第8話「魔王ヤミ」
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俺とツキヒ姉ちゃんが扉を開けて魔王ヤミの待つ間へと進んだタイミングで、ちょうど隣の扉も同じように開き、そこからカズヒとイツキが現れた。
「お、二人と同じタイミングだったか!」
「よぉ!カズヒもイツキも無事やったんやな!
まぁ、二人ともウチらの中でも最強クラスの力持っとるし、そこまで心配はしちょらんかったけどな!」
「あれ、お兄ちゃん達!?え、二人ともあたしらより先にヘラーナさんに勝ってなかったっけ?」
「カズヒさん、忘れましたか?
わたくし達が先程までダイダロさんから話を聞いていたのは、」
「あ、そっか!時間の進みが現実とは違う空間だったから!」
「その様子だと二人の相手はダイダロだったみたいだが…、それより何故俺達がヘラーナと戦っていたって知ってるんだ?」
「あ、えっと、それは、」
『ようやく辿り着いたか、ヨウイチにイツキ、そしてカズヒとツキヒよ!』
カズヒが俺の疑問に答えるよりも前に、俺達の正面、玉座の方から少女の声が聞こえてきた。
黒いマントを背中に羽織った、布地の少ない黒いビキニアーマー姿の魔人の少女、魔王ヤミが足を組んだ状態で玉座に堂々と腰掛けていた。
「魔王ヤミ…!」
「…ここにはわたくし達しかいないようですが、他の姉妹の皆さんは何処ですの?
彼女達はわたくし達よりも前に六魔皇の皆さんに勝利して、この部屋へとやって来ているハズですが?」
『そうか、イツキ達はダイダロの試練を受けていたな。
大方、部屋のモニターで姉妹達の戦いを観戦しながら、どちらが勝つか予想する、といったような勝負内容だったのだろう?
ま、勝負内容は全て彼らに任せておったから文句は無いがな。
むしろクレヘラスのように魔力を暴走させて、あのような失態を犯さなかっただけ幾分もマシというもの。
…おっと、他の姉妹達はどうした、という話じゃったな。
心配せずとも、残りの姉妹達はここにおるよ』
イツキの問いに答えながら、魔王ヤミは指をパチンと鳴らした。
すると、玉座の後ろから八本の巨大な触手の塔が現れた。
その触手の塔には、裸にされた姉妹達が両手と両足を真っ直ぐ縦に伸ばされた状態で捕まっていた。
「マコト!モトカ!」
「カナンお姉様にリンさん!!」
「サクヤお姉ちゃん!セイラちゃん!」
「ハルカにキョウカ!!」
『ふふふ、安心するがいい、彼女達はただ眠っているだけだ。
そして、』
再び魔王ヤミがパチンと指を鳴らすと、今度はイツキとカズヒとツキヒ姉ちゃんの足下から触手が現れ、たちまち三人を他の姉妹達と同じように捕らえてしまった。
「きゃあっ!?」
「あっ、ちょっ!?」
「ひゃん!?なっ、なんすると!?」
「イツキ!カズヒ!ツキヒ姉ちゃん!」
『ふふふ、それだけではないぞ、当然、』
もう一度魔王ヤミがパチンと指を鳴らすと、今度は触手の中からゼリー状の青く透明なスライムが現れ、三人の全身にまとわり付いていき、三人の戦闘スーツを溶かし始めた。
「こ、このっ、やめなさいっ!!」
「た、確かに、触手プレイも服を溶かすスライムもファンタジーの定番化だけど!!」
「あっ、う、嘘!?ウチの“戦装束”まで溶かされとる!?」
そして、裸にさせられた三人を捕らえた触手は床を移動して玉座の後ろへと行き、他の姉妹達と並べられる形で整列した。
俺の目の前に、左からイツキ、セイラ、カナン姉ちゃん、ハルカ、ツキヒ姉ちゃん、キョウカ、サクヤ姉ちゃん、マコト、モトカ、リン、カズヒが、触手に捕らわれて磔にされてしまった。
「くぅ…、お、お兄様…!」
「魔王ヤミ!!キサマ何のつもりだ!?」
俺は『縮地』を使い、玉座にいる魔王ヤミへ飛びかかろうとしたが、玉座の前に透明な壁のようなものがあり、魔王ヤミの元へ辿り着けなかった。
『まぁまぁ、慌てるでない。
まずは皆を起こさなければな』
魔王ヤミがそう言うと、全ての触手に電流が流れた。
「「「「「きゃああああああああああっ!?!?!?」」」」」
「み、皆っ!?」
『少々乱暴な起こし方だったかな?
