、あたし達は談話室の飾りつけなんかをやっていた。


 飾りつけをしながら、お兄ちゃんのもう一つの前世の話を聞いていた。



「しかし、まさかお兄様がかの伝説の王国騎士団団長、イチロー・ローザスでもあったなんて」


「んで、お姉ちゃんがサク・ローザスさん、この間話してた、無詠唱で水の精霊術を使ってたっていう」


「ああ、と言ってもそのからくりは俺が設計した精霊剣を使っていたからなんだけどな」


「精霊剣“マリンセイバーロッド”、ですわね。

 しかし、そういった物が使われていたという情報が歴史には残っておりませんわ」


「イツキちゃんが精霊剣のことを知ってたら、カオルなんかには絶対負けたりなんかしなかったよね!」


「何かしらの理由で、俺の後の時代の王国騎士団が精霊剣の存在を隠蔽したんだろうな」


「確か、お兄様(イチロー)の後の王国騎士団では権力争いが激化したそうですから、その過程で精霊剣の存在を独り占めしたい権力側が勝利し、

 その結果、精霊剣の存在が歴史から隠蔽された、といったところなのでしょうね…」


「まぁ、そんな所だろうな」



 大人の世界って汚い。

 まぁ、その辺の難しい話はどうでもいいや。

 それよりも気になるのはあたし達の新しいお姉ちゃんの話だ。


 お兄ちゃんの前世のお姉ちゃん、第192代王国騎士団団長のサク・ローザス。

 時代的には、イツキちゃん(ルナ)ハルカちゃん(ミハル)よりも後の時代の話になる。

 当時の年齢は19歳で、あたしたちより3歳年上のお姉ちゃんだが、年代的にはあたしの次に若い。



「そう言えば、確かサクさんって、魔獣ビランテに食べられちゃって、そのビランテごとお兄ちゃん(イチロー)の氷の最強術『ブリズドスクエア』で封印されて、ビランテが復活しないよう北極の氷に封じられたんだよね?

 ということは、お兄ちゃん…、」


「ああ、奇しくも、俺がハルカにやってくれと言ったことと逆のことを俺は姉ちゃんにした、ってわけだ」



 そういうお兄ちゃんは悲しそうな表情を浮かべていた。

 無理もないよね、仕方がなかったとはいえ、お姉ちゃんを封印しなくちゃいけないなんて、あたしだったら絶対嫌だもん。



「イチローとしての記憶を取り戻したから、改めてハルカの苦しみを理解したよ。

 俺は、ハルカにとんでもない重荷を背負わせちまってたんだな…」


「それを言うなら、わたくしの時もそうでしたわよ?

 魔王ヤミとの戦いが終われば抱いてくださるという約束でしたのに、勝手に先に旅立たれるのですから」


「そんな直接的な約束ではなかったが…、まぁ、そうだな、イツキに関しては、その後2000年も待たせちまったわけだしな、本当に申し訳なかったよ」


「ま、過ぎたことを後悔しても仕方ありませんわ。

 時間はかかりましたが、今こうしてまたお兄様と一緒にいられるのですから。

 それに、新たに姉妹を10人も連れて転生してきてくれました!」


「今はまだ三人、いや、ヨミの言う通りなら、

 恐らくサク姉ちゃんもこの世界の何処かに転生してきているハズだから四人か」


「11人の姉妹とお兄様によるハーレム!!

 姉妹達の理想郷、“シスターズアルカディア”ですわ!!」


「おおっ、“シスターズアルカディア”!なんかいい響きだね!」


「そ、そうか…?」


「“シスターズアルカディア”を築くためにも、まずはハルカさんを本日正式にお迎えし、この世界に転生してきているハズのサクお姉様も見つけ出しましょう!」


「“シスターズアルカディア”云々は置いとくとして、イツキの言う通りだな。

 今度こそ手放さないように、皆で幸せになるために」



 そう言うお兄ちゃんの瞳は決意に燃えていた。

 そうだよね、事情があったとはいえ、愛する兄妹きょうだい姉弟きょうだいが離れ離れになるなんてあっちゃいけないこと。


 家族は、全員が揃って仲良く幸せにならなくちゃいけない。

 


*



――――助けてっ、アニぃッ!!



「…ハルカ!?」


「お兄様?」


「お兄ちゃん、どうかしたの?」



 ハルカの歓迎パーティーの準備をしていた俺は、ハルカの助けを呼ぶような叫び声を聞いた気がした。



「…ハルカが危ないっ!!」



 俺の中のシス(コン)が叫んでいる!

 俺は持っていた飾りをその場に投げ捨てると、談話室を飛び出した。



「お、お兄ちゃん!?」


「お、お待ち下さい、お兄様っ!!」



 俺は走りながら光の精霊術『フライ』を唱えると、そのまま玄関から飛び出し、王国騎士団本部の方へと飛んでいった。


 俺のすぐ後から、『スピリット』で“炎化”及び“風化”して追いかけてくるイツキとカズヒ。

 二人は俺の突然の奇行に戸惑っているようだったが、空中で「何だかよく分からんけど、とにかくハルカが危ないんだ!」という俺の説明に納得してくれたらしく、それ以上の詳しい説明を聞かずに付いて来てくれている。

