第6話「ヨウイチ&ツキヒVSヘラーナ」
*
“戦乙女”に変身したツキヒ姉ちゃんと俺がヘラーナ、というより彼女の召喚した死霊達と戦い始めてどのくらい経っただろうか…
「だぁあああああっ!!全ッ然減らんやんッ!!
倒しても倒しても敵減らんやん!!どーなっとーと!?」
すでに“武具化”を解除して、単独で戦っていたツキヒ姉ちゃんが愚痴をこぼした。
「まぁ、ゾンビは肉体を滅ぼしたら、今度はスケルトンになって復活するし、
そのスケルトンは壊してもすぐ他の骨と結合して復活するし、
肉体の無いゴーストはそもそももう死んでるからこれ以上殺しようがないし…
完全に詰んでるよな~」
「なんっそれっ!?どうしようもないっちゃん、そんなん!
ある意味コイツが一番のチート野郎やんっ!!」
『失礼ね、野郎ではなく、私はれっきとした淑女よ?
魔王ヤミ様と同じく、永遠の17歳よ?』
「え!?あんたも魔王ヤミも17歳なん!?めっちゃ若いやん!」
「いや、ツキヒ姉ちゃん“永遠の”ってついてるから、実際は、」
『あら、ヨウイチ、何か言いたそうね?』
「いえ、別に、何も…」
ヘラーナの顔を隠したフードの下から、般若の形相が見えた気がしたが気のせいだろう、うん。
そんなことより、今はヘラーナの操る死霊達の対応を考えなければ。
【死霊使い】ヘラーナ、彼女の扱う魔術は実にシンプルだ。
『死霊召喚』、死んだ人間や獣の肉体“ゾンビ”や、それらの骨“スケルトン”、そしてその肉体に宿っていた魂“ゴースト”を意のままに操作する術だ。
死霊一体一体の強さそのものは大したことはない。
問題なのは、その数と、奴らは死なない、というかすでに死んでいるという点だ。
ゾンビの肉体は脆いので、すぐに倒せるが、スケルトンとして復活する。
スケルトンは壊しても、他の骨と結合して復活する。
骨そのものに何かしらの強化措置がされているのか、完全に消滅させることが出来なくなっている(とはいえ、イツキやセイラ、キョウカ程の火力があれば分からないが)。
ゴーストはそもそも実体がないから普通の攻撃じゃ倒しようがない(光の精霊術が有効なのだが、とっくに光の精霊力は尽きてしまっている)。
一応、ここまでの戦闘で死霊達は当初いた半数程度にまでは減らしている。
半数減らしたところで、残りはまだ500体近くいるのだが。
「地道に骨を砕いていけば、スケルトンはいずれ滅びるっちゃろうけど、
それやと時間かかり過ぎやし、そもそもゴーストはどうしようもないっちゃんな…
ヨウイチ、なんかいい方法ないと?」
「ヘラーナ本人を直接倒す、のが現実的かな?」
「…やっぱそれしかないか。
でも、あいつの周りには常にスケルトンやゴーストがおるし、
あいつ本人もかなり強いぜ?」
そう、ヘラーナ本人も決して弱くない。
“闇の魔術師”であるヘラーナは、術の速度と威力が並の魔人レベルではない。
「だけど、俺と姉ちゃんなら、やってやれなくはない」
「…やれやれ、そんなん言われたら、惚れ直しちまうだろ?」
「姉ちゃん、ちょっと待って!キスは今はいいから!これが終わってからにして!!」
『ふふふ、美しき姉妹愛、素晴らしいですね、今度のコミケネタに…、いえ、何でもありません。
さぁ、二人とも作戦会議は終わりましたか?
諦めて尻尾を巻いて帰るか、それとも、』
「んなわきゃねーだろ!」
「ああ、俺達はここでお前を倒して、先へ進む!」
『そうですか。
ふふ、久し振りによいモノを見させてもらいましたので、そのお礼も兼ねて、
この2000年で新たに取得した新魔術をお披露目しましょう!』
「あれ?さっき17歳って言っとらんかった?
2000年生きとーなら、」
『な に か 文 句 で も?』
「いえ、別に、何も…」
『コホン…、では、改めて、『死霊合体』ッ!!』
ヘラーナが巨大な魔方陣を三つ描くと、それぞれにスケルトン達、ゾンビ達、ゴースト達が集まっていく。
そして、それらが合わさり、三体の巨大な死霊へと姿を変えていった。
完成した三体の死霊達、巨大な人型のスケルトンと、魔獣“ガイガーン”のような見た目のゾンビ、そしてヘラーナ自身を巨大化させたような頭からフードを被った人型のゴースト、それらが俺達を見下ろす。
『さぁ、我が愛しの“スケルトンキング”!“カイザーゾンビ”!そして“ゴーストエンペラー”!