だが、彼女らの美しい身体に傷を付けるのは我とて不本意なのでな、このやり方が一番スマートだろうと』
「…許さねぇ……」
『ふふふ、そうだ、本気になるがいい、ヨウイチ!
姉妹達を目の前でこれ以上傷付けられたくなければ、本気になるのだ!!』
「てめぇだけは絶対に許さねぇっ!!」
その瞬間、俺の理性は吹き飛び、ただ本能のままに、怒りに任せるままに、俺は魔王ヤミに襲いかかっていた。
*
「てめぇだけは絶対に許さねぇっ!!」
お兄ちゃんがそう叫んだ瞬間、お兄ちゃんの姿が変化した。
金色のオーラが全身から立ち上ぼり、髪は銀色に、そして頭からは銀色の狐耳、口には吸血鬼を思わせる鋭い犬歯、背中からは氷の翼、お尻には魔人の尻尾、両足には雷を纏わせた、てんこ盛りフォーム。
「あれが…、お兄ちゃんの究極フォーム、“スーパーシスコンフォーム”…」
「カズヒさん…、その名称はどうなんですの…?」
「いくら…、頭が痺れて、思考がマヒしとるからって…、あまりにも酷いっちゃん…」
イツキちゃんとツキヒちゃんからツッコまれた。
裸にされて触手に拘束された状態で電流まで浴びせられたあたし達だったけど、うん、なんとか無事みたい。
他の眠らされていた姉妹達も、先程の電流で目が覚めたようだ。
「う~ん…、ここ、は…?」
「ボク達~…、魔王ヤミの間にやって来て~…、」
「触手に捕まって…、裸にされて…、」
「うにゃ~…、なんだか全身がびりびりするにゃ…」
「うぅ…、妾としたことが…、不覚だったのじゃ…」
「扉入っていきなり触手だったもの…、仕方ないわ…」
「っていうか…、アタシはジラス倒してからの記憶が無いんだけど…」
「いつの間にか捕まってたぞ…」
どうやら皆無事のようだ(この状況で無事といえるかは別として)。
「良かった、皆さんご無事のようですわね」
「あ、イツキ!それに他の皆も!」
「どうやら~、皆も無事に六魔皇に~、勝ったんだね~」
「まぁ、勝ったというか、わたし達の場合は勝たしてもらったというか…」
「そ、それよりも!この状況どうなってるの!?
なんか知らない間に触手に捕まってるし、おまけに裸だし!!」
「ハルカねーね達はどうして捕まったか覚えてないのにゃ?」
「自分達、ジラスを倒した後で力尽きて気絶してたから…」
「ジラスって、まさかあのジラス!?二人はあの最凶魔獣ジラスを倒したって言うの!?」
「なんじゃ、サクヤお姉ちゃま、ジラスとかいう魔獣のこと知っておるのか?そんなにヤバい奴なのか?」
「ヤバいなんてもんじゃないわ!!
とはいえ、私も噂でしか聞いたことないんだけど、とにかくとんでもない化物で、倒すのはほぼ不可能だって…」
「にゃー!スゴいにゃ!!そんな化物にハルカねーねとキョウカねーねは勝ったのにゃ!?」
「えっへん!だぞ♪」
「いやいや、今はそんな話いいから!
今の状況教えて!よく見たらアニぃもなんか変な感じになってるし!!」
「ハルカさん、とりあえず落ち着いて下さい。
状況は見ての通り、お兄様と魔王ヤミの最終決戦が始まったところです」
「最終決戦が…!