 とはいえ、これ以上の説明を俺自身も出来ない。

 俺の2000年間拗らせ続けてきたシス(コン)が告げているのだ、ハルカに危機が迫っていると。



 そうしてしばらく飛んで王国騎士団本部に辿り着いた俺は、その建物内部から嫌な魔力を感じた。



「この感じる魔力は、まさか…!?」



 俺は警備の騎士団員たちの制止も聞かず、魔力の感じる方へと向かった。

 向かった先には一つの扉があり、その扉のネームドプレートには王国騎士団団長室とあった。

 当然鍵のかかったその扉を、俺は『サンダーアロー』で強引に破壊し、部屋の中へと入っていった。


 だが、室内には誰もいなかった。

 部屋の中を見回すと、奥にさらに扉があったので、再び『サンダーアロー』で扉を破壊し、中へと入った。

 中は薄暗く、たくさんの本棚で囲まれていた。

 そして、当然そこにも人の気配は無かった。


 遅れて、イツキとカズヒも部屋の中に入って来た。



「お兄様、ここにハルカさんが…?」


「で、でも、誰もいないよ?」


「行き止まり…?いや、地下かっ!」



 魔力はこの部屋の下の方から感じる。

 となれば、この部屋の何処かに地下への入口があるはずだが、



「探すのもめんどくさい!一気に行く!!

 光の精よ、集え!『ホーリージャベリン』!!」



 俺は右手に光の精霊を収束させ、2メートル程の長さの光の槍を生み出した。

 『ホーリージャベリン』、本来攻撃術式の存在しない光の精霊術を攻撃用にアレンジした俺のオリジナル術だ。

 最強の盾である『ホーリーシールド』を細く収束させ、槍状にすることで、何物をも防ぐ盾を、何物をも貫く最強の矛とする術だ。


 『ホーリージャベリン』に貫けないものはない。

 俺は、その光の槍で地下まで強引に貫いた。

 


「イツキッ!」


「ええ、分かっておりますわお兄様!

 炎の精よ、集え!『フレイムアロー』!!」



 だが、『ホーリージャベリン』はあくまで貫通力に優れた武器であって、破壊力に特化したものではない。

 そこで、光の槍で貫通させた穴を大きくする役目は破壊力に優れたイツキの炎の矢、ということになる。


 『ホーリージャベリン』で開けた穴に、いくつもの炎の矢が吸い込まれて行き、周囲を炎で溶かしながら穴を広げていく。

 人が通れるほどの大きさになった時、俺たちはその穴に飛び込み、真っすぐに地下室へと降り立った。



「やれやれ、突然天井に穴が開いたかと思えば、

 メチャクチャな登場の仕方をしてくれますね、ヨウイチ君、それにイツキ君」



 果たして、そこにいたのは不気味な笑みを浮かべるカオルだった。

 


「しかし、お早い到着でしたが、それでも遅かった」



 カオルの隣には、緑色の液体の入った大きな試験管があった。

 その試験管の中には、両手両足を拘束された、全裸のハルカが入れられていた…!



「てめぇっ、ハルカに何をしたぁああああああああっ!?」



 頭に血が上った俺は、床を蹴って一息でカオルの元まで辿り着くと、思いっきりその顔面を殴り飛ばしていた。

 殴り飛ばされたカオルは背後のもう一つの試験管にぶつかり、その試験管にわずかにヒビが入った。



「お、お兄様…っ!」


「ね、ねぇ、ひょっとしてその試験管に入っている人って…!?」



 イツキとカズヒが指を指しているのは、カオルがぶつかったそのヒビの入った試験管だった。

 ゆっくりと視線をあげていくと、その試験管の中に入れられているのはハルカと同じように全裸で両手両足を拘束されている少女だと分かった。

 ただしその姿は、両手が植物のつるのようになっており、お腹には巨大な薔薇の花が、そして背中からはいくつかの触手が生えていて、そして、その顔は……、



「ま…、まさか、姉ちゃん…!?」



 見間違えようがない、その試験管の中にいたのは、ビランテ化したサク姉ちゃんだった。



「まさか、ここはキメラの実験場…!?

 ということは、カオルさん、あなたが実験の首謀者だったというのですか!?」



 見渡せば、試験管はまだいくつもあり、様々なキメラがその中に拘束具で繋がれていた。



「ククク、ええ、そうですよ、この国を魔人達から守るために、より強い力を得るために、合成獣キメラを作り上げたのです!

 ですが、もうそんなことはどうでもいい!!

 今はただ、ヨウイチッ!!

 この私に恥をかかせ、私からイツキ君とハルカ君という最高の花嫁(コレクション)を奪おうとするキサマを、キサマの大切な(サク)(ハルカ)に殺させる!!」



 カオルが隠し持っていたリモコンのスイッチを操作した。

 すると、ハルカと姉ちゃんの入っていた試験管から緑色の液体が徐々に排出されていく。



「さぁ、“ビランテサク”と“ギラドハルカ”よ、ヨウイチを殺せ…ッ!!」


「「ア゛アア゛アアアアアアッーーーーー!!」」



 緑色の液体が完全に排出される前に、二人は拘束具を引きちぎると、試験管を中から破壊し、その姿を変えていった。

 

 サク姉ちゃんの背中からは巨大な植物の幹が形成され、3メートルほどの高さにまで成長すると、その先端に巨大な薔薇のような花が開き、巨大な幹の根元からは無数の牙を生やした触手が現れた。

 姉ちゃんの身体は、下半身が植物の幹の中に完全に吸収され、上半身だけが幹から飛び出している格好だ。


 一方、ハルカの方は、背中から二枚の金色の翼と、鱗の生えた金色の尻尾が二本、両手両足も金色の鱗に覆われて龍を思わせる巨大なかぎ爪へと変化し、両目は赤く、上唇からは二本の牙が生えた、禍々しい姿へと変化していた。



「サク姉ちゃん…、ハルカ…ッ!!」


「ハハハハハハハッ!!成功だ!!