二人を誠心誠意もてなして差し上げなさい!!』
「へっ、数が減った上に的がでかくなったのなら、こちらとしても好都合だ!」
「それでも厄介なことには変わりないけどね!
姉ちゃん、俺がゴーストエンペラーの相手をするから、残りの二体、お願い出来る?」
「あぁ、任せな!
っても、光の精霊力は尽きとっちゃろ?どうする気なん?」
「ちょっと考えてたことがあってね、それを試してみようかと」
「そうなん?なら任せた!」
「了解!」
というわけで、俺達とヘラーナとの最終決戦が始まった。
*
さて、ヨウイチには任せなと言ったものの、こんなデカ物二体を相手にどう戦うかね。
『カタカタカタカタカタカタ』
『ギシャアアアアアアアッ!!』
巨大な人型のスケルトンキングと妖怪“鎌鼬”を機械化して(どうやら魔獣ガイガーンというらしい)、さらにそれをゾンビ化させたようなカイザーゾンビ。
ゴーストと違ってこいつらは物理技が効くから、物理的に再生出来ない程に粉々にしてしまえば倒せる。
スケルトンの時は普通に殴るだけでも壊れていたが、巨体となった今はどんなものか?
「とりあえず一発かましとこう!
出でよ、“蒼玉の始原剣”っ!!」
“蒼玉の原始剣”は、【水皇石の戦乙女】であるウチ専用の武器で、両手剣としても、二つに分けて二刀流としても使える剣だ。
水の属性を持っており、時に鋭く、時に柔軟に、変幻自在に姿を返る刃が特徴的だ。
とりあえずウチは、刃渡り2メートル程の両手剣として“蒼玉の原始剣”を召喚し、背中の羽でスケルトンキングの真上まで飛び上がり、その頭蓋骨に思いっきり“蒼玉の原始剣”を振り下ろした。
「そぉおおおおりゃああああああああっ!!」
ガチンッ!!
「痛ったぁあっ!?かっ、硬っ!?」
しかし、頭蓋骨にヒビを入れることすら出来なかった。
さて、どうするかと悩む間もなく、背後にいたカイザーゾンビのバイザー型の目からどす黒いレーザー光線がウチ目掛けて発射されたので、ウチはさらに上へと飛び上がりレーザー光線を避けた。
だが、避けた所へ今度はスケルトンキングが自らの肋骨をニ本折り、両手で交互にブーメランのごとく投擲してきた。
「んにゃろっ!!」
それらをウチは空中できりもみしながら華麗に避けていく。
だが、骨を避けたかと思えば再びカイザーゾンビのレーザー光線が飛んでくるという絶妙なコンビネーション攻撃をしてくる二匹。
「ちっくしょう…!ただのゾンビやスケルトンやった時は闇雲に向かってきちょっただけやったとに、でかくなった途端連携プレイかましてくるとか…!」
数が減った上に的がでかくなって好都合とか言っとった数分前の自分を殴りたい!
とはいえ、このまま逃げ続けていても仕方ない。
「切札の一つ、切らせてもらうかね…!
『クロックアクセル』ッ!!」
『クロックアクセル』、簡単に言えばマコトやモトカの“加速装置”のことだ。
これは【次元航行者】となったからこそ分かったことだが、“乙女石”には宇宙由来の微粒子である“タキオン粒子”が含まれている。
この“タキオン粒子”を血液中に取り込み、活性化させることで常人には知覚出来ない程の速度で活動することが可能となる。
しかし、生身の体で“タキオン粒子”を活性化させれば、血液が沸騰し、破裂してしまう上に、加速時の空気摩擦によって皮膚が焼けてしまう。
そのため、人工血管と人工皮膚を持つサイボーグや、精霊化出来る精霊術師、そして、ウチら“戦乙女”でないと、まともに扱うことは出来ない。
長ったらしく説明してしまったが、『クロックアクセル』も“加速装置”も原理は同じで、違いと言えば、『クロックアクセル』は“加速装置”のような起動スイッチを必要とせず、自らの意思で発動できる、という点くらいだ。
閑話休題。
『クロックアクセル』を使用することのメリットは、ただ速く動けるというだけでなく、通常の速さで動いている物体に対して与えるダメージもでかくなるという点だ。
力は速さに比例する。
だから、先程は傷付けられなかったスケルトンキングに対しても、加速中の攻撃ならダメージを与えられるのではないか、と考えたわけだが、
『カタカタカタカタカタカタ!!』
ウチが両手で振り下ろした“蒼玉の原始剣”を、あろうことか両手に持った骨をクロスさせて受け止めるスケルトンキング。
さらに、そこへカイザーゾンビが右手の鎌を振り下ろしてウチを切り裂こうとしてくる!
