エピローグ
*
目覚めると、そこは知らない天井だった。
「…ここ、は……?」
白い天井に白い壁、そして白い布団、薬品の匂いが微かにすることから、ここが病院なのだろうということは推測された。
しかし、何故俺は今病院にいるんだ?
さっきまで魔王ヤミと戦っていたハズ……
と、俺はベッドから起き上がるために、右手で身体を支えようとして、ふと違和感に気付いた。
「あれ…?な、無い…!?俺の右腕が無くなってる!?」
“ワールドフラワレス”でハルカを助けるために失った右腕だったが、その後“ワールドシルヴァネア”にて作った“バイオヴァリアブルメタル”製の義手、それが無くなっている!?
焦る俺は、とりあえず左手で身体を支えながら起き上がり、サイドテーブルに置かれていたカレンダーと時計に目を向けた。
「西暦2030年、5月28日火曜日、午前10時12分…、俺達が魔王ヤミと戦って一日経ったのか…
だけど、カレンダーの“西暦”表記からして、ここは俺達の世界、“ワールドアクア”なのか!?」
何だ!?一体何がどうなってるんだ!?
まさか、今までのことは夢だったのか…?
「ん~…、お兄ちゃん、うるさいよ…?」
と、そこで初めて隣のベッドにカズヒが寝ていることに気付いた。
「あ、か、カズヒか!?」
「ん~…、そうだけど…、って、ここ何処!?
あたし達魔王ヤミと戦ってたんじゃなかったの!?」
どうやらカズヒにも魔王ヤミと戦っていたという記憶はあるらしい。
となれば、これは…、
すると、ちょうどそのタイミングで定期検診に訪れたと思しき二人の女性の看護師さんが病室に入ってきたので、俺の思考は中断された。
「失礼しま…、あぁっ!?お二人とも目が覚めたんですか!?」
「え?あ、えっと…、」
「鈴木さん!今すぐ田中先生を呼んできて下さい!」
「は、はい、分かりました!!」
にわかに騒がしくなる病室。
「え、えっと、これは一体どういう状況なんでしょうか?」
「ああ、えっと、落ち着いて聞いて下さいね?
あなた達はバスに乗って登校中に、手向山トンネルの崩落事故に巻き込まれて、およそ二ヶ月程意識不明の重体だったのよ」
「ええっ!?」
「そ、そうだったの!?」
俺とカズヒは同時に驚きの声をあげた。
「え、えっと、じゃあ、俺の右腕は…?」
「ああ、それは…、事故に巻き込まれた際に……」
「えぇ!?いや、だってお兄ちゃんの腕は、」
「いや、カズヒ、大丈夫だよ!」
俺はカズヒが言おうとしたことを遮り、その会話を終わらせようとした。
幸い、直後に男性の医師が病室に入ってきたので、必然的に会話も終わり、その後は検査などで時間がつぶれ、気付けば昼前となっていた。
検査が終わり、再び病室のベッドで横になった俺達。
「ねぇ、お兄ちゃん…?」
「ん、なんだ、カズヒ?」
「夢、じゃないよね…?」
「どっちがだ?」
「この約二ヶ月のこと」
「夢だったら困るな…」
「だよね、お兄ちゃんにとっては、せっかく再会出来た前世の姉妹達なんだもんね」
「ああ。第一、もし夢だったとしたら、二人ともこの二ヶ月全く同じ夢を見ていたことになるし、そんなことはあり得ないだろ」
「そうだよね…
じゃあ、今のこの状況はどういうことなんだろう?