 やはりハルカ君はギラドの細胞に適性があった!!

 最強の合成獣キメラの完成だっ!!ハハハハハハハハハッ!!

 さぁ、その力を存分に振るい、お前の愛する兄を殺してしま、」


「ガァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


「!?」



 だが、ハルカは俺には目もくれず、自身の尻尾でカオルを殴りつけた。

 殴られたカオルは、いくつかのキメラの入った試験管を割りながら吹き飛ばされて行き、地下室の壁に叩きつけられた。



「わ、私の制御が効かないとは……、やはり、ギラドの細胞は……、」



 そこでカオルは意識を失ったようだった。

 

 

 俺はハルカの方へと向かい、声をかけた。



「ハルカ!大丈夫か!?俺のことが分かるか!?」


「あ…、アニぃ……」



 赤く染まったハルカの瞳が一瞬元に戻った。

 


「ハルカ!!良かった、まだ意識が、」


「ダメ…、アニぃ……、ニゲ…、テ……」



 だが次の瞬間には再び瞳が赤く染まり、ハルカはその口から電撃を伴った光線を吐き出し、俺を吹き飛ばした。



「ぐあぁあああああああっ!?」


「お兄様っ!!」


「お兄ちゃんっ!!」


「ア゛ア゛アアアアアアアアアア゛ーーーーーーーッ!!!」



 その後ハルカは、二枚の翼で飛び上がると、地下室の天井をぶち抜いて外へと飛び出していってしまった。



「ハ…、ハル…、カ……」



 吹き飛ばされた俺は頭を壁に強く打ちつけ、不覚にも気を失ってしまった……



*


「お兄様っ!!」


 

 ギラド化してしまったハルカさんからの攻撃を受けたお兄様は、壁に頭を打ち付けて気絶してしまいました…!

 おまけにハルカさんは地下室の天井をぶち抜いて外に逃げてしまいました。

 一方で、サクお姉様は、今はまだ大きな動きは見せていませんが、完全にビランテ化している状態。



「くっ…!わたくし達は一体どうすれば…!?」



 単純にキメラの暴走であるなら、彼らの動きを止めるのにためらいはありませんが、相手が我が命と同じくらいに大切な姉妹とあっては…!


 とりあえず、まずはお兄様の安否を確認すべく、気絶したお兄様の元へと駆け付けようとした時、背後にいたカズヒさんが正面の方を指さして叫びました。



「わわっ、イツキちゃんどうしよう!?

 さっきカオルがぶつかって壊した試験管の中に入ってたキメラたちが…!」


「全く、カオルさんは最後の最後まで余計なことを…っ!」



 キメラの数は…、五体ですか。

 サウスダイリ研究施設にいたキメラは、基本的に動物同士を掛け合わせた所謂普通のキメラでしたが、今ここにいるキメラたちは魔獣の細胞が入った、魔力を宿したキメラのようです(実際にわたくしは魔力を感じることは出来ませんが、魔力を纏っているかどうかは雰囲気でなんとなく感じ取れます)。



「厄介ですが、あの程度の雑魚、一瞬で…!」


『『『『『グルァアアアアアアアアアアアアッ!!』』』』』



 五体のキメラが同時にわたくし達に襲い掛かります。

 わたくしが精霊術を放つ構えを取ろうとした時、わたくし達の目の前に巨大な植物の幹が現れ、その根元から生やした触手で五体のキメラを捕えたのです!



「え…!?」


「サクお姉ちゃん!?」



 サクお姉様が、わたくしたちを助けてくれた…!?



「ふ…、二人とも…、い、今の、内に…!」



 幹から生えるような格好となっているサクお姉様の瞳は、右目は赤く染まっていましたが、左目は黒いままでした。

 恐らく、ビランテの意識に乗っ取られそうになりながらも、必死に耐えているのでしょう。



「私の……、意識、が…っ、まだ、ある……内に、イッ君を起こして…、そして……、もう一度、私ごと…、ビランテを……ッ!!」


「お姉様…っ!!」



 お姉様は400年前と同じように、またお兄様に自分ごとビランテを封印させようとしている…!

 そんなこと、そんなこと…!



「大丈夫だよ、お姉ちゃんっ!!」



 そうハッキリと言い切ったのはカズヒさんでした。



「あな…た、は……、カズヒ…ちゃん?」



 何故かお姉様はカズヒさんの名前を知っておりましたが、今はまだそんなことはどうでもいいでしょう。



「あたしたちのお兄ちゃんなら、お姉ちゃんもハルカちゃんも絶対に助けてくれるっ!!

 前世でやったことは繰り返さないっ!!

 お兄ちゃんは同じ失敗は二度は犯さないからっ!!

 だからっ!!お兄ちゃんを信じて待っててっ!!」


「…カズヒさんの言う通りですわ。

 わたくしたちではどうすればいいか分かりませんが、お兄様なら、きっと何とかしてくださいます。

 ですから、サクお姉様、もう少しだけ、そのまま耐えていてくださいますか?」


「……、分かっ、たわ……、イッ君のこと、信じる…、それに、あなたたち…、カズヒちゃんと、イツキちゃん…、新しい妹のことを……!」



 大丈夫、わたくしたちのお兄様なら、サクお姉様もハルカさんもきっと助けてくれる!