「何なん!?」
ウチは咄嗟に“蒼玉の原始剣”を二つに分解して、左手に持ち代えた一本でカイザーゾンビの鎌を受け止めた。
そして両足でスケルトンキングが持っている骨を蹴って、後ろへ勢いよく飛び、二匹から距離を取った。
「まさか、コイツらも加速出来ると!?そんなん反則やろ!?」
自分もその反則クラスの能力を使っていることは棚にあげておく。
しかし、敵も加速出来るとなると本当に打つ手が無くなる…
ちなみに、自由落下中では加速していても通常の速度になるが、先程の攻撃では速度を付けて落下しながら攻撃したため、間違いなく加速状態だった。
加速状態のウチの攻撃を受け止め、反撃してきたことは間違いない。
さて、どうするか、としばらくその場に止まって考えていたが、ふとあることに気付いた。
「ん?アイツら、さっきから全く動いてなくない?」
スケルトンキングは骨をクロスさせた体勢で、カイザーゾンビは鎌を振り下ろした体勢で止まっているのだ。
いや、厳密にはわずかずつ動いているのだが、その速さは常人のそれだった。
「どういうことなん?なんでウチが攻撃した時は加速しとったのに、今は普通の速さなん…?」
試しにゆっくりと二体に近付いてみると、ウチの攻撃射程範囲に入った辺りで、再び二体の動きが速くなり、骨と鎌で攻撃してきた。
「おっと!?」
そしてウチが再び離れると、またも速度が通常に戻っていた。
「どういう理屈かは分からんっちゃけど、ウチが近付けばアイツらも加速状態になる、ってこと…?」
そもそも、スケルトンやゾンビに知能は無いハズ(まぁ、その辺は世界観によっても変わってくるかもだけど、少なくとも今ウチらが相手してるスケルトンとゾンビには知能があるようには思えない)。
なのに、ウチの動きについてきてあまつさえ、連携攻撃までしてきた。
となると、コイツらにはセンサーのような機能が付いていて、ウチが近付くと、オートで反応して迎撃してくる、ということなのか?
「それにしたっちゃ、一時的に加速までしてくるなんち、チートやろうもん…
まぁ、理屈や原理はどうあれ、そういうもんち割り切るしかないか…」
さて、それでどうするか…
近付いてダメなら遠距離から、ってのがセオリーだろうが、ウチの場合、遠距離攻撃は苦手なんよね~…
「ま、苦手なだけで全く出来んわけやないっちゃけどね!」
ウチは二体からさらに離れると、助走をつけながら両手に持った“蒼玉の原始剣”を、カイザーゾンビとスケルトンキング目掛けて全力で投げた。
加速状態からの全力投擲された二刀は軽く音速を超え、光速に近い速度が出ている。
これを避ける、ないし受けられたら打つ手はない、と思っていたが、二体は避けることなく、“蒼玉の原始剣”はウチの狙い通りそれぞれの眉間に突き刺さった。
だが、それでも加速することなく、通常通りの動きのままだった。
「ふーん、武器による遠距離攻撃には無反応、あるいは速すぎて反応出来なかった?」
どちらにせよ、勝機は見えた。
「なら、卑怯かもしれんけど、悪く思わんとよ?」
ウチは先程よりもさらに二体から離れた場所に移動すると、助走しながら、両手に“蒼玉の原始剣”を出現させて全力で投げては再び両手に“蒼玉の原始剣”を出現させては投げ、をひたすら繰り返す。
さらに、おまけとばかりに周囲に10体の鳥形のドローン型兵器“蒼玉の鳥銃機”を出現させ、そこから小型のスピアを発射しまくった。
「そぉおおおおりゃああああああああっ!!」
光速で飛ぶ“蒼玉の原始剣”と、“蒼玉の鳥銃機”から放たれるスピアが次々と二体の全身に刺さっていく。
そして、二体がウチに反応するギリギリの距離まで近付いた頃には、二体は大小無数のトゲが刺さった剣山のようになっていた。
「さすがにこんだけ串刺しにされたらまともに動くことすら出来んっちゃろ?