あたし達、イツキちゃんに会ったあの日から、ずっとこの病院に入院してたことになってるんだよ?」
「それは、魔王ヤミ、いや、ヨミちゃんの魔術『認識改編』とかで、そういうことになっていた、と周りの人達が思わされてる可能性が高いな。
少なくとも、手向山トンネルの崩落事故は間違いなく起きてるし、この病院には他にも俺達のように事故に巻き込まれた人達が入院してるみたいだし」
ちなみに、このトンネル崩落事故そのものはヨミちゃんの仕業とかではなく、手向山に埋まっていた不発弾が何らかの要因で起爆してしまったことが原因らしい。
ヨミちゃんは、たまたま起きたその事故を利用して俺達を“ワールドフラワレス”に転移させ、一連の計画を実行したのだろう。
「う~ん…、でもなんだかモヤモヤするな~…
それならそれで、じゃあ、何であたしらは入院してるわけ?
普通にヨミちゃん解放して、皆で屋敷に帰ってめでたしめでたしじゃダメだったのかな?」
「それは、俺達が二ヶ月もこの世界からいなくなっていた事実を誤魔化すのに、事故に巻き込まれて入院していたから、とした方が認識させやすかったから?
事故に巻き込まれたのに、俺達二人だけぴんぴんしていて、普通に日常送ってました、と認識改編するよりは無理がないだろ?」
「あー、それはそっか…」
それからしばらく二人とも無言の状態が続いた。
「…また、皆に会えるよね?」
「そりゃ勿論、」
コンコン!
「会えるに決まってる」と続けようとしたところで、病室の扉がノックされた。
そして、俺が返事をするより早く扉が開き、病室へ二人の男女が入って来た。
「よぉ、お帰り!陽一に一陽!」
「二人なら大丈夫だと信じてたけど、無事に戻って来られて本当に良かったわ」
「あ~…、うん、やっぱりこれまでのことは夢であって欲しかったかも……」
カズヒが残念なものを見るような目でその二人を見る。
それもそのハズで、入ってきた二人は、今は普通の人間の姿をしているが、その正体は魔人、それも六魔皇が一人(二人で一人という扱い)、【奴隷使い】アポロニアと【奴隷魔人】アルテスであり、そして、
「…一応はただいま、でいいのかな、父さん、母さん」
そう、二人は正真正銘、現世における俺と一陽の両親なのだった。
*
「母さん!一陽が俺に冷たいんだが!?」
「そりゃそうでしょ!?
モニター越しではあれ、実の父親が若い女子のおっぱい揉んだ挙げ句、素っ裸まで見せられたんよ!?」
「そんなん言われても、まさかダイダロさんの所で実の娘にモニターされとるとは思わんやん?
それに、あれはリンちゃんに本気の力を出させるために必要な行為やっただけで、何も好きでカナンちゃんの胸を触ったわけやないけんね?
第一、カナンちゃんもリンちゃんも、今や俺達の娘同然なわけやし」
何やらカズヒと父さんが揉めているが、しかし、ヨミちゃんの『認識改変』や『記憶改変』もしくは『記憶封じ』などの魔術の効果が切れ、全ての前世の記憶を取り戻した俺だが、両親の正体がかつての敵であった六魔皇だったなんて、未だに信じられん…
まぁ、それで言うならカナン姉ちゃんやキョウカを助けたり育ててくれていたのがダイダロさんというのも驚きだが。
「というか、今更やけどなんで二人があたしらの両親なん!?
二人は魔人なんやないの?あたしは普通の人間よね?」
「あぁ、まぁ、その辺の説明はおいおいしていくから」
「おいおいって、」
「とりあえず落ち着いて、一陽ちゃん、今はその辺りの説明をしている時間も惜しいのよ」
「時間が惜しいって、母さん、何かあったの?」
真剣な表情を見せる母さんに俺が質問をすると、予想外の答えが返ってきた。
「あなた達の姉妹がピンチらしいのよ。
だから、今すぐ“ワールドシルヴァネア”へ行って、姉妹達を助けに行ってあげて」
「「ええっ!?」」
こうして、一つの事件は終わり、また新たな事件へと俺たちは巻き込まれていくのだった………
『シスターズアルカディア』第1部、完