 そう信じて、わたくし達はお兄様のもとへと駆け寄るのでした。



*


『では、今日は隷属魔術について教える』



 そう言って、頭から角の生えた魔人の教師が、黒板を背に語り始めた。

 

 これは夢…、いや、俺のもう一つの前世、俺が魔人だった頃の前世の夢だ。

 ここは魔人育成学園の教室で、俺はそこの生徒として魔術を学んでいた。



『隷属魔術には三種類ある。

 一つは魔獣を“使い魔”とするための術、『魔獣隷属術』。

 一つは魔人を“奴隷”とするための術、『奴隷契約術』。

 一つは異世界の妖獣や亜人を“隷獣”として使役するための術、『隷獣契約魔術』。

 術によって被術者の境遇などが変わってくるが我々術者にとってその辺のことは関係ないことなので、今は説明は省略する。

 我々術者からすればほとんど違いはなく、被術者の魂を魔力で縛り、隷属させるということだ』



 そこまで言って、教師はチョークを持つと、黒板に三種類の複雑な魔方陣を書いていく。



『隷属魔術のやり方は簡単だ。

 これら魔法陣で対象を捕え、魔力を流し込み、対象に“隷属輪(リング)”を刻めれば完了だ。

 右から『魔獣隷属術』、『奴隷契約術』、『隷獣契約魔術』の魔法陣になる。

 “隷属輪(リング)”を刻まれた被術者は術者に対して絶対の服従を誓うことになり、一切逆らえなくなる。

 どれだけ凶暴な魔獣であろうとも、一度“使い魔”としてしまえば、魔力が封じられ、術者の命がない限り自由に魔力を使うことが出来なくなる』



 その後も教師の説明が続く。

 ある程度教師の説明が終わった所で、俺の席の隣に座る幼馴染の少女(何故か、彼女は俺のことを“兄や”と呼んで慕ってくれていた)、モーナ・ギャランズが教師に質問をした。



『先生、対象が大きすぎたり、抵抗されて魔法陣で囲めないような場合はどうすれば?』


『ふむ、その場合は隷属魔術を諦めるか、対象の体内に直接魔力を流し込んで、強引に隷属魔術を行使する。

 こちらの方がより確実で絶対の隷属が約束される』


『対象の体内に直接魔力を?それはどうやって?』


『色々あるが、一番手っ取り早いのは、口腔接触による魔力注入が確実だろうな』




*


「……ぃ様っ!お兄様っ!!」



 俺が目を覚ますと、目の前には心配そうな顔を浮かべたイツキとカズヒがいた。



「…っ、俺はどのくらい意識を?

 今、どうなってる?ハルカは?姉ちゃんは?」



 俺は壁にぶつけた後頭部をさすりながら腰を上げた。



「ほんの一、二分程ですわ。

 ハルカさんはギラド化して地上に出ていかれました。

 お姉様は、あそこで試験管から出てきたキメラ達を相手に戦ってくれていますが、かろうじて自らの意識を保っている状態の様で、いつハルカさんのように意識を完全にビランテに乗っ取られるか…」



 イツキから説明を受けながら俺はゆっくりと立ち上がった。

 姉ちゃんはまだ意識が残っているのか。

 チラリとそちらへ視線を向けると、確かに姉ちゃんがビランテの触手を操り、キメラと戦っているのが見えた。

 ビランテの根元には、ビランテの溶解液で溶かされたり、牙で内臓を引き千切られて息絶えたキメラ数体が転がっていた。

 天井、正確には地上の方へと意識を向けると、地上からギラドの魔力が暴れているのが感じられた。

 ハルカの方は完全に意識をギラドに乗っ取られて暴走しているようだ。


 ならばと、優先順位を決めた俺はイツキとカズヒにこれからの行動を告げた。



「イツキ、カズヒ、俺の話を聞いてくれるか?」


「ええ」


「もちろん!」


「これからサク姉ちゃんとハルカを救う。

 時間がもったいないから説明は省くが、まず先に姉ちゃんを助けてから次にハルカだ」


「分かりました、ではお兄様がお姉様を救っている間、わたくしがハルカさんの暴走を抑えておけばよいのですね?」


「ああ、話が早くて助かるよ」



 さすがイツキだ、俺の考えをよく理解してくれている。



「お兄ちゃん、あたしは!?」


「カズヒは俺のフォローを頼む!」


「オッケー!」



 そこまで話したところで、最後のキメラがビランテの根元から生えた触手の牙でかみ砕いて倒されたところだった。



「ガアア゛ガアアアアアアーーーーッ!!」



 同時に、姉ちゃんの叫び声が響き渡る。

 マズイ、もう姉ちゃんの意識がもたない…っ!



「イツキ!!」


「ええ、お兄様を信じておりますわ!」



 イツキは『スピリット』を唱えて“炎化”すると、ハルカが開けた天井の穴から出て行った。



「よし、じゃあカズヒ、行くぞ!」


「うん!!」



 俺とカズヒはサク姉ちゃんを救うために、サク姉ちゃんと向かい合った。



「ガ…、ア、イッ…、君……」


「姉ちゃん、記憶が…、俺のことが分かるんだね?」


「ア゛…、う、ん…、ビ、ランテに…、飲み、こま、れて……、ずっと…、意識…、だけ、は…、あった……、から……」



 ビランテに飲み込まれてから…!?