ちゅーわけで、これでトドメ!」
ウチは両手剣状にした“蒼玉の原始剣”を出現させた。
だが、今度の大きさは最初に出現させたものよりさらに大きく、5メートル程の刃渡りになる。
それを両手に持ち、構えた。
「行くぜぇっ!!『初原の一太刀』ッ!!」
“蒼玉の原始剣”に大海のごとく満ち溢れる水、その水の勢いでもって、ありとあらゆる物質を圧殺し、粉砕し、粉々にするウチの究極の必殺技『初原の一太刀』。
まさに一撃必殺に相応しいその技が剣山となったスケルトンキングを再生出来ない程に粉微塵に砕く。
「そら、もう一丁っ!!」
返す刀で次は、剣山となったカイザーゾンビをその骨ごと粉々に粉砕した。
「ほい、一丁上がり、っと!」
多少強引ではあったけど、死霊退治完了っと。
残るはゴーストエンペラーとヘラーナ本人だけど、光の精霊術以外では消滅させられなかったゴースト相手に、光の精霊力が切れた今、ヨウイチはどう対処するのだろうか?
*
『ヒョロロロロロロロロッ!!』
不気味な声をあげるゴーストエンペラーを見上げる俺。
魂だけの存在であるゴーストに対して、物理攻撃は全く効果がないが、通常の精霊術、魔術、妖術などなどの攻撃もほとんど効果がない(時間をかけて何度も何度も術を打ち込めば、ゴーストをこの世へ縛り付ける力、未練のようなものが削られていき、やがては消滅するが、さすがに時間がかかりすぎる)。
唯一まともにダメージを与え、ゴーストを消滅させられる術は光の精霊術のみだ。
ちなみに、光の精霊術はゾンビやスケルトンにも有効だ。
実際、この戦いが始まった当初は光の精霊術で数百体のゴーストやスケルトン、ゾンビ達を屠ったが、さすがにそれだけ術を使えば、光の精霊力は尽きる。
『ふふ、思い出すわね…
かつて“ワールドフラワレス”であなたと戦った時は、無限の精霊力のせいで、私の死霊達は全く歯が立たず、
おかげで私は、魔王軍連中からは無能扱いされ、2000年もの間引きこもる羽目になってしまった』
「え、そうだったのか?」
『そうよ!
…まぁ、厳密にはここ数百年はオタ活で色々な世界を渡り歩いたりしていたから、完全に引きこもっていたわけではないけれども』
「え?」
『コホン…、なんでもないわ。
それはともかく、今のこの状況、まさに2000年前の逆パターンと言ったところかしら?』
「確かに、ここ“ワールドダークネス”の“魔王城”じゃ、精霊力に限りがあり、魔力、マナが無限に存在している」
『そういうこと。
条件的にフェアではないと思うけれど、こればかりは恨まないで頂戴ね?』
「別に恨みはしないさ、与えられた条件で出来ることをするだけだ」
『ふふ、いいわね、その諦めない瞳…、その瞳に私は…
いえ、今はそんなことどうでもいいわ。
さぁ、ヨウイチ、この状況でどう私に勝つつもりかしら?
その実力を私に示して頂戴!!』
『ヒョロロロロロロロロッ!!』
再び不気味な声をあげたゴーストエンペラーは、自身の周囲に青白い炎『鬼火』を無数に出現させると、それを俺に向けて放ってきた。
俺はそれらを避けながら、雷の精霊術の詠唱を始めた。
「雷の精よ、集え!『サンダーアロー』!」
右掌から雷の矢を同時に10本出現させ、それを避けきれなかったゴーストエンペラーの『鬼火』にぶつけて相殺した。
すると、ゴーストエンペラーは死神が持つような鎌を出現させて、それを両手で持つと、俺目掛けて振り下ろしてきた。
すかさず俺は氷の精霊術の詠唱を始めた。
「氷の精よ、集え!『アイスソード』!」
俺は右手に氷の剣を出現させて持つと、それでゴーストエンペラーの鎌を受け止めた。
鎌を右手で受け止めつつ、左手をゴーストエンペラーに向けて術を放つ。
「雷の精よ、集え!『サンダーアロー』!」
左掌から飛び出した10本の雷の矢がゴーストエンペラーに直撃する。
『ヒョロロロロロッ!?』
やはり大したダメージは与えられないが、それでも相手の体勢を崩すことには成功した。
ゴーストエンペラーは鎌を仰け反らせながら後退した。
そこへ俺はゴーストエンペラーに近付こうと前進したが、ゴーストエンペラーは体勢を崩しながらも、鎌を強引に振り下ろしてきた。
「ちぃっ!?」
俺はその鎌を避けるために、再び後退する。
そこへ、再びゴーストエンペラーの『鬼火』が飛んできたので、今度は魔術で対抗する。
「『シャドゥアロー』!『シャドゥアロー』!『シャドゥアロー』!!」
一回の詠唱で五本まで出せる漆黒の矢を、同時に15本展開し、その内10本で『鬼火』と相殺させ、残りの五本でゴーストエンペラー本体を狙う。
『ヒョロロロロロ!!』
しかしゴーストエンペラーが構えた鎌の一振りによって漆黒の矢は全て切り裂かれてしまった。
「マジかよ、その鎌!?」
まさか術が切られるとは思ってなかった。
しかも、たったの一振りで五本の矢を同時に切り裂くなんて…
『ふふふ、どうかしら?