じゃ、じゃあ、アタシ達も早く助けに行かないと!」
「だから落ち着いて下さいと言っています」
「落ち着けって言われたって、」
「皆さんに話したいことがあるんです。
わたくしとカズヒさんが、六魔皇のダイダロさんから聞いた魔王ヤミの真実について」
「魔王ヤミの、真実…?」
イツキちゃんの言葉に、触手から脱出しようともがいていた皆が注目する。
「いいですか、魔王ヤミは、」
「お兄様にとっての、一番最初のお姉様であり、
お兄様の、初恋の女性だった、そうです」
*
「『サンダーアロー』!『獄炎刃』!『フレイムバースト』!」
真の力を発揮したヨウイチが、精霊術と妖術と呪術を同時に放つ。
しかも、本来詠唱が必要なハズの精霊術や呪術を無詠唱で放ってきた。
『はははっ!!やるなヨウイチ!!さすがは世界最強の姉妹好きだ!!』
我、魔王ヤミは無限に近い魔力でもって『シャドゥシールド』を張るが、まるで薄っぺらいガラスであるかのように、あっさりとシールドを破り、全ての術が我に直撃する。
今の三位一体の一撃で、我の魂がまた一つ削られた。
すでに、我は奴の『サンダーアロー』や『獄炎刃』、『フレイムバースト』の一撃によって、それぞれ魂を削られており、それらの術に対しては耐性が出来ておったが、それらが合わさった術による攻撃はまた別カウントとなり、しっかりと一つ魂を削られた。
そう、今のヨウイチは、精霊術、サイボーグ能力、魔術、霊能力、妖術、呪術が使えるだけでなく、それらを組み合わせた合成術が使える状態だ。
つまり、組み合わせ次第で無限の合成術が作られるということ。
『ふふふ、我の計算通りじゃ…!』
かつて、ヨウイチがヨウ王子だった頃、攻撃手段が自身の光の精霊術と、妹の炎の精霊術しかなかったため、我を殺しきれずに封印することが出来なかった。
だが、2000年もの間、様々な世界、様々な人種に転生したヨウイチの魂は、様々な力が使えるようになった。
さらに、11人にまで増えたヨウイチの愛する姉妹達。
彼女らの力も合わせれば、いかに無限に近い魂を持つ我とは言え、確実に最後の一つまで殺し尽くすことが出来るだろう。
「『ホーリーランス』!『アイスエッジ』!『シャドゥボゥル』!」
『ぐぁあああああああああっ!?』
また一つ、我の魂が削られていく。
この戦いが終わって、すでに我の魂は100以上も削られていた。
最初、ヨウイチは姉妹達を捕らえている触手を切ろうとしていたが、あの触手は我の魔力によって特別に強化されているため、どれだけ切断しようとも即再生されるようになっている。
だが、これ以上我の魂が削られれば、魔力の上限が減っていき(我の魔力は魂の数だけ存在している)、触手へ送るだけの魔力が無くなり、やがて姉妹達が解放されるだろう。
そうなれば、我の敗北、即ち死が確定する。
「『雷撃爪』!『アームソード』!」
『ぐぎゃぁあああああああっ!?』
ああ…、もうすぐだ…
もうすぐ、我は……
『なかなかやるのぅ!
じゃが、その程度では、まだまだお主の大事な姉妹達は助けられんぞ!?』
だめ押しとばかりに、我は再び触手に電流を流し、姉妹達を傷付ける。
「「「「「きゃああああああああああっ!?!?!?」」」」」
「きっさまぁあああああああっ!!!!」
再び激怒したヨウイチは、さらなる攻撃を加えてくる。
「『サウザンドサンダー』!『ダークネスエンド』!『フレイムエンドバースト』!!」
雷の精霊術、闇の魔術、炎の呪術、それぞれの最強術がノータイムで放たれ、我に襲いかかる。
『『ファイナルシャドゥバースト』ッ!!』
我もまた最上級魔術で迎え撃つも、我の術はあっさりと打ち消され、ヨウイチの放った術が我を飲み込む。
『ぐぁあああああああああっ!?』
今ので、我の魂は一気に2、300は削られただろう。
文字通り桁違いのダメージを受けた。
同時に、触手を維持するだけの魔力が尽き、姉妹達が解放された。
「お兄様っ!」
「お兄ちゃま!」
「ヨウちゃん!」
「アニぃ!」
「ヨウ君!」
「あに様!」
「イッ君!」
「兄さん!」
「兄ちゃん!」
「にーにー!」
「お兄ちゃんっ!」
「皆っ!!」
姉妹達がヨウイチの元に集まり、皆で抱き付いているのを横目に見ながら、我はゆっくりと眼を閉じ、笑みを浮かべた。
『ようやくじゃな…、ようやく…、』
『これで、全てが終わる…!』