「あの…時、ミラ、ちゃんを助、けて…、ビラン…、テに、飲み込まれて……、イッ君に、封印…、される、直前……、ビランテは、コアを、種子にして…、生き延び…、たの……

 私、は…、ビランテ、と…、一体化して、いた…から……、カオルさん…に、捕らえられて…、あの…、試験管の、中…、に、いた時、も…、外の、話、だけは…、聞こえて…、いた、から…っ、ア゛、ガ…ッ、ア゛ア゛アアアアアアアアッ!!!!」


「姉ちゃん!!」



 姉ちゃんの両目が赤く染まりかけている…!

 意識がビランテに乗っ取られてかけてる証拠だ、急がないと…!



「姉ちゃん、今すぐ助けるから!だから、あと少し耐えてくれっ!!」


「アッ…、グァガアアアアア゛ーーーーッ!!

 わ…、かっ、た…!イッ君を…、信…、じてるから…ッ!!」



 だが、すでに赤く染まった右目側、つまり右半身側の制御はビランテに乗っ取られてしまっているようで、右半身側の触手が俺たちに向かってくる。



「や…、やめてぇえええええええッ!!」



 姉ちゃんの叫び声が響き渡る。

 俺はシールドを張ってその攻撃を防ごうと構えたが、それより先にカズヒが動いた。



「風の精よ、集え!『ウィンディカッター』!!」



 カズヒの放った風の刃が触手を切り裂いた。



「サンキュー、カズヒ!!」


「行って、お兄ちゃん!!そしてお姉ちゃんを助けてあげて!!」



 その間に俺は駆け出し、姉ちゃんの元まで迫った。



「姉ちゃんっ!!」


「ア…、グ…ッ……!!イッ、君…ッ!!」



 俺は、ビランテの幹から飛び出した姉ちゃんの上半身を両手で抱きしめると、目を閉じ、集中した。


 魔獣を隷属させ、使役するための魔術『魔獣隷属術』を使うため、体内に眠っていた魔力を解放する。



「うおおおおおおおおおおおおっ!!」



 俺の頭部から二本の角が生え、全身の血管が浮き出る。

 魔力を扱うために、身体が魔人化していくのが分かった。



「イ…、イッ君……!?そ、その姿は……!?」


「姉ちゃんを、俺の“使い魔”にする…ッ!!」


「イ、イッく…ッ!?」



 俺は姉ちゃんの唇に、自分の唇を重ね、自分の魔力を姉ちゃんの体内に一気に注ぎ込んだ!



「ん…っ、んんっ!?」



 姉ちゃんが、いや、ビランテが抵抗しようとする。

 俺の注ぎ込む魔力を拒絶しようと、魔力で抵抗してくる。

 俺は姉ちゃんの中にさらに魔力を注ぎ込むために、一層力を込め、姉ちゃんの口の中に舌を入れる。



「んんっ!?ん…、んんんーーーーっ!?!?」



 段々とビランテの抵抗が弱まっていく。

 あと少し、あと少しで、ビランテの魔力を完全に支配できる…っ!

 俺はさらに舌を姉ちゃんの舌と絡め合わせる。



「ん……ッ!!んんんんんんーーーーーーッ!!!」



 姉ちゃんの身体がビクンと跳ねると、その首にハート型の隷属紋の付いた“隷属輪(リング)”が巻かれた。

 “隷属輪(リング)”は“使い魔”契約が成された証。

 これで、姉ちゃんは俺の“使い魔”となり、ビランテの魔力が封じられ、姉ちゃんとしての意識を取り戻すはずだ。

 

 ビランテの魔力が抑え込まれたことで、姉ちゃんの身体からビランテの幹や花、触手が消えていき、元の人間の姉ちゃんの姿に戻った。

 生まれたままの姿の姉ちゃんを、俺は優しく抱きしめた。



「良かった…、なんとかうまく…、いった…」


「はぁ、はぁ、イッ君……」



 虚ろな目で俺を見つめる姉ちゃん。

 腰まで伸びた長い髪と、イツキ達以上に大きな胸、間違いなく俺が愛したサク姉ちゃんだ…




*


 私、サク・ローザスは大切な家族を守ろうとして、結果ビランテという魔獣に吸収され、その細胞と一体化させられてしまった。


 ビランテと一体化したことで、魔獣としての知識が私の中に入って来た。

 どうやら魔獣という生物は心臓や脳と言ったものの他に、コアというものを体内の何処かに持っているらしい。

 普通の魔獣は、心臓か脳を破壊すればそれで生命活動を停止するのだけど、一部強力な魔獣の中には、コアを破壊しない限り死なず、例え心臓や脳を破壊した所で死ぬことは無いらしい。


 このビランテという魔獣もコアを破壊しない限り永遠に再生を続ける魔獣のようで、追い詰められた時、自身のコアを種子の中に逃がして体外に排出し、何百年もかけて再生するらしい。