私のゴーストエンペラーの力は?
あなたも、色んな術が使えるみたいだけど、そのどれも私のゴーストエンペラーには効果ないみたいよ?』
「そんなのは分かってたさ」
『その眼…、まだ諦めていないのね?』
「ああ、俺にはまだ秘策があるからな」
『秘策…、どんな秘策があるのか分からないけれど…、私のゴーストエンペラーはそう簡単にはやられないわよ?』
『ヒョロロロロロッ!!』
「なんだか勝ち誇ったかのようなその叫び声がムカつくな…
なら、まずはその鎌をぶっ壊す!」
俺の秘策を試すには、まずゴーストエンペラーに近付かなければならない。
『スピリット』で“雷化”出来れば一瞬で近付けるだろうが、残念ながら『スピリット』を使える程の雷の精霊力は残っていない。
そのために、邪魔なあの鎌を先に壊すことにした。
俺はサイボーグ化した右腕に仕込まれたスイッチを押し、右腕そのものを変形させて鋭い剣に変えた。
「ゴーストエンペラー本体は霊体だろうが、その鎌はどうかな?」
先程『アイスソード』で物理的に鎌を受け止められたことから、鎌そのものには実体があると判断した俺は、霊力を足に集中させて瞬間的な加速力を得る『縮地』を使って地面を思いっきり蹴って、ゴーストエンペラーの頭上へと飛び上がり、右手の剣“アームソード”をゴーストエンペラーの持つ鎌目掛けて振り下ろした。
「そぉおおおりゃああああっ!!」
『ヒョロロロロッ!!』
ガキィンッ!!と火花が飛び散り、ゴーストエンペラーの鎌と俺の“アームソード”が拮抗する。
やはりゴーストエンペラーの鎌自体には実体がある。
ならば物理的に折ることは可能なハズだが、なかなかに硬い!
しばらく拮抗していた両者だったが、先にヒビが入ったのは俺の“アームソード”の方だった。
「くっ…!?」
俺はそれ以上の勝負を避け、剣を引いて後方へと下がった。
ヒビの入った右腕が痛むが、この程度のヒビなら自己修復機能ですぐに直るだろう。
とりあえず俺は再び右腕のスイッチを押して、腕を元に戻した。
「さて、それならば…!」
俺は意識を集中させた。
魔術や呪術を使う際には特にそうする必要はないのだが、妖術を使用する際には何故かそうしないといけない。
しばらくして、俺の中の妖力が満ちてくるのを感じると、頭からぴょこんと狐耳が、そして尻からは狐の尻尾が生えてきた。
『ふにゃっ!?みっ、耳と尻尾!?
ヨウイチがケモ耳少年に!?
かっ、かかか…っ、可愛すぎん!?