 そのおかげで、私は結果的に400年後の世界に再生することが出来た。


 森の奥深くで、ビランテの幹の中で眠り続けていた私を、王国騎士団のカオルが発見し、私を例の試験管の中に拘束した。

 あと少しカオルの発見が遅ければ、私はビランテとして完全に覚醒し、400年前のビランテのように町を襲い、多くの被害を出していたことだろう。

 そういう意味では、覚醒前にカオルが発見したことで、簡単に私は捕らえられ、ビランテによる被害は防げたのだが、そのせいで別の悲劇が生まれてしまった。



 魔獣の細胞を使ったキメラの作成。

 だが、魔獣の細胞は普通の生物の細胞に上手く組み込むことが出来ず、魔獣のキメラは完成しなかった。

 しかし、魔獣の細胞と、私の細胞を取り込んだビランテの細胞=キメラ細胞を同時に生物に組み込むことで、細胞が安定し、魔獣のキメラを生み出すことが可能となってしまった。


 そのせいで、転生した私の愛する弟、イッ君の妹の一人、ハルカという子が犠牲になってしまった……



 ハルカちゃんだけじゃない、今、私がこの試験管の中、魔獣の力を抑え込むというこの緑色の液体の中から解放されれば、意識はビランテに支配され、イッ君や、他の二人の妹、イツキちゃんとカズヒちゃんを傷つけてしまう、他ならぬ私の手で。

 そうなる前に、イッ君にもう一度封印されなければ…

 今度こそ、コアを逃される前に。



 試験管から緑の液体が排出され、私の意識は次第にビランテの意識で塗り替えられていく。



「ぐっ…、ア゛アアアアアアアッ…!!」



 ダメ、意識を強くもって…!

 なんとか、イッ君に封印してもらえるように…、今ここで意識をもっていかれるわけにはいかないっ!

 私は、必死にビランテに抵抗した。



 目の前で、他の試験管から解放されたキメラ達がイツキちゃんたちに襲い掛かろうとしていた。

 私は、ほとんど無意識の内に、ビランテに支配された身体を動かしていた。

 イツキちゃん達とキメラ達の間に立つと、根元から伸ばした触手でキメラ達を捕まえた。



「ふ…、二人とも…、い、今の、内に…!

 私の……、意識、が…っ、まだ、ある……内に、イッ君を起こして…、そして……、もう一度、私ごと…、ビランテを……ッ!!」


「お姉様…っ!!」


「大丈夫だよ、お姉ちゃんっ!!」


「あな…た、は……、カズヒ…ちゃん?」


「あたしたちのお兄ちゃんなら、お姉ちゃんもハルカちゃんも絶対に助けてくれるっ!!

 前世でやったことは繰り返さないっ!!

 お兄ちゃんは同じ失敗は二度は犯さないからっ!!

 だからっ!!お兄ちゃんを信じて待っててっ!!」


「…カズヒさんの言う通りですわ。

 わたくし達ではどうすればいいか分かりませんが、お兄様なら、きっと何とかしてくださいます。

 ですから、サクお姉様、もう少しだけ、そのまま耐えていてくださいますか?」


「……、分かっ、たわ……、イッ君のこと、信じる…、それに、あなたたち…、カズヒちゃんと、イツキちゃん…、新しい妹のことを……!」



 ああ、何て素敵で、優しい妹たちなんだろう…

 そう言われたら、お姉ちゃん、頑張っちゃうしかないじゃない…っ!


 私は、必死でビランテの意識に耐えながら、目の前のキメラ達を倒していく。

 触手で捕らえたキメラを溶解液で溶かしたり、触手の牙でキメラの肉をかみ砕いたりしてキメラの数を減らしていく。



「ガアア゛ガアアアアアアーーーーッ!!」



 くっ…、ダメ、だ…、もう意識が…っ!


 意識が朦朧としながら、なんとか最後のキメラを倒した時、目の前にイッ君が立っていた。



「ガ…、ア、イッ…、君……」


「姉ちゃん、記憶が…、俺のことが分かるんだね?」


「ア゛…、う、ん…、ビ、ランテに…、飲み、こま、れて……、ずっと…、意識…、だけ、は…、あった……、から……

 あの…時、ミラ、ちゃんを助、けて…、ビラン…、テに、飲み込まれて……、イッ君に、封印…、される、直前……、ビランテは、コアを、種子にして…、生き延び…、たの……

 私、は…、ビランテ、と…、一体化して、いた…から……、カオルさん…に、捕らえられて…、あの…、試験管の、中…、に、いた時、も…、外の、話、だけは…、聞こえて…、いた、から…っ、ア゛、ガ…ッ、ア゛ア゛アアアアアアアアッ!!!!」



「姉ちゃん!!」



 ぐぅ…、ダメ…だ……、

 もうすぐ、私の意識は…、完全、に…、ビランテに…、乗っ取られる……

 事実…、もう右半身の、制御が……、効かない……っ



「姉ちゃん、今すぐ助けるから!だから、あと少し耐えてくれっ!!」


「アッ…、グァガアアアアア゛ーーーーッ!!

 わ…、かっ、た…!イッ君を…、信…、じてるから…ッ!!」



 そう言う、私の意識とは裏腹に…、ビランテの意識に乗っ取られてしまった、私の右半身側の触手が…、イッ君たちに向かっていく…!

 ダメっ、やめて…っ!

 


「や…、やめてぇえええええええッ!!」


「風の精よ、集え!『ウィンディカッター』!!」



 間一髪、カズヒちゃんの放った風の刃が、私の触手を切り裂いていく…!



「サンキュー、カズヒ!!」


「行って、お兄ちゃん!!そしてお姉ちゃんを助けてあげて!!」



 その間に…、イッ君が、私の元にやって来た。



「姉ちゃんっ!!」


「ア…、グ…ッ……!!イッ、君…ッ!!」



 イッ君が、ビランテの幹から飛び出した私の上半身を、両手で抱きしめると、目を閉じた。



「うおおおおおおおおおおおおっ!!」



 すると、イッ君の頭部から二本の角が生え、全身の血管が浮き出てくると…、イッ君から、物凄い力が、溢れてきているのが、分かった…

 魔獣となった、今の私だから分かる…!

 この、溢れている力は…、魔力…!

 でも…、なんでイッ君が魔力を…!?



「イ…、イッ君……!?そ、その姿は……!?」


「姉ちゃんを、俺の“使い魔”にする…ッ!!」


「イ、イッく…ッ!?」



 私を“使い魔”にすると言った直後、イッ君が、私にキスをしてきた…!!



「ん…っ、んんっ!?」



 な…、なにこれ!?

 私の、中に、イッ君が…、イッ君の魔力が、入ってくる…! 


 き…、気持ちいい……っ!!

 だ、ダメよ、こんなの…!!

 あまりに気持ち良すぎて…、私…、何処かに飛んで行っちゃいそう…っ!!


 あまりの気持ちよさに意識が飛びかけている所へ、さらにイッ君の舌が、私の口の中に入って来た…!



「んんっ!?ん…、んんんーーーーっ!?!?」



 ああ…っ、これ、本当にダメなやつ…!!

 こんな濃厚なキス、前世でもしたことないのに…っ!!

 そして、とどめと言わんばかりにイッ君の舌が私の舌に絡んでくる…!



「ん……ッ!!んんんんんんーーーーーーッ!!!」



 同時に、イッ君の一番濃い(魔力)が、私の中に入ってくる……っ!!


 私はその気持ちよさに、身体が痙攣し、達してしまった……

 直後、私の首にチョーカーのような物が巻かれた感触があった(後で聞いたところ、このチョーカーこそ、私がイッ君の使い魔になった証しである“隷属輪(リング)”というものらしい)。

 

 すると、先ほどまであれほど私の中で暴れていたビランテの魔力が大人しくなり、私の身体が元の人間の姿に戻っていくのが分かった。

 力の入らないままの私を、優しく抱きしめてくれるイッ君。



「良かった…、なんとかうまく…、いった…」


「はぁ、はぁ、イッ君……」



 先ほど達してしまった気持ちよさと、恥ずかしさから、まともにイッ君の顔が見られない…

 ああ、この匂い、この感触、間違いなく私が愛した大切な弟、イッ君だ…


 ホッと一安心していると、突然、私を抱えていたイッ君の全身から血が盛大に噴き出した。



「ガッ…!?」


「イッ、イッ君!?」


「お、お兄ちゃんっ!?」



 我に返った私は、イッ君と体勢を入れ替え、私の膝を枕にして寝かせてあげた。



「大丈夫、イッ君!?」


「あまり…、大丈夫とは言えないかな…

 魔力を使うために、肉体が魂に引っ張られて疑似魔人化したけど、元々は人間の身体だから…、やっぱり負担が大きかったんだろうな……」



 そう、魔力を扱えるのは魔人や魔獣のみ。 

 普通の人間であるイッ君が魔力を持っていただけでも信じられないことなのに、魔術まで行使してみせるなんて…

 


「お兄ちゃん、光の精霊術だよ!!

 『ホーリーヒール』で自分の傷を癒して!!」



 そう言えば、カオルが話しているのを聞いたことがある。

 イッ君は、【建国の王子】であり【雷神】の生まれ変わりであり、同時に光と雷の精霊術を使えると。

 さらに私の弟でもあったわけだから、氷の精霊術も使えるハズ。

 ということは、イッ君が魔術を使えるのは、前世で魔人だった頃もある、ということ…?


 いや、今はそんなことはどうでもいいわね。

 まだまだやることはあるんだから。



「そうよ、イッ君!早く『ホーリーヒール』を、」


「いや~、それが…、

 疑似魔人化してると、精霊術を使えなくなるみたいで…、精霊力が集まってこないんだ…」


「な、なんですって…!?」



 それじゃイッ君の傷が治せないじゃない…!

 くっ、こんな時、私が光の精霊術を使えたら……!


 などと悔やんでいると、イッ君が起き上がろうとしてきた。



「ちょっと、イッ君、ダメよ!そんな傷で動いちゃ!」


「そうも言ってられないさ…、早く…、ハルカも助けてあげなくちゃ…!」


「そ、それは分かってるけど…!」


「ああっ、誰か光の精霊術使える人いないの!?」



 …こうなったら!

 私は、起き上がろうとするイッ君を強引に抱き寄せると、イッ君の顔を私の胸の間に挟み込んだ。



「んむっ!?」


「こ、これは伝説のぱふぱふ!?」


「イッ君、アナタが無理して倒れたら意味がないでしょ?

 だから、少しでもお姉ちゃんのおっぱい枕で休んで精をつけて、ね?」


「ふぁ…、ふぁい……」



 ふふ、やっぱり、イッ君は昔から私のおっぱい枕大好きだったもんね♪

 


「あ…、ああっ!!お兄ちゃん、羨ましいっ!!