モフモフさせて欲しいっ!!』
なんだかヘラーナの様子がおかしいが、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
俺は一時的に“妖狐”の人間態に変化すると、左手に妖力を集中させて、炎を纏わせる。
「『炎撃拳』っ!!」
炎を纏わせた拳でゴーストエンペラーの鎌を思いっきり殴る。
だが、当然その一撃だけでは鎌は砕けない。
一瞬、ゴーストエンペラーの鎌が炎に包まれるが、ゴーストエンペラーが鎌を一振りすると炎はたちまちに消えてしまった。
そこまで見越した上で、俺は続けざまに氷の精霊術を詠唱する。
「氷の精よ、集え!『アイスソード』っ!!」
右手に出現させた氷の剣で、再度ゴーストエンペラーの鎌を攻撃する。
先程の『炎撃拳』で熱せられた鎌を、『アイスソード』で急激に冷やしたことで、ゴーストエンペラーの鎌には無数のヒビが入る。
『ヒョロロ…ッ!?』
「とどめだ!『フィンガーミサイル』っ!!」
俺は右手の指先から『フィンガーミサイル』をヒビ割れた鎌目掛けて放ち、ついにゴーストエンペラーの鎌を砕くことに成功した。
『ヒョロロロロッ!?』
鎌が砕けた衝撃で再び体勢を崩したゴーストエンペラー。
そのスキに俺は空中で『縮地』を使い、一瞬でゴーストエンペラーの背後に回り込み、その背中に両手を付け、呪術の詠唱を始めた(ちなみにすでに狐耳と尻尾は消してある)。
「炎の呪いよ、我が力となりて、敵を滅せよ!『フレイムエンドバースト』ッ!!」
“吸血鬼”の使う炎の呪術、その最大術である『フレイムエンドバースト』は、対象を漆黒の炎の中に閉じ込め、その命を燃やし尽くす術、と言われているが厳密には少し違う。
対象はあくまで、生きているモノであり、その対象に宿る魂(あるいは魔獣などの核)全てを、その対象から引き剥がし、生きているモノを確実に殺すための術だ。
命を燃やし尽くすというよりは、確実に殺し尽くすという方が正しく、魂そのものを消滅させるわけではない。
そして、ゴーストというのは魂そのものであり、ゴーストエンペラーはそうした魂の塊だ。
『フレイムエンドバースト』では魂を燃やし尽くすことは出来ないので、一見意味がないように思えるが、狙いはそこではない。
『はぁ…、はぁ…、モフモフ、ケモ耳少年をモフモフ…、って、あら?もうケモ耳は終わりなん…?
…って、それどころやないっちゃん!!
えっと、それがあなたの秘策ってやつ?
でも、どれ程強力な炎でゴーストエンペラーを燃やしたとしても、ゴーストエンペラーは決して燃え尽きることは…、って、え…?
ゴーストエンペラーが、段々小さくなっていく…?』
狙い通りだ。
ヘラーナの言う通り、ゴーストエンペラーは漆黒の炎の中で徐々に小さくなっていっている。
「ゴースト、ってのは要はこの世に未練を残した魂だ。
つまり、呪いや妬みの塊ってわけだ」
『呪いや妬み、そうか!
呪術は、この世に満ちる呪いや妬みといった呪力を変換して使う術!』
「ご名答だよ、ヘラーナ」
物理的にも術的にも倒すことが出来ないなら、術のエネルギーとして消費してしまえばいい。
上手くいくかどうか分からない秘策ではあったが、成功して良かった。
『ヒョロ…、ロロロロ……』
そして、呪力を消費し尽くした、つまりこの世への未練がなくなったゴーストエンペラーは、静かに消滅していった。
「さて、これで残るはヘラーナ、おま、」
ヘラーナの方へ振り向いた俺の顔に、突然「ふにょん♪」と柔らかいモノが押し付けられた。
『キャアアアアアアッ!!
さすがヨウイチ!!やるじゃない!!私の思った通り、いえ、思った以上の強さやね!!
惚れ直したっちゃん!!大好き!!結婚して!!』
「え…、えっ、えええええええっ!?!?」
突然、何をされて何を言われたのか脳が処理しきれないでいると、そこへスケルトンキングとカイザーゾンビを倒したツキヒ姉ちゃんが文字通り飛んできた。
「あっ!?あ゛ぁあああああああっ!?
きさん、なんしよかちゃあっ、ウチのヨウイチに乳押し付けよって!?
くらすぞ、きさん!?」
よく博多弁はカワイイなどと世間では言われているが、一方で北九州弁はどちらかというと汚い、荒いという印象を受ける(※個人の感想です)。
などと関係の無いことを思うくらいには思考が現実逃避していた。
え、なんで敵であるハズのヘラーナのおっぱいが俺の顔に押し付けられてるの…?
いや、というか惚れ直した?好き?結婚して?
わけがわからないよ!!
「おらぁ!ヨウイチから離れろちゃ!!」
『あぁん!なんするん!?』
「なんするんとはこっちのセリフっちゃ!!
ヘラーナ、あんたどういうつもり!?」
『どういうつもりも何も…、つ、つい、2000年も抑えてた感情が抑えきれんくなったっちゅーか……
うぅ…、ご、ごめんなさい……』
急に正気に戻ったというのか、ヘラーナは大人しくなり、両手を胸の前でモジモジと合わせながら恥ずかしがり始めた。
…正直に言おう、フードの下からでもなんとなく分かる、その恥ずかしがる様は、控え目に言って、
「「カワイイ…」」
なんとツキヒ姉ちゃんとセリフが被ってしまった。
「…はっ!?いやいや、そうやなかっちゃん!!