 あたしもっ!!あたしもおっぱい枕!!お姉ちゃんにおっぱい枕して欲しい!!」


「あら、カズヒちゃんもして欲しいの?」


「はいっ!!って、あれ?あたし、そう言えばお姉ちゃんに自己紹介したっけ?」


「自己紹介はまだだけど、試験管の中にいた時に、カオルが色々と話してくれたからね。

 ま、本人は独り言のつもりだったのかもしれないけど、私にはずっと意識があったから」


「あ、そうなんだ!

 えっと、じゃあ今更かもだけど、一応自己紹介!

 あたしは現世のお兄ちゃんの妹で、藤原一陽(かずひ)って言います!

 お兄ちゃんもお姉ちゃんも妹も大好きですっ!!」


「ふふ、私はサク・ローザス、イッ君のお姉ちゃんです。

 前世、と言えるかは分からないけど、こうなる前はずっと妹も欲しいなって思ってたから、実際に妹が、しかも三人も出来て嬉しいわ♪」


「あたしもずっとお姉ちゃんが欲しかったんだ!

 しかもこんなにおっぱいの大きいお姉ちゃんなんてもう最高すぎる!」


「カズヒちゃんはストレートな子ね~

 ふふ、いいわ、この戦いが終わったら、おっぱい枕してあげる♪」


「いぃぃよっっしゃあああああああああっ!!!!」



 これまで見た誰よりも力のこもった綺麗なガッツポーズをしてみせるカズヒちゃん。

 ううん、これからは姉妹になるんだから、より親しい呼び方、カズちゃん、って呼ぼうかしら?

 本当、面白い妹ちゃんね♪


 そんな、束の間の休息。

 本当は今すぐにでも、新しくできた大切な妹、ハルカちゃんの元へ行きたい。

 イツキちゃんもハルカちゃんの暴走を抑えるために、今頑張ってくれてる。

 今すぐ、二人を助けに行きたい!


 けど、このままイッ君に無理させちゃうわけにはいかないから。

 悔しいけど、私の力じゃハルカちゃんは救えない。

 ハルカちゃんを救えるのはイッ君だけ。

 恐らく、私と同じようにハルカちゃんをイッ君の“使い魔”に出来れば、ハルカちゃんの意識を乗っ取っているギラドの意識を抑え込むことが出来るハズだから。



「…うん、ありがとう、姉ちゃん、おかげで元気100倍だよ!」



 そう言ってイッ君が私の胸から顔をあげ、元気よく立ち上がった。

 傷は癒せないけど、心や体力は癒せたみたい。



「そう、それなら良かったわ。

 それで、どうするの?ハルカちゃんは、私と違ってもう…」


「うん、だから姉ちゃんの力を貸して欲しいんだ。

 姉ちゃんはビランテとのキメラ、半分人間で半分魔獣という状態だ」


「ええ」


「そして、俺の“使い魔”となった今の姉ちゃんの状態は、魔獣でありながら魔力を抑え込まれた人間、ということになる」


「…つまり、精霊術が使える状態、ということ?」


「ああ、恐らくは」



 イッ君に言われ、私は意識を集中させてみた。

 …なるほど、確かに、私の中にはビランテの魔力と、それを抑え込んでるイッ君の魔力が存在しているが、同時に精霊力を感じることが出来る。

 それに、これは…!

 

 私は、私が感じたままに、精霊術を詠唱した。



「水の精よ、集え!『ウォーターシュート』!」



 すると、私の掌から水が生み出され、それを弾丸のようにして打ち出す術『ウォーターシュート』が発動した。



「おおっ、水の精霊術!」


「やっぱり…、って姉ちゃん、いきなり呪文詠唱が短縮出来てる!?」


「え、ええ…、なんか出来そうだって思ったら、出来てたわ」


「そっか!さっきお兄ちゃんたち、“使い魔”契約のためにキスしてたでしょ?

 それでついでにお姉ちゃんの精霊術がパワーアップしたんじゃない?」


「な、なるほど、そういうことか」


「え?パワーアップってどういうこと?」


「ああ、えっと、その辺の話は後ほど。

 今はともかくハルカたちの元に急ぎたい」


「それもそうね」


「じゃあ、カズヒは『スピリット』で“風化”して、姉ちゃんを背中から抱えて飛行しながら俺に付いてきて欲しい」


「ガッテン!」



 イッ君に言われ、カズちゃんが『スピリット』を唱えると、私の背中に回って、私を抱きかかえてくれたのだが、



「あんっ、ちょっ、カズちゃん!?

 どさくさに紛れておっぱい揉むのは…っ、んっ…!?」


「えへへ~、役得、役得~♪」



 もうっ、本当カズちゃんってば…

 でも、なんだかんだで悪い気はしない、かな…♪



「あ、でもお兄ちゃんはどうするの?

 今の疑似魔人化?してるお兄ちゃんだと、精霊術使えないんだよね?

 だったら飛べないんじゃないの?」


「ああ、俺なら問題ない」



 そう言うと、イッ君は背中から黒い一対の羽を生やしてみせた!



「は、羽が生えた!?」


「それ、魔人の羽…?」


「ああ…、ぐっ…!

 これで、俺も飛んでハルカの元へ駆けつけることが出来る…っ!」


「だ、大丈夫なの、お兄ちゃん?物凄くきつそうだけど…」


「ああ、正直この状態だと何分ももたないだろうな…

 だから、一瞬で、一発で片を付ける!」



 そこでイッ君が作戦を説明し、私たちは地下実験施設を飛び出し、ハルカちゃんとイツキちゃんが戦っている場所へと向かった。

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