ヘラーナ!!あんた、2000年も抑えてた感情ち、まさか…、」
『うぅ…、そ、そうよ!
私はヨウイチに、ヨウ王子に一目惚れしたのよ!!』
「「はぁあああああああっ!?」」
これまたツキヒ姉ちゃんと被る。
「いっ、いやいや!?なんでそうなる!?いや、なった!?
俺とお前は敵同士で、あの時だってそんな素振りは一切…、」
いや、そもそもヘラーナの顔は常にフードに隠れていて、素顔をまともに見たことはないから、戦闘中どんな顔をしていたか、までは知らない。
でも、彼女の動作や言動からは、少なくとも俺に対する好意なんて、
「いや、ヨウイチはあからさまに女子から好意向けられても気付かんっちゃろ?
話聞く限り、前世でも結構な数の女子から好かれとったらしいやん?
“炎帝石”のフィオナの好意にも気付いとらんかったやろ?」
「そ、それは…、」
『まぁ、ヨウイチは筋金入りの病気ですからね』
「本当、その病気のせいで、一体前世でどんだけの女子達を泣かせてきたことやら…」
酷い言われようだが、否定出来ない…
『まぁ、そんなヨウイチを好きになってしまった私もまたどうかしてるとは思うけどね。
きっかけは、そうね、あなたが私を完膚なきまでに打ち負かしてくれたからかしら?』
「ん?ヘラーナはひょっとしてマゾかなんかなん?」
『違うわよ!いや、違わなくもないけど…、ってなん言わせよると!?』
「そっちが勝手に言ったっちゃろうもん」
『コホン…、まぁいいわ。
当時の私は、というか今でもだけど、六魔皇の中でもそれなりの実力者として恐れられていたわ』
【死霊使い】のヘラーナは、序列第三位だ。
単純に序列が高ければ強いというわけではないが、ヘラーナに関しては第三位というに相応しい実力の持ち主であることは間違いない。
「まぁ、不死身、というか不滅に近い死霊をあれだけの数操れるんやけん、対処法がなきゃ勝ち目はほぼ無いもんな」
『ええ。
だからこそ、不利な環境である“ワールドフラワレス”においても、負けるつもりなんか一切無く、実際多くの精霊術師達を倒してきたわ。
だから、本当に初めてだったのよ、私がほぼ何も出来ず、完敗を喫したのは…』
『その時の、戦ってるあなたの姿がとてもカッコ良かったの、
ろくに恋もせず、ひたすら死霊術の研究と研鑽に励んでた私が一目惚れするくらいには…』
なんというか、我が事ながら、何というご都合主義というか、ラノベ的展開というか…
今時そんなあやふやな理由で敵幹部が主人公に恋するなんて展開、どこのラノベだって採用しないだろうというようなベタな展開だ。
『今ヨウイチが考えていることは痛いほど分かるわ。
こんなベタなラブコメ展開、壁サークル常連の私なら絶対描かないもの』
「壁サークル常連…?ヘラーナ、お前、」
『でも仕方なかっちゃん!?好きになってしまったもんは事実やもん!!』
「いや、それよりも壁サークルのことについて、」
「あー、まぁ、恋愛なんちそんなもんやしな、気持ちは分からんでもないっちゃけど…
でも、ヨウイチはダメ!
ただでさえ姉妹11人もおって、おまけにクローン姉妹なんてのもおるみたいやし、
これ以上ハーレム増えたらたまらんっちゃん!」
「いや、あの壁サークル、」
『そんなん分かっとる!!
やけん、ヨウ王子が転生するって魔王ヤミ様から聞いても、私のこの気持ちだけは知られんとこうって心に決めて、
あくまで六魔皇の一人として姉妹達の敵として立ちはだかろうち思っとったんに、よりによって相手がヨウイチって、なんなん!?
会った瞬間に抱き締めんかった私のこと逆に褒めて欲しいっちゃん!!』
「えっと、壁、」
「まぁ、ヘラーナの気持ちは分かった。
やけど、さっきも言った通り、他の姉妹が仮に認めたとしても、ウチはあんたのハーレム入りは認めん。
そもそもハーレム自体、本当は認めたくないっちゃけどね…
第一、姉妹でもないあんたがヨウイチに愛されることもなかろうしね」
どうやら壁サークルの件に関しては二人ともスルーらしい。
『そ、それも分かっとるし…
やけん黙っとこう思っとったのに。
ここで、ヨウイチに勝つことが出来れば、ヨウイチへの恋心も忘れて、新しい恋に生きようち思っとったんよ。
やけん、卑怯やとは思ったけど、ここでは絶対に倒されんハズのゴーストエンペラーを用意しとったのに、それをヨウイチがあっさり倒すんやもん…』
「それはヨウイチが悪いな」
「いや、なんでそうなる!?
倒さんと魔王ヤミの所へ行けんやん!?」
「まぁ確かに。
というか、魔王ヤミの所へ行くには、あとヘラーナも倒さんといかんっちゃなかったっけ?」
そうだ、すっかり忘れかけていたが、魔王ヤミの元へ行くにはヘラーナを倒さないといけないんだよな。
この状況でヘラーナを倒す?
俺を好きだと言ってくれた相手を?
そんなん出来る奴悪魔以外におらんやろ!?
いや、そもそも俺は敵味方関係なく女性に危害を加えるということが出来ない。
ラブではなくライクの意味で、俺は全ての女性のことが好きだからだ。
とはいえ、本当にどうしようもない外道(俺の愛する姉妹達に手を出すとか、人殺しをなんとも思わない奴とか)に対しては情け容赦なく滅ぼすが、ヘラーナに関してはそこまでの悪人ではない。
というか、六魔皇の大半に言えることだが、本当に外道な奴なんてローザンヌくらいじゃないか?
あれ?だとすると、魔王ヤミが俺達をヘラーナにぶつけたのは意図的?
俺にはヘラーナが倒せないから、一生この部屋から出られなくて俺達の敗北が決まってしまうから?
「ヨウイチ、お前どうやってヘラーナ倒す気やったと?」
「それはまぁ、なんというか、酷い目にあいたくなければ敗けを認めてくれって脅す、的な…?」
「そんなん、ドMなヘラーナなら、喜んで酷い目にあいにいくパターンやん!くっ殺展開やん!」
『誰がドMよ!?…くっ殺展開はちょっと良さそうやけど……
コホン…、そのことだけど、私の切札であるスケルトンキングとカイザーゾンビ、ゴーストエンペラーが敗れた以上、私の敗けでいいわ。
魔王ヤミ様の元へ通じる扉を開いてあげる』
ヘラーナがそう言うと、先程までいた不気味な空間が変化していき、普通のグレーな壁で覆われた部屋に変わり、その奥に赤い扉が現れた。
『あの扉の向こうで、魔王ヤミ様が待っているわ。
さ、早く進みなさい、きっと他の姉妹達もいるハズよ』
「ヘラーナ、」
『ヨウイチ、もう何も言わないで。
あなたからの返事は分かってるから。
これは、私のただの片想い、実らない恋なんて世界中にありふれてるんだから、気にしないで』
「いや、そうじゃなくて、ヘラーナってやっぱりオタクなのか?」
『気になったのそっち!?』
「いや、まぁ、なんというか…、俺や姉妹達にもオタク趣味があるし、この戦いが終わった後はそういう意味でも仲良くなれるかな、って。
だから、その、なんだ…、この戦いが終わったらさ、皆で一緒に趣味の話とかして楽しめないかな、って」
『…そうね、それはすごく楽しそうね。
いいわ、この戦いが終わったら、ね』
「ああ、きっとだぜ?」
『ええ、きっと』
そう言って、俺達は別れを告げたのだった。
ヘラーナから離れて、ツキヒ姉ちゃんが俺に小声で話しかけた。
「そういや、ヨウイチの方はどうなん?
アイツのこと、どう思っとーと?」
「いや、どう、って…
顔も見たことないから分かんないけど、まぁ、カワイイ人だな、とは…」
「好きか嫌いかで言うと?」
「そりゃ好きだよ、勿論ライクの意味で、だけどね。
趣味も合いそうだし、いい友達にはなれそうだな、って思ってるよ」
「ふーん、そっか。
まぁ、おっぱいも小さかったし、ヨウイチが好きになることはなさそうだなー」
『ちょっ!誰が貧乳で残念おっぱいですって!?
これでも80はあるわ!!あんた達がデカ過ぎるだけなんよ!!』
何故かかなり距離の離れた所からヘラーナのツッコミが聞こえてきた。
「そこまでは言ってねーし!!
というかバスト80なん?」
『そうよ!悪い!?』
「いや、悪かないっちゃけど…
というか地獄耳過ぎるやろ…」
最後に一悶着あったが、今度こそ俺達はヘラーナと別れ、赤い扉を開いて魔王ヤミの待つ間へと進むのだった。




